教育の現場で頻発する「いじめ」を見つめ続けてきた無料メルマガ『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』。今回のテーマは、「甘やかされた子供」です。羽化直前のアゲハ蝶は、硬いさなぎの殻を破るためにもがき苦しみます。それを自力で乗り越えたからこそ、美しい羽根を拡げ飛ぶことができるのです。では、はさみで殻を破ってあげたらどうなるでしょう。記事では、多くの親が同じことをやってしまっていると訴えます。
甘やかされた子供
私はボーイスカウトの指導者が長かったので、様々な子供を見てきました。育つ環境は、本当に人それぞれです。大金持ちの家庭もいれば、経済的に大変な家庭もあり、偏差値も75から30台までと幅広く、兄弟の数から、出身地、趣味に体力にと、人の数だけの違いがありました。
その中でも「大丈夫かなあ」と心配になった子供は、大抵が、甘やかされた子供です。
夏の長期のキャンプ。「夏期野営」と言いますが、4泊5日は、初参加の小6には地獄だったでしょう。わが家にいれば、お母さんの上げ膳据え膳で、エアコンの効いた部屋でゲームでしょうが、ボーイスカウトのキャンプでは、寝ている時しか自分の時間はありません。右も左も分からない中で、ポリタンクで遠くまで水汲みに行かされるなどの下働きばかり。まだ技術も経験もありませんから、仕方ありません。班長や先輩の命令は絶対で、それより怖い指導者の眼も光っています。その地獄のキャンプを経験すると、ただの小学生が、ようやくスカウトらしくなります。
指導者側からすれば、4泊5日かけて、ようやく使えるスカウトに仕込むのですが、夏期野営の解散のセレモニーで、ご両親が迎えに来た瞬間にダメになってしまう子がいます。グダグダのただの小学生に戻るのです。仕方のないことですが、妙にがっかりしてしまいます。これが、夏のキャンプの後だけならば、少しは甘やかしても仕方ないかもしれません。しかしこの甘やかしを、のべつ幕なしでやられると、子供にとっては、麻薬と一緒です。これが問題なのです。
例えば、子供の代わりに、全てを保護者がしてしまう家庭があります。子供の着替えも、様々な準備も、身だしなみも何もかも全てです。会話しても、子供の代わりに保護者が返答しますし、判断や考えることですら、保護者が代わりにしてしまうのです。これでは猫を飼うのといっしょです。子供ではなくてペットです。
子供の面倒を、こんな風に、一生涯続けたいと強く願っていても、残念ながら、一般的に親は先に旅立つことになっています。
本人がしっかりしていれば、大きくなってきて、他人との違いに気が付きます。遅ればせながらも反抗期をむかえて親に反発し、この「鳥もちの愛」から抜け出て、親離れして自立できる子もいます。しかし大変なのは、飼いならされてペット化が完成してしまった子供です。抜き差しならない状況にまで追い込まれないと、自分が野生では生きていけない「ペット」であることには気付きません。
そして、気が付いたときには、大事な青少年期を棒に振っています。過保護・過干渉の保護者の下で、猫っ可愛がりされることで、牙を抜かれた家畜に成り下がってしまった子。「自分は親の盲目の愛によって、自立できない役立たずにされたんだ」、そのような恨み心が生じてもおかしくはありません。
「自分だけでは何もできない」
「親の保護の下でしか生きられない」
「社会の荒波は渡れない」
「他人との関係が築けない」
「異性と付き合うことなど考えられない」
自力で逃れられなければ、待っているのは、ニートに引きこもり、あるいは家庭内暴力。こんな子供たちの姿を見たくはありません。
心を病んだ若者が起こした、事件の報道を聞いても、被害者の悲惨さもさることながら、加害者の「絶望」も真に心に迫ります。成人になれば、責任は本人にあるのは当然ですが、保護者の育て方で何かできることがあったのではないかと、残念で仕方ありません。
子供に対する真の愛は、自立できるように育てることだと思います。自立するとは、自分で稼げることであり、それは社会の役に立つということです。社会に有用であるためには、厳しく育てることも必要です。
だから、甘やかしだけではなく、時には地獄の特訓も、砂糖菓子のような愛ではなく、スパイスの効いた栄養価の高い食事を与えることだって大切です。それは獅子が、わが子を千尋の谷に落とすのと同じです。
私たち親は、ついつい子供を親の所有物だと思いがちです。でもこれは間違いです。あくまで子供は、神様からの預かりものだと思うことです。だから、大事に有為な人材に育てるのです。これは、親の聖なる義務であると同時に、子供に対する本当の愛なんだと思います。
人は、安逸をむさぼるために、産まれてきたのではありません。他人や社会のお役に立つために、産まれてきたのです。
甘やかしや過保護は人をダメにします。時には「地獄の特訓」も子供が成長するきっかけになります。虐待になってしまっては本末転倒ですが、「優しさ8割、厳しさ2割」で接してみることをお勧めします。心がけることは「自立できる子」です。
古人曰く(いわく)「艱難(かんなん)汝を玉にす」。
こしがやじろう
image by: Shutterstock.com