セクハラを巡っては、加害者と被害者の言い分が真っ向からぶつかることもあれば、微妙に食い違うケースもあります。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、セクハラ裁判で「確たる証拠」が出てこない場合でも、「被害者の言い分が信じられる」とされるケースについて取り上げています。
セクハラでお互いの言い分が食い違ったらどう判断すべきか
「自殺だと思ったら、殺人だった」
推理小説やサスペンスドラマによくある話です(出だしから物騒ですいません)。この場合、ほとんどのパターンとして犯人がばれるのは「矛盾」です。
例えば、コーヒーに毒薬をまぜて飲ませたら実は被害者はコーヒーが嫌いで普段は飲まない人だった、とかナイフで刺したあとにそれを右手にもたせて自殺にみせかけようとしたら実は被害者は左利きだった、とかなどです。
これはセクハラにも同じことが言えます。最初から加害者が全面的にその行為を認めている場合を除くと、ほとんどのケースで被害者と加害者でお互いの言い分が食い違ってきます。
「言った」「言ってない」「した」「してない」と、真逆になる場合もありますし、「言った」「そこまでは言ってない」「した」「そこまではしてない」と、微妙に違う場合もあります。
ただ、その場合も詳しく調べていくとどこかで「矛盾」がでてきます。加害者側が「そんなこと言ってない」と言っていたのにその内容を送ったメールがでてきたり、たまたま偶然現場を見ていた目撃者がいたりなどです。
そして、これは加害者側だけとは限りません。実際のある裁判では、被害者側が「休日出勤の際にセクハラを受けた」と言っていたにも関わらず、タイムカードを確認するとその日は出勤になっていなかったという例もあります。
ただ、ここで難しい問題になるのはお互いの言い分が食い違ったままどちらが正しいか判断できないときです。ではそのときはどうすれば良いでしょうか?
それについて裁判があります。あるコンピューター会社で部長職にある社員が、その部下2人にセクハラ発言や体を触ったりなどのセクハラ行為があったため懲戒解雇されました。それに納得がいかなかったその社員が裁判を起こしたのです。
ここで問題になったのがお互いの言い分の「食い違い」です。裁判中も「言っていないと主張していた内容のメールが出てきたり」「セクハラを受けたと主張していた日のタイムカードに打刻がなかったり」のような矛盾がでてこなかったのです。
では、その裁判はどうなったか。
会社が勝ちました。「セクハラはあった」と認められたのです。なぜか? それは「被害者の言い分は信用できる」と、認められたからです。その具体的な理由は下記の通りです。
- 被害者側の供述が、多岐にわたるものでそのどれもが具体的かつ詳細であり、不自然、不合理な点が見当たらない
- 被害者は加害者(上司)に以前から仕事上で高い評価を得ており、虚偽の供述をしてまで加害者を陥れる必要性がない
- 被害者である27歳独身の女性がセクハラ行為を第三者に話すことは相当に心理的抵抗があり、最初は供述することを拒んでさえいた(にもかかわらず、供述をした)
以上のことから「被害者の言い分は信じられる」としたのです。
いかがでしょうか。セクハラにおいてはこの言い分が食い違うというのは「よくある」ことです。その理由として、その行為に対するお互いの認識が違うという場合もありますが、「(たとえウソでも)言い張れば大丈夫」と考える人が多いというのもあるでしょう。
では、もしそうなった場合はどうすべきか。ポイントは3点です。
- セクハラ行為時点だけでなくその前後の事実関係を確認する
- 被害者と加害者の人間関係を確認する(関係は良好だったか、恨み等は無いか)
- 加害者の普段の行動を別の社員からも聞く(他の社員に対するセクハラやそれらしい行為は無かったか)
また、そもそものセクハラが起きないように定期的にセクハラ研修等を開催するのも会社としては必要でしょう。万が一、実際に問題が起きた場合は、「セクハラ研修などの対策をとっていたか」というのも裁判に影響します。
問題が起きない仕組みづくりも起こる前に進めていきたいですね(セクハラ研修を受講後に「こんなんじゃ、女性社員と会話ができないよ」という発言をした社員がセクハラと認定された裁判もあります。くれぐれもご注意を)。
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