先日掲載の記事「ここ2年、上海に起きた『進化』が日本を完全に周回遅れにしている」などでもご紹介した通り、都市インフラ等の進化が著しい東アジア諸国ですが、「カルチャーセンスの面でも日本が周辺諸国に追い抜かれる可能性がある」とするのは創造産業全般にわたって活躍中の高城剛さん。高城さんは自身のメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の中で、その根拠をここ数年の台湾の文化的な発展を例に上げながら解説するとともに、遠くない将来に起こる「東アジアカルチャーセンス大戦争」の勝敗が日本のインバウンドを大きく左右するとの見方を示しています。
すでに若者文化で後塵を拝している日本が、東アジアで出遅れる日
数日前に台北におりましたが、もはや日本の一都市と変わらない印象を受けました。10年前、いや5年前には、ここまでの感覚はありませんでした。しかし、この5年で東アジアを取り巻く環境は、抜本的に変わったように思います。
言葉は悪いのですが、台北は東京の劣化コピーのように数年前までは感じていました。しかし、いまは劣化を感じません。初心者がバンドを組むと、大抵は有名バンドのコピーからはじめ、その後、オリジナル曲を演奏するようになって、独自性を確立するようになります。都市も似たようなもので、近隣の成功都市を徹底的に学び、その後、オリジナルを目指すようになって、独自に発展するのです。
これは、2017年現在の台北の話ですが、今後、同じようなことが中国全土で起きると予測されます。このメールマガジンでもよく取り上げます深センは、すでに人口1,000万人を突破し、四川省の省都の成都が1,500万人、また、重慶に至っては人口3,000万人を超え、東京より巨大化しています。
これらの新興都市は、北京や上海のような強い独自の文化を持つ街と違い、急速に発展した東アジアの大都市で、文化的かつサービスクオリティ的には、北京や上海より東京を目指しているように思え、それゆえ、現在これらの都市から日本に遊び、かつ学びに多くの人たちが押し寄せています。
台北の文化的な発展を振り返れば、数年前まで「変な髪型のオッさん」が、まだ街中にいっぱいいました。しかし、いまは街中で見かけることは、滅多にありません。近代建築は、お金をかければ似たようなものを作ることができますが、個人のセンスは、一朝一夕で変わらないものです。このセンスの差が、東京と台北の大きな差だったわけですが、その差がほとんどなくなったように思うのです。特に女性のメイクやファッションに、センスの均質化を見ます。
一方、重慶や深センには、「変な髪型のオッさん」が、まだ街中にいます。ですが、台北同様に街中でみかけなくなるのも、そう遠くないように思うのです。ということは、センスのレベルにおいて、そう遠くない先に東アジアがひとつになり、いままで、そのギャップで先行していた日本は、立ち行かなくなることも予測されます。
それどころか、いまの日本の十代前半は、逆に東アジアの隣国から強い影響を受けるようになるのかもしれませんし、センスを中心に考えるビジネスならば、東アジア全般をひとつのマーケットとして、いまよりもう一段深く考える時代になると思います。
ただし、長い歴史を持つ食文化の壁を越えるのは、困難を極めるでしょう。そう考えると、サービス業より出店や在庫リスクがないコンテンツ産業全般に可能性を見い出せます。かつて、日本で韓国コンテンツが勃興し、過ぎ去ってみると、国策や日本のテレビ業界や芸能界の思惑にすぎなかったことが露呈しましたが、国内のコンテンツ産業をあらためて鑑みれば、典型的な地場産業のテレビ局や広告に紐づく作品が大半で、独自性が乏しく見え、タイの方が進んでいるのではないか、と考えるほどです。
これから10年近くかかるかもしれませんが、東アジアのセンスがほぼ均質化した時、日本発のコンテンツが東アジアを席巻するのか、もしくは、逆に日本が席巻されてしまうのか。良い悪いはさておき、若年層のセルフィー文化を見る限り、すでに日本は後塵を拝しているように見えます。ですが、センスとはお金をかけられない時にこそ、あたらしい表現は生まれます。
ピカソの傑作「ゲルニカ」は言うに及ばず、かつて米国が大不況に喘いでいた80年代に、ポップアートやヒップホップが花開いたように、もし、今後日本が他国より先に大不況や有事に突入したら、ラグジュアリーではない表現が次々と生まれ、大きく先行する可能性もあります。
来たる「東アジアカルチャーセンス大戦争」の勝敗によって、日本に訪れる海外からの観光客数も、今後大きく変わるはずです。いくら文化財を英語で紹介しても、円高とセンスの先行性がなければ、インバウンドは激減する可能性が高いと考えるべきでしょう。
今週、東京と台北を見る限り、その時は遠くありません。
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