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「エルサレム首都認定」への反応でわかったアラブ諸国の本当の敵

12月6日、エルサレムをイスラエルの首都と認定し、各国からの批判を一身に集めているトランプ米大統領。アラブ諸国からも非難の声が挙がっていると報じられていますが、「マスコミ報道とは異なり、親米アラブ諸国の政権との関係は損なっていない」とするのは静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さん。西さんは軍事アナリストの小川和久さんが主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』で、その理由を記すとともに、アラブ諸国に「中東紛争=パレスチナ問題」という認識は存在しないと結んでいます。

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通り一遍のマスコミ報道とは異なり、トランプ米大統領が12月6日、エルサレムをイスラエルの首都として承認したことは、エルサレムの聖地の管理権をもつヨルダンを例外として、親米アラブ諸国の政権との関係を損なっていない。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、トランプ政権そしてイスラエルは、イランを中東最大の脅威と認識し、ガザ地区のハマス(イスラム抵抗運動)を含むムスリム同胞団を警戒ないし敵視している点で一致しているからだ。

サウジアラビアは、エルサレムに関するトランプ大統領の動きがまだ報道されていなかった11月21日の時点で、「リヤドはエルサレムよりも大事」という宣伝を、ツイッターのハッシュタグなどソーシャルメディアで行っていた。この日、アラブ連盟外相会議は、レバノンのシーア派武装勢力ヒズボラをテロ組織に指定し、ハマスはその決議に従うことを拒否した。また、サウジアラビアがカタールにハマスとの関係断絶を要請したことも、ハマスは批判した。

この宣伝によると、サウジ人はエルサレムとパレスチナ人の権利を守ることでは誰にも引けを取らないが、サウジアラビアの努力をパレスチナ当局が無視し、いくつかの「北方アラブ諸国」がイランと共にサウジアラビアに対する陰謀を企てていることに、警告しているのだという。

また、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は11月にパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領をリヤドへ招き、イスラエルに有利な中東和平案を示したと、12月3日以後、ニューヨークタイムズなどが報道している。

この和平案は、パレスチナ国の領土をヨルダン川西岸地区の複数の飛地とガザ地区に限ったうえで主権を制限し、西岸地区のイスラエル人入植地のほとんどはイスラエルが併合し、東エルサレムはパレスチナ国の首都として与えられず、パレスチナ難民とその子孫にはイスラエル国内への帰還権を認めないという、イスラエルの言い値に近いものだ。米国の歴代政権も、これほどイスラエル寄りの提案をしたことはない。

パレスチナ国が西岸地区の一部を失うことへの補償として、サルマン皇太子は、ガザ地区に隣接するエジプト領土(シナイ半島北部の岩石砂漠)を提案した。

実は、ガザ地区をシナイ半島へ拡大し、パレスチナ国の主な領域とすることは、イスラエル右派が、西岸地区の入植地と東エルサレムの併合を、アラブ諸国に容認させるための手段として、1990年代末から主張してきた。トランプ大統領の娘婿のクシュナー上級顧問の社会環境ではこのような構想が当然視されている。

その一方で、クシュナー氏は同年代のムハンマド皇太子と親しく、10月下旬にも米政府のジェイソン・グリーンブラット中東特使(元トランプ・オーガナイゼーション弁護士)とともにサウジアラビアを訪れ、ムハンマド皇太子と会談している。その機会にサウジ側が警告していれば、トランプ大統領が東西エルサレムの区別もしないで、イスラエルの首都として承認したとは考えにくい。

これは、少なくないアラブ諸国にとって中東紛争とはまず自国とイランやムスリム同胞団との争いであることを如実に物語っている。日本から眺めているように、中東紛争=パレスチナ問題という認識はそこには存在しないのだ。(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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