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安保法案成立後、最悪のシナリオは「米国が北朝鮮に先制攻撃」

安倍政権が採決を強行しようとしている安保法案。しかし万が一、アメリカと北朝鮮の間で有事が発生した場合、アメリカ側についた日本は無傷ではいられなくなる可能性がある、と指摘するのはコリア・レポートの編集長を務める辺真一さん。自身のメルマガ『辺真一のマル秘レポート』で、日本がアメリカの「番犬」になることの危険性について警告しています。

戦う理由がない日本と北朝鮮

本来、日本が北朝鮮と一戦交えなければならない必然性はない。日本と北朝鮮はパレスチナとイスラエルのような不倶戴天の関係にはない。日本が北朝鮮から狙われ、攻撃される謂われもない。

日本は北朝鮮を併合、統合する意思もなければ、国交はないものの主権国家として尊重している。日本は北朝鮮とは「撃ち方、止め」の状態にある米韓と違い、交戦国家でもない。従って、北朝鮮からミサイルで狙われる理由は何もない。北朝鮮が日本にミサイルを使う必然性もない。それでもミサイルを持っているから脅威に感じるならば、中国のそれも、ロシアのそれも、また韓国が開発した800kmの中距離ミサイルも同様に脅威に感じてしかるべきだ。

安倍政権は「ノドン」など北朝鮮が配備している数百発のミサイルが日本にとって脅威であるとしているが、地理を観れば一目瞭然だが、日本は北朝鮮との間には印パのような国境紛争も、あるいは日中や日ロ、日韓のような資源紛争も、領土問題も存在しない。広い日本海を共有していて、排他的経済水域もかち合ってない。中露韓とは異なり軍事衝突の火種は何一つない。

何と言っても、日朝間には2002年9月に小泉総理と金正日総書記の間で交わした「平壌宣言」という「歯止め」の担保がある。

前文で「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本姿勢に合致すると共に地域の平和と安定に大きく資するものとなるとの共通の認識を確認した」と謳っている。

小泉政権以後の安倍、福田、麻生、鳩山、菅、野田の歴代政権も、また今の安倍リターン政権もこの「平壌宣言」を踏襲している。自民党政権であっても、民主政権であっても、総理がタカ派あるいはハト派であっても「拉致と核とミサイル問題を包括的に解決し、過去を清算し、国交を正常化する」のが日本の対北朝鮮政策の基本方針となっている。

北朝鮮も同様で金正日総書記は生前、小泉元総理に「両国はこれまで近くて遠い関係にあった。首脳会談を契機に真の意味で『近くて近い国』とし『近くて遠い国』との言葉はもはや前世紀の古い遺物としたい。関係改善への共通の意思と努力で両国関係の新たな歴史のページを開きたい」と対日関係改善に意欲を示していた。

北朝鮮のミサイル問題を例に集団的自衛権の行使の必要性を説いている今の安倍政権も2014年5月に金正恩政権を相手に交わした日朝合意で「北朝鮮側と共に日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現する意思を改めて明らかにし、日朝間の信頼を醸成し関係改善を目指すため、誠実に臨む」と宣言している。

どう考えても、将来「結婚」を誓い合っている相手を一転して「仮想敵国」に想定して集団自衛権の行使や安保法案を認めさせようとする手法は説得力を欠く。但し、脅威に感じるとしたら、唯一の例外は、北朝鮮と米国もしくは韓国が交戦状態となり、日本が米韓に協力した場合のみ現実となる

北朝鮮の李スヨン外相が2014年8月にミャンマーで会談した岸田外相に「我々のミサイルは日本を対象にしたものではない」と言明したが、労働党機関紙・労働新聞は2013年3月18日付に日本を米国の追随勢力と位置付け仮に第二次朝鮮戦争が勃発すれば「日本も攻撃の対象になる」との個人の署名入り記事を掲載していた。それでも日本への攻撃には「米国が戦争を引き起こした場合」とか「自衛隊が戦争に介入すれば」との前提条件が付いていた。

仮に米朝や南北間戦争が勃発すれば、日本が巻き込まれ火の粉をかぶるのは目に見えている。日米安保条約の中(第6条)に日本の安全と、極東における国際平和と安全を維持するため米軍が日本の施設と区域を使用することが許されているからだ。

米朝が戦えば、朝鮮半島で火が噴けば、自動的に在日米軍は参戦する。沖縄から米海兵隊が朝鮮半島に上陸し、横須賀から米空母が出動し、そして三沢など在日米軍基地から戦闘爆撃機が発進されることになる。日米安保条約が適応され、日本は米軍の補給基地、兵站基地、あるいは後方基地になる。日本から武器弾薬、燃料など軍需救援物資が運ばれる。

仮に戦闘に直接加わらない後方支援であったとしても、北朝鮮は「準軍事行動」とみなす。その時は日本を対象にしてなかったミサイルの脅威にさらされることになるだろう。湾岸戦争の際、米軍に協力したことでイラクからミサイルを撃ち込まれたサウジアラビアの二の舞になるのは確実だ。このことについては韓国に亡命し、2010年に死去した黄ジャンヨプ元労働党書記も生前「朝鮮人民軍は戦争が起きれば、日本などに駐屯している米軍の基地を攻撃し、これらを無力化してこそ戦争に勝てると考えている」と証言していたことからも明白だ。

肝心の米朝交戦だが、北朝鮮が世界最強の米国先に手を出すことは常識では考えられない。犬の喧嘩に例えれば、スピッツがドーベルマンに喧嘩を仕掛けるようなものだ。北朝鮮がいかに米国を言葉で威嚇したとしてもそれは弱者の虚勢にしか聞こえない。しかし、その逆はあり得る。米国による北朝鮮への先制攻撃だ。

ブッシュ政権下でのアミテージ報告には「(北朝鮮が核とミサイル開発を放棄しなければ)最悪の場合は、核やミサイル基地に対する空爆も考慮する」と書かれてあった。また、オバマ政権下でも2012年4月17日、米太平洋軍のロックリア司令官(当時)が「北朝鮮が3度目の核実験を試みた場合、基地に対して局地攻撃を加える可能性もある」ことを明らかにしていた。

韓国国防部は野党から要求されている米韓連合軍作成の「作戦計画5015」の公開を渋っているが、実は、この計画の中にも北朝鮮の挑発を感知した場合北朝鮮の核やミサイルを除去するための先制攻撃の内容が含まれている。現実に、朝鮮半島有事は北朝鮮による先制攻撃ではなく、米国による先制攻撃によって引き起こされる可能性が大だ。

米国、あるいは日本が北朝鮮のミサイルを迎撃、あるいはミサイル基地を叩いた場合、どうなるか?

米韓合同軍事演習の真っただ中にあった2009年4月に北朝鮮が人工衛星と称する「光明星」を長距離ロケットを発射しようとした時、ゲーツ米国防長官(当時)が「発射すれば、迎撃も辞さない」と警告したのに対して人民軍参謀部が「(米国が)迎撃行動をとれば、迎撃手段だけでなく、本拠地にも報復打撃を開始する」との声明を出し、平壌の管制総合指揮所で父親の金正日総書記と共に発射を参観した金第一書記は「米国のイージス艦に迎撃されたら米国のイージス艦を、日本の艦船にやられたら日本の艦船を直ちに攻撃せよ」と報復を示唆していた。

朝鮮は2009年のテポドン発射の後に訪朝した米高官に対して「迎撃されれば、日米のイージス艦を撃沈する態勢にあった」と伝えていた。実際に金正恩氏の29歳の誕生日にあたる2012年1月8日に放映された金正恩活動記録映画をみると、金正恩氏は2009年4月5日のミサイル発射を金正日総書記と共に平壌の管制総合指揮所で参観していたことが判明している。問題は映画のナレーションで、なんと「仮に迎撃された場合、戦争する決意であった」との金第一書記(当時党中央軍事委員会副委員長)の言葉が流れていた。

当時、北朝鮮が攻撃手段の一環として特攻隊を編成し、スタンバイさせていたことが今年3月に金第一書記が航空部隊を視察した際に朝鮮中央通信が「(2009年4月の)光明星2号(テポドン)の発射の成功を保障するため作戦に参加し、偉勲を発揮した14人の戦闘飛行士らの偉勲を称えた記念碑の前で記念写真を撮った」と報道したことで判明した。

偉勲を称えられた14人は「党の命令貫徹のため死を覚悟し、決死戦に出て、肉弾自爆する」空軍パイロットのことであり、「肉弾自爆」とはまさに日本で言うところの「特攻隊」を指す。

安倍政権は、日本が米軍に協力しても戦争に巻きこまれることはない、むしろ抑止になると国民に説明しているが、こと朝鮮半島有事では米国の「番犬」となれば、100%戦争に巻きこまれることになるだろう。

image by: Shutterstock

 

『辺真一のマル秘レポート』

著者/辺真一
1947年東京生まれ、明治学院大学英文科卒業後、新聞記者(10年)を経て、フリージャーナリストへ。朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊、現編集長。毎回驚きの真実をリークするメルマガは人気を集めている。
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