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高市首相「私の代で拉致を解決する」は本気?安倍氏が残した「口先だけのやってるフリ」の轍を踏むのか

高市早苗首相は『金正恩委員長との直接対話も視野に、私の代で拉致問題を解決する』と、機会あるごとに繰り返し語っています。しかし、口では勇ましく語りながら結局は何もできずに終わった安倍晋三元首相と、同じ轍を踏むだけではないか――そんな懸念が拭えません。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、ジャーナリストの高野孟さんが、拉致取材30年の集大成ともいえる高世仁さんの近刊『拉致』を読み解き、なぜ問題が進展しないのかを問い直します。前編では、2002年の「5人生存、8人死亡」という北朝鮮の通知をめぐる悲劇に迫ります。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

高市首相は拉致問題で安倍同様の「口先だけのやってるフリ」に終わるのか?/高世仁の近刊『拉致』を読む《前編》

高市早苗首相は5月30日、北朝鮮による拉致被害者の帰国を求める「国民大集会」に出席し、「金正恩委員長との直接対話も視野に、私の代でなんとしても突破口を開いて拉致問題を解決する」と演説した。彼女は、これまでも同様の集会や官邸での家族会との面会(10/23、11/3、2/16など)でもその趣旨を繰り返している。

しかし、これは安倍晋三元首相が在任中に口では散々勇ましいことを言いながら、結局は行動として何も出来ずに終わったのと全く同じパターンを踏襲しているだけ。「家族会」の方々をさらに深く傷つける「口先詐欺」に終わることのないよう、高市を世論の監視下に置く必要がある。

拉致取材30年の現時点での到達点

折も折、拉致問題取材を30年続けてきたフリー・ジャーナリスト=高世仁の『拉致/封印された真実』(旬報社、26年3月刊 https://amzn.to/4xxYs4v )が出版された。上下巻合わせて729ページに及ぶ大作で、写真、地図、年表などの基礎資料も充実していて、著者が「毎日新聞」4月3日付夕刊「特集ワイド」のインタビューに答えて語っているように、彼とその仲間たちによる拉致徹底取材の「いわば現時点での到達点」である。このように問題の全体を俯瞰することによって初めて、「なぜ拉致問題がこれほどまでに進展しないのか」、その根本的な理由を探り出すことができるだろう。

とはいえ、ここではその全体を紹介する訳にはいかないので、本誌が特に関心を持った5つか6つのポイントだけを取り上げることにする。なお、参考までに本誌の北朝鮮及び拉致問題の記事一覧を文末に添付する。以下、《》内は高世書の直接引用で、他は本誌による要約や本誌の判断・意見。

「5人生存、8人死亡」という北の嘘

周知のように、長い間《北朝鮮当局が拉致を一貫して否定し、日本国内でも「拉致は本当にあったのか」という疑問が根強く残っていた。(P.167)》ところが2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝による金正日国防委員長との首脳会談で金は一転、拉致の事実を認めて謝罪し、事務レベル協議を通じて「5人生存、8人死亡、1人は未入境」との被害者の安否消息を明らかにした。生存者とされたのは、蓮池薫・祐木子夫妻、地村保志・富貴恵夫妻のほか、日本政府が調査対象として名前を挙げていなかった曽我ひとみの5人。すでに死亡した者とされたのは、横田めぐみ、田口八重子、市川修一、増元るみ子、原敕晁、有本恵子のほか、日本政府が被害者として認定していなかったものの欧州で拉致されたという石岡亨、松木薫を加えた8人だった。日本側が被害者と認定している久米裕と、曽我ひとみと一緒に拉致されたはずの母親の曽我ミヨシとについては、北朝鮮への「入境」の事実はないと主張した。

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本人確認せず鵜呑みにした政府

小泉はじめ日本政府の訪朝団は、この「5人生存、8人死亡」という通知を、生存とされた者の本人確認も、死亡とされた者の裏付け情報の取得も何もせずにそのまま受け入れ、直ちに被害者の家族などに伝達した。これでは、横田めぐみの母の早紀江が家族会の会見の場で《「いつ死んだかどうかも分からないようなことは信じることはできません」「まだ生きていると信じ続けて闘ってまいります」と訴えた」P.169》のは当然のことだった。実際にその後の日朝間のやり取りの中で、例えば横田めぐみの死亡時期を当初北朝鮮が出してきた死亡確認書では93年3月13日としていたのを、他の生存者から94年3月にめぐみを目撃したとの証言が出てくると、94年4月13日に修正するよう申し出るなど、杜撰極まりないものであることが露呈した。《02年10月29日及び30日にクアラルンプールで開催された第12回日朝国交正常化交渉においても、政府は150項目にわたる疑問点を指摘するとともに、更なる情報提供を要求したが、北朝鮮側からのまとまった回答はなかった。〔外務省公表の文書には〕「内容的にも一貫性に欠け、疑わしい点が多々含まれていた」と控えめに書いているが、北朝鮮は納得できる説明を一切行っていないどころか、書類を捏造してまで日本側を欺こうとしたのである。P.177》

小泉は、日朝国交樹立という外交的な金字塔を何としても打ち立てたかったし、金正日はそれに伴う賠償見合いの経済協力100億ドルを1日も早く手にしたかった。そのため、この発表を以て「拉致問題は決着」ということにして、早々に国交交渉に入ろうとすることで思惑は一致していた。そのため北側は、それらしい書類をデッチ上げたのは事実だが、それを《書類を捏造してまで日本側を欺こうとした》と言ってしまうのは、ちょっと可哀想だと私は思っている。主としては先代の金日成総書記時代の30年間に始まり実行された秘密工作機関による拉致作戦に、文書記録など残されているはずもなく、金正日としては《書類を捏造して》取り繕うより方法がなかったのだが、事務方のそのやり方が稚拙と言えるほどお粗末なものだったには、金正日にとっても誤算であったに違いない。《日本側を欺こうとした》のは日本側から見た結果論としてその通りであるけれども、邪悪な意図を持って欺こうとした訳でなく、なんとか辻褄を合わせて納得してもらおうと一所懸命にやったのに、こんな程度のものしか作れなかったというのが本当だろう。

憎悪を煽り続ける「救う会」と政治の退廃

しかし、早紀江をはじめ家族会の方々が「北は嘘ばっかりついている」「証拠がない以上、生きていると信じて闘う」と、北への不信を深め、生きていると信じるしかないという「祈り」のような思いを突き詰めていくのは当然のことだろう。そして家族会を支える「救う会」のような運動団体は、そこに日本会議系の右翼人士が関わりを強めるにつれ、ひたすら北朝鮮への憎悪を煽って、経済制裁強化の一本槍、もう少しで北の王朝は崩壊するから頑張るんだという路線に走り、家族会もそれに引っ張られていく。政治はそれに付いていくしかなく、皆で青リボンのバッジを胸につけて「やっているフリ」だけして実は何もやらないという退廃が蔓延する。

これを北朝鮮側から見れば、早く国交正常化を進めたいという(彼らにしてみれば!)善意からやったことが、こんなふうに悪様に言われて、「嫌ならもういいよ」という風に心を閉ざしてきたのだろう。こうして、最初の「5人生存、8人死亡」という通知で、北としてはその時点での精一杯を絞り出したつもりでいたところが「嘘つき」と言われて、最初から断層にはまり込んでしまったというのが、客観的に見た日朝関係の悲劇である。《以下、次号に続く》

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年6月8日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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