1日2時間営業、しかも1人2杯までしか飲めないにもかかわらず行列が絶えないビールスタンドがあるのをご存知でしょうか。無料メルマガ『MBAが教える企業分析』の著者でMBAホルダーの青山烈士さんが今回取り上げるのは、広島の繁華街にある「ビールスタンド重富」。営業時間の倍以上、準備に手間をかける店主のこだわりと戦略・戦術とは?
顧客からは見えない部分
行列のできるビールスタンドを分析します。
戦略ショートストーリー
美味しいビールを飲みたい方をターゲットに「生ビールにかける飽くなき情熱」に支えられた「美味しいビールが飲める」等の強みで差別化しています。
サーバーや注ぎ方を変えることで、他では味わえない様々な味わいのビールを提供することで、顧客から支持を得ています。
■分析のポイント
顧客からは見えない部分
「ビールスタンド重富」において、特筆すべきは、営業時間「2時間」に対して、開店前の準備と閉店後の設備メンテナンスにかける時間の合計が「4時間から5時間」もかかっているということです。
オーナーである重富寛(しげとみゆたか)さんによると、ビールの美味しさの8割は、準備段階で決まるそうです。しかも、5割はグラス洗いで、残りの3割がサーバーやホースの洗浄、樽の管理、ガス圧の管理とのことです。これらをきちんと行うためには、4時間から5時間かかるということです。
営業時間の倍以上の時間をかけるわけですからね。徹底ぶりに頭が下がります。営業時間よりも準備の時間の方が長いお店はそうないでしょう。
一般的には、収益を確保するためにできる限り準備の時間を短縮(効率化)して営業時間を少しでも長くしようとする企業が多いです。「ビールスタンド重富」にとっては、効率化よりもビールを美味しく提供することの方が優先順位が高いということでしょう。
このように、ビールを美味しく提供するために妥協しない姿勢からは学ぶことが多いです。
当たり前ですが、準備段階は顧客からは見えないです。しかし、顧客からは見えない部分が勝負を決する大きな要因になるということを示している事例だと思います。
ビールを美味しく提供するためにここまで手間をかけてくれているのですから、顧客としても応援したい気持ちになるのではないでしょうか。
オーナーである重富寛(しげとみ ゆたか)さんはビールの注ぎ手を育成することにも力を入れているようですので、今後も注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):ビールスタンド
- 競合(お客様の選択肢):居酒屋 など
- 状況:国内のビールの市場規模は縮小傾向のようです。
■強み
1.美味しいビールが飲める
- ビールの美味しさを体感できる
- 澄み切ったグラスにマスターが心を込めて注いでくれる
2.いろいろな味わいのビールが楽しめる
- 同じ銘柄にも関わらず、サーバーや注ぎ方を変えることで、様々な味わいを実現
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
- 生ビールにかける飽くなき情熱
- ビールとサーバー(昭和式、平成式)の性質を理解し、サーバーとビールの相性を知り尽くしたマスター
- ビールを美味しく注ぐ技術
- グラス磨きや設備のメンテナンス、商品管理、温度管理などのノウハウ
上記のような、情熱やノウハウが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- 美味しいビールを飲みたい方
- ビールが苦手な方
◆戦術分析
■売り物
- 生ビール
(同じ銘柄のビールを、サーバーや注ぎ方を変えて様々な味わいを提供)
<メニュー>
- 壱度注ぎ(いちどつぎ)
→スッキリとした「元気一杯のビール」 - 弐度注ぎ
→なめらかな「のどごし」を楽しめる - 参度注ぎ
→マイルドな味わいのビール。炭酸や苦みが苦手な方におすすめ - 重富注ぎ
→キリッとした味わいのビール。クリーミーな泡と10年かけて考案した技とのコラボで完成する
その他、裏メニューも用意
※ おかわりは一杯まで(合計2杯まで)、おつまみなし(持ち込み不可)
■売り値
- 一杯500円
■売り方
- 予約不可
■売り場
- 広島県を代表する繁華街・流川に店舗を構えています
(酒屋の一角が立ち飲み場になっています) - 営業時間は夕方5時から7時までの2時間のみ
- 定員は10名
※売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: 重富寛 - Home | Facebook