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学校歴より学習歴。教育のプロが語る「新入試制度」の就活への影響

2020年から新しい制度に改定されることが決まった日本の大学入試制度。受験勉強を突破するだけの入試から、より実用的な能力を問う方向性に変わっていくことが予想されていますが、具体的に日本の受験制度や大学はどのように変わっていくのでしょうか? まぐまぐの新サービス「mine」で記事を公開している高濱正伸さんの「花まる学習会」の進学部門、スクールFCの松島伸浩さんは、具体的な大学の方針を紹介しつつ、卒業後の就職活動への影響にも言及。今後は「学校歴」よりも何を学んできたのかという「学習歴」が重視される時代が到来すると予想しています。

学校歴から学習歴の時代へ

花まる学習会の進学部門、スクールFCの松島です。

2020年度から新しい大学入試が始まります。2013年、改革案が発表された当初は、センター試験を廃止して、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定するための到達度テストを導入するということで、教育業界にも大きなインパクトを与えました。そして今春には入試モデルが公表され、11月には全国約1900校の高校で試行されました。

今回の大学入試改革は高大接続改革の一環として行われます。大学は、分数ができない大学生の学び直しの場ではなく、その役割は社会で通用するための教養や経験を積ませることであり、技術の開発、研究を進める場所でなければなりません。新しく導入される2つのテスト(高等学校基礎学力テスト、大学入学共通テスト)は、高校での基礎学力の維持と大学の教育機関としての質を担保するためのテストです。

グローバル化において日本の大学は世界の中で遅れをとっていると言われています。イギリスの教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が公表した「世界大学ランキング2018」では、東京大学は過去最低の46位となりました。もちろん評価項目が日本の大学にそぐわないという見方もありますが、研究開発費や人材の多様性など様々な面において、世界との差があることも事実です。そして、こうしたことがひいては国際競争力の差となってくることが懸念されているわけです。

そこで文科省は2017年4月から、「入学者受け入れの方針(アドミッション・ポリシー)、教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)、卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」の3つの方針について、一貫性のあるものを策定し公表することを、すべての大学に義務付けました。

ディプロマ・ポリシーとは、どのような力を身につけた者に卒業の認定や学位の授与をするのか、その基本方針を定めたものであり、それを達成するためにどのような教育課程の編成をするのか、教育内容の実施をするのか、またその成果をどのように評価するのかを定めたものがカリキュラム・ポリシーです。

そして、アドミッション・ポリシーとは、ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシーを踏まえたうえで、どのような入学者を受け入れるのかという基本方針であり、入学者に求める学習成果を示すものです。この学習成果とは、新しい大学入試で求められる「学力の3要素」を指しており、(1)知識・技能、(2)思考力・表現力・判断力等の能力、(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度のことを言います。

大学でどんな学びができるのか、その結果どんな力が身につくのか、そしてどんな学生に来てほしいのかを具体的に示すことは、受験生にとっても大学で何を学びたいのか、どこの大学を選ぶのかなどの指針となり、入学後に起きる大学と学生とのミスマッチを減らすことにもつながります。

さらに学生を採用する企業側にとっても、一部の学歴フィルターと言われるような入り口の偏差値や知名度に頼った採用から、「あなたは大学で何を学んできましたか」「入社してあなたは何ができますか」という学習歴を重視する人物評価の採用にシフトしていくことが可能になるのです。

実際に株式会社リクルートキャリアの就職みらい研究所が発行する「就職白書2017」によれば、「企業が採用基準で重視する項目」の1位は「人柄92.9%」、2位「その企業への熱意76.1%」、3位「今後の可能性68.8%」となっており、「大学・大学院名」は11位で14.7%でした(「大学・大学院名」については2014年の同調査とくらべて5.3%減少)。すでに一部の企業を除けば、学校歴が就職活動に有利にはたらく時代は終わりに近づいていると言えるのです。

大学入試に話を戻すと、今後各大学でおける個別入試では、アドミッション・ポリシーに基づいた様々な形での選抜方法がとられるようになっていきます。

学力はもとより「高校までにどんなことに興味・関心を持ち、どんな活動をしてきたのか」ということがこれまで以上に重視される可能性もあります。それは、どの学齢期においても受け身ではなく目的をもって主体的に学ぼうとする姿勢が求められることでもあります。逆に言えば、今後は、そうした主体性を育んでくれる教育システムや学習環境が整った学校に人気が集まり、学校側も明確な教育方針や特色を打ち出していかないと、少子化が進む中で生き残ることが難しくなるかもしれません。

一方、受験する側は学校の名前や偏差値だけで選ぶのではなく、将来を向けて自らの学習歴や強みをどう生かし伸ばしていくのか、そうした視点での学校選びこそが大切になっていきます。実際に中学受験の世界でも、2020年に向けて学校改革に積極的に取り組んでいる学校は増えていますし、保護者の方の受験に対する考え方にも変化が出てきていると感じています。

今回の大学入試改革によって、日本の受験システムが100メートル走を全員で走るような一種目全員参加型から、それぞれの得意技を生かせる多種目個人参加型に変わっていくなら、受験そのものが、自らの特性を知り、深め、磨いていくための真の成長の機会となり、その過程で得られる豊かな経験知、多様な学習歴こそが、新時代のエリートの条件になっていくのではないでしょうか。 

image by: Shutterstock

高濱正伸

高濱正伸

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花まる学習会代表。1959年熊本県人吉市生まれ。 県立熊本高校卒業後、東京大学へ入学。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。算数オリンピック委員会理事。 1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学3年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、延べ50000人を引率した実績がある。 各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。 ロングセラー『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』ほか、『小3までに育てたい算数脳』『わが子を「メシが食える大人」に育てる』『算数脳なぞぺー』『中学受験合格パスポート』『中学受験に失敗しない』など、著書多数。 「情熱大陸」「カンブリア宮殿」「ソロモン流」など、数多くのメディアに紹介されて大反響。週刊ダイヤモンドの連載を始め、朝日新聞土曜版「be」や雑誌「AERA with Kids」などに多数登場している。2016年7月からニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー。 高濱正伸とスクールFCの達人講師陣による、他メディアには書けない記事にご期待ください。

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