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【書評】東大に留学した中国人ですら「天安門事件」を知らぬ理由

中国には言論・表現の自由が一切ないと言われていますが、その状況は日本人の想像以上のようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、ネットで政治風刺の漫画を発表したところ迫害を受けたため、日本に亡命してきた中国漫画家「辣椒」さんが描いた一冊。なぜここまで中国は人民を規制するのでしょうか。

マンガで読む 嘘つき中国共産党
辣椒・著 新潮社

中国亡命漫画家・辣椒『マンガで読む 嘘つき中国共産党』を読んだ。本名・王立銘、1973年新疆ウイグル自治区生まれ、政治風刺漫画をネットで発表後、中国政府の迫害を受け2014年から日本に滞在。「新潮45」「ニューズウィーク日本版」で連載を持つ。4コママンガだが情報量が多い

彼の漫画は中国では過激とされる内容なので、もちろん出版できない。香港、台湾、日本では大陸の政治事情に精通していないと分かりにくいので出版が難しく、「新潮45」で日本人向けに書き下ろした。ペンネーム・辣椒は唐辛子のことで、確かに辛口。「言論・表現の自由」など一切ない中国では、絶対に出版不可能である。

彼が描いた習近平を風刺した作品を転載しただけで拘束される。ネットで政治的に“敏感”な発言を続けると警察が来る。東京にいる中国人留学生が実家に電話をして、中国共産党の悪口を言ったら、翌日警察が実家に来たという話もある。電話の会話記録から“敏感単語”をAIで洗い出し、発言者を特定する。

規制強化は習近平の方針もあるが、取り締まる側にも問題な人物を多く見せかけ予算や人員を増やしたいという思惑が動く。治安維持予算は国防予算を超えている。もし経済成長が鈍化したら、さまざまな問題が表面化する。まさにそこが習政権のアキレス腱だ、と阿古智子・東京大学准教授との対談で言う。

人民が習近平を好むのは、腐敗・汚職の取締りを進めているからだ。ろくに裁判にもかけず罪を着せる非常に危ういやり方だ。腐敗撲滅で政敵を多く作っているので、引退後に復讐されないためにも延命策を講じるだろう。習近平は共産党の指導者に相応しい要件を満たす上に、メディアの使い方に秀でている。

リベラル派を徹底的に弾圧する一方で、五毛党共産党に有利な意見をネットに書き込むアルバイト。一件あたり五毛:約10円)を使ったり、ネットを通じた宣伝活動が巧妙だ。無報酬のボランティアも沢山いる。大学生が中心で、党に有利な描き込みを続ける。党組織から高評価を得て就職に有利になるからだ。

ネット上では天安門事件関係の情報は根こそぎ削除されている。辣椒はこっそり情報を収集していたから知っているが、周囲の人は誰も天安門事件を知らない。東大に留学しているような学生でさえ知らない。一部の楽観的な人は、インターネットが中国を変えるなどと言っているが、現実を知らな過ぎる。

中国には中華人民共和国中央軍事委員会と中国共産党中央軍事委員会という二つの組織があるが、メンバーは全部同じ。もし中国人民と中国共産党が対立したら、200万人の人民解放軍は共産党の側に立つということを確認している。解放軍の最大の仮想敵は、日本でも米国でもない。丸腰の中国人民なのだ。特筆すべきは肖像画の超絶のうまさである。ここまで描ける人は稀だ。

編集長 柴田忠男

image by: Carlos Huang / Shutterstock.com

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