日本各地に方言があるように、アメリカでもヒスパニック・アフリカ系アメリカ人・アイルランド系・イタリア系とそれぞれが独自のアクセントを持ってます。AJCN Inc.代表で公益財団法人モラロジー研究所研究員の山岡鉄秀さんは無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』の中で、こうしたアクセントはアイデンティティの一つで、日本人も無理にアクセントを矯正する必要はないと力説します。
日本人の英語―日本語アクセントは格好悪いの?
全世界のアメ通読者の皆様、山岡鉄秀です。
日本人の英語下手は有名ですね。
理由はいろいろあると思いますが、ひとつは、英語と日本語が全く異なる言語だということです。文法はともかく、英語の方が音声体系が複雑ですから、大人になって英語を習っても、聞き取れない音がたくさん出てきてしまいます。
それに、勉強方法がまずいことも、もちろんありますね。私が中学の頃の英語授業なんて、今思い出してもひどいものです。
私も20代後半で留学しましたから、特にリスニングで苦労しましたし、今もベタな日本語アクセントで話しています。
参議院議員の青山繁治さんは、アメリカアクセントを習得されていますね。ご本人も、「私の英語は米語」とおっしゃっていました。相当努力されたのかもしれませんが、天才肌の方はあまり参考になりません。
私は英語で不自由しなくなってから、地域のコミュニティカレッジで開講されていた、「アクセント矯正コース」に通ったことがあります。「矯正」と言っても、英語では“Reduction”つまり、減殺と書きます。ここがミソですね。
いろんな人種の人たちが生徒として来ていました。「部下に僕が言うことを理解して欲しい」という中国人のマネージャーがいたのを覚えています。
ものすごく綺麗な英語を話す先生が来て、説明してくれました。
「みなさん、英語は難しい言語です。なぜならば、スペルと発音が一致しないからです」
「なるほどそうですねー」
「発音記号をすべて勉強し直してみましょう!」
「ちゃんと勉強したの初めてだなー。なるほど、違いが分かってきたなあ」
「さあ、早口言葉を練習して!」
「She sells seashells by the seashore…」
「よくできました。次の段階に進みましょう」
「はーい」
「実は、英語の実際の会話では、発音記号どおりに発音しないのです!」
「なんだそりゃあああ」
私は先生とも仲良くなって、楽しく取り組んでいました。効果があったかと言えば、多少ありました。通じやすくなって、聞き返されることが少なくなったと感じました。
ところが、意外なことが起こります。
オージーの友人に、アクセントリダクションコースに通っていることを話したところ、友人は表情を曇らせてこう言ったのです。
「日本語アクセントを失ってしまうと、あなたのアイデンティティが失われてしまう。日本人であることがあなたにとって大切なことなのよ」
びっくりしました。
オーストラリアに慣れ親しんでいるつもりでも、周囲は「日本人的キャラクター」を期待していたわけです。私が「クロコダイルダンディー」のようにふるまっても、オージーは喜ばない。むしろ、「ラスト・サムライ」の方が望ましい(笑)。
そういえば、オーストリア出身の俳優、アーノルドシュワルツネッガーも、独特のアクセントが彼のキャラの一部になっていますね。
「このコースを受けたぐらいで、アクセントが無くなったりしないから大丈夫ですよ」
と答えましたが、ちょっとした驚きでした。
それで、私なりの結論は以下のようなものです。
「大切なことは、相手がストレスなく聞き取れること。相手が苦労するほどアクセントが強いと何かと差し支える。支障がないレベルであれば、多少のアクセントはむしろキャラクターの一部となり、好意的に受け止められることもある」
もちろん、幼少期に移住してネイティブの発音が自然に身についていたら、それはそれでいいわけで、その場合は立ち居振る舞いも現地人化しているでしょう。
私のように、完全に成人してから移住した場合は、むしろ、日本人らしさ、が求められ、アクセントもその一部だったりするわけですね。
言い換えれば、周囲は私たちを通して日本を見ているわけで、私たちが尊敬されると、日本人は立派だな、日本は立派な国だな、となるわけです。
英語のアクセントからそのことに気付かされた、というお話でした。
山岡鉄秀 Twitter:https://twitter.com/jcn92977110
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