2月18日に行われた平昌オリンピックスピードスケート女子500メートルで、悲願の金メダルを手にした小平奈緒選手。同種目五輪3連覇が期待された韓国代表のイ・サンファ選手を下しての優勝となったわけですが、韓国ではどのように報じられているのでしょうか。無料メルマガ『キムチパワー』で韓国在住の日本人著者が、「21世紀の中でも『大事件』に数えられる出来事」として伝えてくださっています。
奈緒とサンファ
平昌五輪のスピードスケート女子500メートルが18日、当地の江陵オーバルで行われ、小平奈緒(31、相沢病院)が36秒94で五輪新記録をマーク。この記録で金メダルに輝いた。
奈緒は14組。ライバルの韓国のイ・サンファ(李相花)は次の15組。奈緒がオリンピック記録をマークした後の行動が全世界の(特に韓国の)人々を驚嘆させた。
静かに! というジェスチャーをしたのである。
おそらく次に控えているイ・サンファに対する最大の配慮だったものと思われる。自分は今オリンピック記録をたたき出したけど、次のサンファにもがんばってもらいたい。平常心でがんばるには観衆のドンちゃん騒ぎはよくない。そういう思いで静かにしてほしいというジェスチャーをしたのだろう。
観衆も奈緒のその合図をすぐ受け止め会場は静かになりイ・サンファのスタートは完璧の状態で実現した。はじめの200mくらいまではサンファのほうが早かった。結果的には奈緒の36秒94が五輪新記録かつ金メダルとなったけれど。
イ・サンファがレースを終えて奈緒の記録より下であることを確認する。サンファははじめは涙はなかったが、数秒後からはほとばしる涙にうずもれた。あの涙は、奈緒に負けて悔しいというよりは、3回のオリンピック、大怪我もありいろいろの挫折もあったなかでよくやってきたなあ、という自分への慰めの気持ちや、家族や世話になった人々への感謝、これで責任は果たせたという安堵感…、、そういった万感の思いが一度に湧きあがってきたからだと筆者は思う。一部マスコミは、奈緒に負けての悔し泣きみたいな書き方をしているけれど、決してそうではない。
サンファのレース後、奈緒がサンファに近づいていった。「いい記録が出せたね」とサンファ。「サンファもがんばったよね。あたし、今でもサンファのこと、尊敬してるんだ」「奈緒は、500だけじゃなく1,000にも1,500にも出てすごいよ。奈緒が一番だわ」
そんな会話があったみたいだ。筆者の想像の部分もちょっとあるけど、だいたいそんな対話がなされたと2月19日(月)朝の韓国のMBCというテレビがいっていた。奈緒を讃える報道が、今、韓国のどのテレビ・新聞でもやられている。21世紀の中でも「大事件」に数えられる出来事だと思う。
とにかく、奈緒がサンファを抱くようにして慰める絵が今回のオリンピックの最大の収穫である。
二人はライバルでありながら最大の親友でもあったらしい。奈緒がオランダに行くときに、空港までのタクシー代をサンファが出してくれたり、日本にサンファが遊びに来たときには、奈緒が最大のおもてなしをしたり。
こんな美しい関係を韓国と日本の間で作ることができるのだ。驚きと同時にかぎりない希望が湧く瞬間であった。
二人が女性だということも、大いに関係があると思う。女の恨みは、夏でも雪を降らせるなんて言い伝えがこちら韓国にはあるけれど、女の愛は、どんな氷でも溶かしてくれるということも事実だ。奈緒とサンファ(相花)。氷上に咲いた二つの大輪をいつまでも記憶しておきたいと思った。
男性性よりは女性性をもってやっていけば、おおくの問題もやわらかく対処しながら解きほぐしていくことができるものと思われる。女性性を大切にしていくべしだ。
サンファが奈緒にくず折れるようにして涙を流している絵を見るたびにこちらもとめどなく涙が流れてきてしまう。こんな感動を与えてくれた奈緒とサンファの二人に、最大の拍手を送りたい(こんなことぐらいしかできないのが残念だ)。
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