シンギュラリティ時代の「ノマド専門の住宅」とは
ーーそういうやっぱり、このソサエティもそうなんですけれどもっと教育とかもやられたいんじゃないかと思うんですが、どうですか。
中島:教育もプロジェクトのひとつとして立ち上げようと思っています。
最近は日本の小学校とかでも、インターネット教育を始めましょうだとか、児童にiPadを配りましょうという動きがありますけど、日本の場合その目的がいつしか「インターネットを入れること」「iPadを入れること」になっちゃうわけです。で、iPadを入れたらそこでみんな満足してしまって、役所は予算を使い切り、Appleは売り上げが上がり……で終わりなんですね。それじゃ、教育としてうまくいくはずがない。
そういうことは過去にもう何度も起こっていて、そのアプローチはもうどう見ても間違いなんです。そうではなくて、やっぱりもっと進化圧がかかった状況……例えば「自分の子どもは自閉症で学校に行けないけど、ちゃんとした教育を受けさせたい」というニーズ。マーケットとしてはものすごく小さいけれど、これはすごく激しい進化圧なわけです。
そんな人たちに向けた教育プログラム……学校に行けない子でも、インターネットやiPadといった道具を使って勉強できるようなシステムを作ってあげるというのは、ものすごく価値があるんじゃないかと思っていて、それはやりたいですよね。別に自閉症の子どもだけじゃなく、親がノマドで絶えず移動しているような家庭の子ども向けでもいいんですけど。
ーーなるほど。いじめで学校に行けない子どももいるでしょうし。
中島:そう。マーケットとしてはニッチだけれどニーズは確実にあるし、そのニーズがやっぱり強いところはいい進化圧がかかるので、いいものを作れるはずです。それに、こういうニッチを狙ったビジネスには、大きな企業は入ってこないから、それこそNPOでやればいいわけですよ。でも、それができてしまうと、その教育を受けたほうが普通の小学校に行くよりも、いい環境になるかもしれない。個人に合わせた教育ができるわけですから。
要は、教室と違って一人一人を見ていくので、賢い子はどんどん伸ばせばいいし、駄目な子はゆっくり指導していってあげられるので。そういうきめ細かな指導ができるのは、一人ずつ見ているからの利点があると。だから、結果としていい環境となる可能性が高いと思うんです。
こういった不登校児やノマドのための「教育システム2.0」は、先ほど話した自動運転時代を意識した人間が運転する新モビリティーサービスとともに、いち早く手掛けてみたいテーマですね。……あとは、実は住宅についても、ちょっと考えてることがあるんです。「ノマド専門の住宅」みたいな。
ーーそれはどういったものですか?
中島:家具とかが揃ってインターネットも完備している物件で、そこに1か月だけ季節がいいときに来て、そこで仕事をすると。1か月とかならビザも要らないから、ハワイに作るのもいいかもしれない。
基本はバケーションじゃなくて仕事に行くんで、「1か月単位でハワイで仕事をしないか」みたいな。それに1か月も居座るわけだから、オアフのワイキキのような観光地にある必要はないわけで、ちょっと不便な場所だけれど景色はよくて海岸があるみたいなところに、そういうのを建てて「1か月、働きませんか」って呼びかけたら、今の時代、来たがる人はたくさんいると思うんですよ。そういうのを、まずはハワイとかに造って、そのノウハウを今度は日本に持ってくると。地方自治体とかだと、人を呼びたいというところがあるから。
ーー例えば離島あたりに……。
中島:1か月居るだけなので、離島とかでも構わないわけですね。だから、今後のシンギュラリティ・ソサエティの切り口としては、移動・教育・住まい。……食べ物はまだ考えていないけれど、その辺をきちんと攻めるのがいいかなと。我々はシンギュラリティとかテクノロジーとか言っているけれど、実は取り組もうとしていることは、衣食住の問題といったすごく基本的なテーマなんです。
ーーシンギュラリティ時代の到来で働き方も変わるという話ですが、そのいっぽうでAIに仕事を奪われる人も出て来るとも言われています。中島さんは以前から、「今後はベーシックインカムという方法も一つの選択肢」とおっしゃっていますよね。
中島:そうですね。多分そういうベーシックインカムに近いものを、ゆくゆくは提供しないといけなくなると思います。でもその前に、その時のライフスタイルはどうあるべきかという議論はしなきゃいけなくて。
そう考えると、シンギュラリティ時代になると、財産を持つ必要があまりなくなると思うんですよ。もしくは財産を持てないんだけど、それでも生活は苦しくないという。そういう人こそ、さっきの「ノマド住宅」みたいなのがぴったりなんじゃないかなと。
別に大きい家を持つことも豪華な家具を持つことにもこだわっていなくて、ボランティアとかで世の中にちょっと貢献しつつ、楽しく暮らしていきたいと。そういった人のために1か月単位で暮らせる住宅があって、その費用がちょうどベーシックインカムでもらうお金で賄えるぐらいだったら、最高じゃないですか。
その場合、ハワイは無理かもしれないけれど、国内の過疎で困っている地域とかだったら、ちょうどいいんじゃないかなと。近所の農家とかとうまくコラボして、食材は近所から買って来ると。で、そこに共同キッチンがあって、みんなが交代で調理すると。要は、最低限のベーシックインカムがあれば、そこには住めますと。……それにしても、もったいないんですよね。日本には暮らしやすい場所がたくさんあるにもかかわらず、それが過疎化や少子化で消えていくというのは。
ーーやっぱり一極集中というか、そういう問題の解消は図っていかないといけないというか。
中島 ただ、先日ある地方都市の役所の人と話したんですけれど、やっぱり全然発想が違うんですよ。今言った「ノマド住宅」のようなマンション建ててと言ったら、「マンションはあり得ないですよ」「こんな田舎でマンションに住む人はいない」って、いきなり言われちゃって。それで何をしようとしているかと聞くと、「土地があるから分譲地として売りたい」って言うんだけれど、そんなの東京の人は絶対に買わないって。
ーー確かに(笑)。
中島:そもそも地方に住んでる人は、人はマンションなんかに住みたくないものだと思い込んでいるし、家は持つものだという発想で、その辺から今の人とズレているんです。クルマなんかでも自動運転の時代になったら、所有するものから必要に応じて借りる時代になるって言われてるじゃないですか。それと同じように、家もそうなるんじゃないかなと思っていて。
ーーそういう頭の硬い人たちの代わりに、これからの世の中のことを考えてあげるというのも、シンギュラリティ・ソサエティの一つの役割だったりするわけですね。
中島:そうですね。日本って、そういう新しいライフスタイルのある意味実験場として、すごくいい場所だと思うんです。特に今の東京って、その辺りの価値観が変化して来ている人が多いですから。
これを今のアメリカでしようとすると、「でも、やっぱり土地でしょう」っていう話になっちゃうんです。アメリカの成功物語というと、やっぱり大きい家を持って……みたいなのがどうしてもあるから。でも東京だと、それがもう既に成り立たなくなっている。土地を持とうと思ったら、通勤時間が1時間半とかになってしまうし、それが果たして幸せなのかという話になるわけで。
でも、じゃあ何が答えなのかというのが、今のところちゃんとしたものは誰も提供できていなない。例えば、ホリエモンぐらい尖った人なら「俺は家を持たない」とか言って、ホテル住まいを始めちゃうんだろうけど、普通の人はそこまでは距離がありすぎて、行けないんですよ。
ーー確かに、それは「堀江さんだからできる」っていうのはありますね。
中島:そこにギャップがあるんだけど、実際それは埋められると思うんです。しかし、そのギャップを埋めるアイデアは、地方自治体からも出てこないし、昔ながらの不動産ディベロッパーからも出てこない。だから、そこはきちんとニーズを持っている人たちから意見を聞いて、設計すると。
ーー最近は日本の企業でも、リモートワークを試すところも増えてきていますが、この「ノマド住宅」でその実験をしてもいいですよね。意外と仕事の効率が上がるかも。
中島:さっき話した「オンラインノマドホームスクール」のほうが、普通の小学校よりも効率が良くなる……みたいなのと同じで、リモートワークもうまくやると、普通の会社よりも生産効率上がると思うんです。日本の大きい会社って、何だかんだ言ってミーティングだとか取られる時間が、バカにならないほど多いですから。すでにソサエティに入ってきたメンバーでも、そういうのでお悩みの方は多いと思うので、まずリモートワークをやっていくための基本的なスキルとして、Slackの使い方を徹底的に教えようかなと。
Slackを使った僕らの仕事のペースを紹介してると、みんな目が点になるんですよ。例えば、僕は都内の電車の中で、有本君という友達は熊本で、岡島君はシアトルにいて、あるトピックに関して2時間ぐらいかけて話しているんですよ。で、僕は家に着いて、汗をかいたから「ちょっとシャワーを浴びてきます」とシャワーを浴びて戻ってきて、また話を続ける……というのも見せたりして「こうやって仕事するんだよ」と。こうすればミーティングとかで集まる必要もなくて、ちゃんと話が進むんだって。
そういうノマドライフスタイルでやっていくことで、以前よりも生産効率は上がるだろうし、同じ量の仕事をしてるのに自由時間が増えると。そういうSlackとかをうまく使った働き方は、最初はかなり敷居が高いというか、慣れていないから戸惑うと思いますけど、ぜひ実践して欲しいんですよね。
ーー最後にシンギュラリティ・ソサエティの将来についてですが、これから3年後、そして10年後に、どういう風な取り組みを行っていて、またどういう成果を挙げているかという展望を教えてください。
中島:3年後までには、今話したようなモビリティー・教育といったテーマに関しては、実際のプロジェクトがすでに動いていると。そのうえで教育のほうは、「これはすごい」と思ってくれている親が既にいる、そんな段階までは持っていきたいですよね。
モビリティーのほうは、全国の10か所の市町村でプロジェクトが立ち上がり、意外とうまくいっている。それでいて他の市町村もやりたいと言っている段階まで、3年後ぐらいには到達して、10年後ぐらいになるとそれが全国で当たり前になっている状況まで持っていければと。「放っておいたらローカル線はなくなり、バス会社も潰れ……みたいな状況になるのを、ソサエティが救いましたよ」というように言われるようになるのが、10年後の理想の姿ですね。
シンクタンクみたいなところは、ホワイトペーパーとか格好いいのは出すけれど、実際は何もやらないじゃないですか。でも、ウチは実際に行動するけど、ホワイトペーパーも書いていくみたいな。そういう風に確かな実績を積み重ねていけば、みんなも話を聞いてくれるようになると思うので、そこで政策提言を出したいんですよ。
政策提言と言っても、日本の政府だけに出すだけじゃなくて、もしかすると国連とかにも出すかもしれない。日本以外でもプロジェクトを立ち上げたいということで、NPOにしたところもありますからね。例えば少子化対策とか、それまでの日本で取り組んできた経験を生かして、ホワイトペーパーをどんどん出していって、それが世界各国で認められるという、そんな状況には10年後までには持っていければいいですね。
(聞き手・文/芳村篤志)
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日程:10月19日(金)
時間:18時00分~20時30分(受付開始:17時30分)
場所:DMMセミナールーム(住友不動産六本木グランドタワー 24F)
住所:東京都港区六本木3-2-1
主催:一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティ
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