2005年、都立の5つの大学・短大が統合し誕生した「首都大学東京」。その大学改革の手法や学名決定にあたっては、当時の石原都知事の「独断」への批判も報じられましたが、一連の騒動について「大学の私物化」とするのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、石原氏による大学改革は、現場が置き去りにされた面において加計学園問題と何ら変わりはないと断罪しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年9月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
都立大復活!―私物化された大学の後始末
先月、首都大学東京が2020年4月に「東京都立大学」に改名する手続きに入ったことを小池都知事が発表。昨日の都議会で、正式に報告され具体的な作業に入りました。
「都立大」に馴染深い世代としては、名称復活という前代未聞の事態に、「マジ? んったく。大作家の鶴の一声で変えるからだよ~」と文句のひとつやふたつ言いたくなります。
かつての「都立大」といえば首都圏の高校生の人気校です。特に人文学部は文系女子高生のあこがれの学部で、地味だけど、インテリ。「センスのいい頭の良さ」というイメージがあり、かくいう私も高校生のときに大学祭を見学に行きました。
まだ東横線の「都立大学前」にキャンパスがあった時代ですから相当昔です(苦笑)。
ですから、ニュースステーションでデビューし、当時、女子アナかつ報道キャスターでもって、キャリアウーマンのパイオニアでもある小宮悦子さんが都立大卒と知った時には、「やっぱね~。さすが都立大だ!」と、えらく興奮したのを覚えています。
そんな「頭のいい!」都立大ですが、残念なことに多くの優秀な国立大や地方大学がそうであるように、社会に出てからの知名度はいまいち。「都立大」ブランドは、「知る人ぞ知る大学」という渋い位置付けでした。
そんな状況下で、更なる知名度低下のきっかけになったのが、2005年の「大学名改名事件」です。
小泉政権のもと国立大学の統合と法人化が進められ、その一貫として東京都立大学、東京都立科学技術大学、東京都立保健科学大学、東京都立短期大学との統合が決まっていたところに、突然、石原都知事がしゃしゃり出た。
それまで協議されていた大学改革案を破棄し「まったく新しい大学」を作ると言いだしたのです。
しかも、「新大学」の名称の公募では、「東京都立大学」がトップ。ところが、石原氏は4位だった「首都大学」に「東京」を付ける名称を勝手に作り、「首都大学東京」が誕生しました。
「新銀行東京」(by 石原氏)なんてものもありましたから、大作家知事は「倒置法」がお好みのようです。ちなみに巨額の赤字を抱え、翻弄した「新銀行東京」は今年5月に東京都民銀行、八千代銀行と合併し、きらぼし銀行に名称で、華々しく再デビュー。
が、その2ヶ月後。きらぼし銀行の元行員が客の預金を着服した疑いがあるとして懲戒解雇されました。被害総額が6億7,900万円というのですが、驚きです。
いずれにせよ、石原都政時代の産物は奇妙なものばかり。特に大学改革に関しては、「大学」の私物化であり、社会的リソースである「大学」を権力を誇示するための道具でしかなく、金の亡者たちが群がっている様子が浮かんでしまいます。
加計学園の構図とは異なりますが、「現場」が置き去りにされていることは全く同じです。
都立大から首都大への移行期に教員だった知人は、「大学名を変えることに反対意見が多かった。改革のやり方も強引で有能な研究者や教員がやめたんです。教員が足らなくて経済学部が機能停止する事態にもなった。都立大が長年培ってきたリソースを失っただけの改革であり、最初から意味不明の改革だった」と嘆いていました。
さて、選挙期間中から豊洲移転問題まで、因縁の対決を繰り広げた小池知事。今回の「都立大問題」で金字塔を立てようなどと妙な色気を出さずに、「学問の自由」を学生も教員も謳歌できる改革をしてほしいと願うばかりです。
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年9月19日号)より一部抜粋