大手チェーン店では従業員の身だしなみについて事細かく基準が作られ、マニュアルもあります。しかし、無料メルマガ『飲食店経営塾』で著者の飲食店コンサルタント・中西敏弘さんは「個性のある店作りをしたければ、同じことをしてはいけない」と断言しています。その納得の理由とは?
身だしなみの基準を細かく作りすぎると…
「身だしなみの基準を細かく作って欲しいです! そうでないと、各店がバラつきがでますし、何が良くて、何がダメなのかわかりません」
とは、5店舗を経営する飲食店の会社で、アルバイトの初期研修カリキュラムを作成している際に、店長から会社にでた要望です。もちろん、身だしなみは大切ですし、基準がないと店長によって判断が異なり店によって違いが出てしまう可能性がありますからね…。
でも、もし明確で詳細な「身だしなみ」の基準を作ってそれを運用してしまうと、店長はただその「基準」に従ってアルバイトを指導するのみ、になってしまいませんか? それって、「マニュアルに従って、ただ行動している」ことと同じで、店長は何も考えなくてもいいということになりませんか?
多店舗化をめざす経営者さんに、機会あるごとに、この事例を出しながら、多店舗化についてのポイントをお話ししています。
社長が、大手チェーン店のような多店舗化をしたいなら、どんどん身だしなみの基準やマニュアルをつくりましょう! でなければ、店を増やしていくことは難しいです。
しかし、業態は同じであっても、「1店1店個性ある店つくり」がしたくて、さらに、人を活かした店つくりをしたいと考えているなら、大手チェーン店と同じことをしていてはいけません。
個性ある店つくり、人を活かす多店舗化を実現するためには、いかに、「個を活かす」かが大切になります。そうでなければ、「店」も「個」も生きないからです。
ただ、「個」を活かすと言っても、「個が勝手にやる(動く)」では、会社としての価値観もバラバラでまとまりもなくなりますし、質の一定化をはかることも難しいでしょう。
そこで、大切になるのが「理念」です。理念をもとに、会社の考え方や価値観を明文化し、これを「判断基準」として、各人が考えて行動する、というやり方をやります。
さきほどの身だしなみの例でいえば、身だしなみの基準を細かく決めてそれにスタッフを従わせるのではなく、身だしなみのあるべき姿をことばで纏めます。
仮に、「当店の身だしなみは、清潔感があって、お客様に不快感をあたえない状態」と決めます。そして、各店長は、この「身だしなみのあるべき姿」をもとに、各店長が判断すればいいということです。なので、場合によっては、「金髪でも髪をきちんとセットしていればいい」と考える店長もいれば、「いやいや、金髪はダメだし、長髪もダメ」という店長もいていいと思います。
店の「あるべき姿」に対して、各店長が自分で考え、そして、各店長が議論しながら、自社の身だしなみの「本質」を話し合ったりすることこそが、僕は店の質を高めることにつながると考えています。
このように各人が、「決められたことをただやる」というのではなく、各店長が会社の軸(理念等)を判断基準として、考え行動するという基本的な考えをもとに、仕組みつくりや教育を行っていく、というのが、僕が考える「個を活かす、人を活かす多店舗化のあり方」だと考えています。
なので、100店舗、200店舗と店を増やすことは難しいですが、仮に10店舗でも地域に根差し、永く地域から愛され、永続経営ができる会社作りにつながると僕は考えているのです。
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