中島聡インタビュー「通勤の必要がない社会はそこまで来ている」

日本のシンギュラリティ時代への備えは遅れている

ーーそもそも中島さんの中では、「シンギュラリティ」という言葉の基本的な定義について、どういうふうに考えてられるのでしょうか。

中島:シンギュラリティというと、多くの人が「人間の知能を超える」とおっしゃるじゃないですか。でも、そもそも「知能を超えるという状態」とはどうやって測るんだ、という話ですよね。例えば「チェスで勝つ」なら定義はできるけれど、コンピューターが人間より賢いというのは、いろんな評価があるわけだから、「今日から超えました」みたいにひとくちで言えるものじゃない。だから、そこを議論してもしょうがないと思います。

ただ僕が思うに、本格的なシンギュラリティというか、恐ろしい状況になるというのは、やはり人工知能が人工知能を設計できるようになった時に、それは多分起こると思うんです。例えば今なら、Googleやfacebook、あるいはマイクロソフトとかにいる賢い人間が、人工知能を設計して何らかの問題を解いているわけですが、ある時点で人工知能が人工知能を設計するようになると。それが起こると、その人工知能が設計した人工知能が、どんな設計で動いているかが人間には分からなくなるので、それは怖いなと。

実際にそれは現段階でも少し起こっていて……。例えば、画像認識の人工知能を作るとするじゃないですか。そうすると、例えば画像内にネコがいるかいないかを判断できるソフトウェアはできるんですけれど、実際にどうやって判断するかというところは、作っている人はもう分からないんです。多分その中を覗いていくと、実は耳がとんがってて、2つあって……みたいなのを見ているんだというのは、結果論では分かるんですけれど、その中身はどんどんブラックボックス化しているんです。

単なる画像認識ですらブラックボックス化しているのに、将来的にその人工知能が人工知能を設計するようになり、かつ特定の問題を解くんじゃなくて汎用の人工知能を作り始めたら、それこそどうやって動いているか誰も知らないコンピューターが誕生するんですよ。

ーー確かにそれは恐ろしいですよね。

中島:そう。それが変なことをしても、なぜしたか分からない。そういうことが起こり始めると、本当に取り返しのつかないことになるな、とは思います。それがいつぐらいに起こるかというのは、ちょっと読みにくいですけれど。

例えば、セキュリティーカメラが自動的に万引き犯を見つけてくれる機能を作ろうとすると。それ自体はニーズとして、明らかにあるじゃないですか。だから、みんな作ろうとするわけです。で、それが完成すると、かなりの率で万引き犯を捕まえるようになるんですが、1,000人に1人ぐらいの確率で間違った人を捕まえてしまうと。でも、そのカメラがどうやって万引き犯を見つけているのかが分からないから、それは防ぎようがないんです。「僕はしていない」と本人だけは知ってるんだけど、それでも捕まってしまう……。そんなことが、多分もう10年以内に起こるんじゃないですか。

ーー今の万引き犯のやつもそうですが、シンギュラリティが進むことで、いろんな問題が起こることもあると思います。例えば我々の労働という面では、今後どういったことが起こるとお考えですか。

中島:例えば昔あった力仕事は、クレーンだとかショベルカーに置き換えられましたが、細かい作業は今でも人間がしていますよね。それと同じように今度は、知識労働者の中でもある意味定型的な仕事をしている人……ネットニュースで読者受けがいいタイトルを考えるとかというのは、まだまだ人間の役割ですけど、例えば社員が出してきた伝票から数字を拾い出して、それを入力するみたいな、そういった定型的な作業はAIの得意分野なので、近いうちに人間じゃなくて機械がやるようになっちゃいますよね。

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こういう風に今後10〜20年ぐらいで、ホワイトカラーの人たちからガーっと仕事を奪っていき、その人たちが職を失う、もしくは最低賃金の仕事しかできなくなるということは、アメリカでは既に起こっています。よく、低収入の人から高収入の人まで、きれいなベルカーブを描くのが理想的って言われますが、このベルカーブがだんだん削られていって、下のほうがどんどん歪に膨らんでいって、あとはごく一部の金持ちがいるみたいな。そして、そこにすべての富が集中するみたいな状況は、ますます顕著になるんじゃないでしょうか。

ーーそんな話になっちゃうかもしれないということですね。

中島:アメリカの場合、数字を見るとすごいですよ。……正確な数値はパッと出てこないですけど、トップの1%がアメリカの富の20%を持っていて、トップ5%までいくと、もう富の80%を占めているとか。でも、それはしょうがない話でもあって、それに関してはちょっとまた別の話で解決しなきゃいけないんですけれど。

……とはいえ、今の社会システムや資本主義のまま進んでいくと、結局はAIとかを使って生産性を上げたり、利益率を上げることに成功した人たちにのみ富が行き、AIによって職を失った人が低所得者に流れ込むというのは、もう目に見えている。そこを何かをしないと、社会はすごく暗くなっちゃうと思います。

ーー全体的に見れば生産性は上がるんですけど、そこの個々にいる人たちはどうなるのかという問題は起こっているんですね。

中島:既にアメリカでは起こりつつあり、それが日本にも来て、国内情勢がすごく不安定になることも考えられる。人口の99%の人が、もう不満でしょうがないといったような……。そうしたら、「そういう人たちを助ける」「高収入者から税金いっぱい取るよ」と訴える人が、選挙で勝つわけじゃないですか。だから、何かは起こると思います。下手をするとファシズム的な人が……トランプなんかはその傾向があるんだけれど、そういう貧乏で困っている人たちからもてはやされる人が、変なことをしちゃうとか。別に金持ちから税金取るぐらいならいいんだけれど、人種差別をするとか戦争を始めるとか、そういう変な人間が選挙で勝つ可能性があって、それが考えられる一番暗い未来かなと。

シンギュラリティの時代になると人工知能が人間を支配するとか、そういうことを言う人もいますが、それ以前に、そういった人間がいるからこそ起こる戦争だったり貧富の差とか、そっちの問題のほうが先に起こると思います。

ーーそういう望んでもいない未来が来ることが考えられるとしても、この技術革新という波は止まらないものなんでしょうかね。

中島:止まらないですよね。でも、それはしょうがないです。解決すべき問題があれば解決するというのが、エンジニアの仕事なので、それが社会的にどう影響するかというマクロなところは、なかなか見られないものですし、だからといってその仕事を断れないですよ。

さっきの万引き発見ソフトみたいなものは、一番いい例ですよね。やっぱりそれはもう明らかにニーズもあるし、それをちゃんと作ればお金も入るから、エンジニアはガンガン作るわけですよ。でもそのせいで、本当に1,000人に1人か1万人に1人は冤罪を受ける人がいるんだけれど、それはしょうがないなみたいな。

ーーなるほど。世界はシンギュラリティの時代に着々と向かっているとのことですが、日本はその備えに関しては、やはり遅れているのでしょうか。

中島:遅れていますよね。シンギュラリティというのは別にこれから始まることじゃなくて、過去にパソコンが出てきて、インターネットが発達して、スマホが登場して……といった、もうその時代から始まっているわけですよ。そうすると、最近話題になっている“30年前のバブルだった時、企業価値世界トップ10が日本の企業ばかりだったのが、今はゼロ”というのが、日本のシンギュラリティ時代への備えが遅れていることを如実に表していると思うんです。

要はシンギュラリティというのは、今でこそちょっとしたバズワードで驚かれていますが、結局はIT革命ですよ。IT革命によって社会がガラッと変わって、そのなかで企業の新陳代謝が起こっているわけですよ。30年前に勝っていた会社と、今勝っている会社が違うのは当然なわけです、技術も違うわけだから。そこに日本のその会社がいないというのは、明らかに乗り遅れちゃったということで、それは新陳代謝がうまくいかなかったからなんです。

企業の新陳代謝というのは、元ある会社が生まれ変われるケースもあるけれど、通常は古い会社が潰れて別の会社が生まれるんですよね。さっき挙げた“企業価値世界トップ10”でも、アメリカの企業だと30年前はGEとかIBMが入ってたけど、今はその代わりにMicrosoftだったりFacebookという新しい会社が入ってるんです。それが、日本の会社に関しては新しい会社が一切なかったことについては、やっぱりよく考えてみて欲しいんです。

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そう考えると、やっぱり日本という国はベンチャー企業が作りにくいという現実が見えてくると。お金は集まらないし、人材も動かない。そのうえ政府が、大きな企業を無理やり生き永らえさせているから、小さい企業にはお金が回ってこないし、ビジネスチャンスも回ってこない。そういう状況は打破しないとマズイですし、それは政治のせいとはいっても、変えるのはやはり民間の力でやらないといけない。志のある有能な人間が、既存の大企業から抜けて起業するとか、あるいは会社に残って内部から変えるとか。

今、日本の大企業を牛耳っている人間たちは、もう変わらないわけですよ。定年目前で逃げ切り状態なんだから、そういう人たちに任せてもしょうがない。だから、もし会社の中に残るんだったら、その人たちから力だったりお金を何とか奪って、社内で面白いプロジェクトをやる体勢を作る。それが無理だったら、辞めて自分でベンチャー企業を創るとか、それぐらいの動きを今しないといけないし、そのリスクを取る価値は十分あると思いますよ。

ーーそんな状況でも、中島さんから見て日本という国は魅力的なものなんでしょうか。

中島:魅力はあると思いますよ。賢い人間はいっぱいいるし、あと何だかんだ言ってみんな新しいものが好きなんですよ、スマホにしてもインターネットにしても、面白くて良いものを作れば、コンシューマーはついてきてくれる。

ーーそうか、そういう性質はありますね。

中島:僕がメルマガとかで日本はガラパゴスだって言ってるのは、そういう意味もあって、要するに日本というちょっと特殊な状況でバッと進化させたものが、世界で通用するみたいなことが起こってもおかしくないわけですよね。一番いい例がiモードで、残念なことに失敗したんだけれど、ゲームなんかではうまくいっているわけじゃないですか、ポケモンにしろ。だから、それに近いようなことは、今後日本から起こるかもしれない。

あと逆に、例えば少子高齢化の問題が激しく迫っているのは、世界の中でも日本だけですよね。他にないすごい進化圧がかかっているから、そこで解決したノウハウは、輸出できるかもしれないですよね。困っているからこそいじりようがあるというか、そういう伸びしろが日本にはあると思うんです。

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