軸なきトランプ和平が招く「地獄のシナリオ」。停戦合意の裏で未解決のまま積み上がる重大なハードル

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ウクライナやガザをはじめ、世界各地の紛争の仲介に乗り込み続けるトランプ政権。しかしながらそれらほぼすべてが「根本解決」に至っていないと言っても過言ではありません。その原因はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、大きな理由のひとつとしてトランプ大統領の和平に対する「軸の不在」を指摘。その上で、トランプ政権のこのような姿勢が世界にもたらし得る「最悪の帰結」を予測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:軸なきトランプ和平がもたらす地獄のシナリオ

あくまで「中間選挙」のため。トランプが首を突っ込む“和平交渉”がさらなる混乱に陥る根本原因

「世界で最も長く続いた紛争の一つに終止符を打つ歴史的な合意を成し遂げた」

12月4日にコンゴ民主共和国(旧ザイール)とルワンダとの間で和平合意が成立した際、仲介を担ったトランプ大統領は自らの偉業をこう絶賛しました。

この紛争の詳細についてはあえて語りませんが、世界から忘れられ、およそ30年に渡って双方で数百万人の犠牲者を出し、コンゴ民主共和国内で多数の武装組織が互いに勢力争いを続ける紛争に、表向きピリオドをうつきっかけとなる合意を仲介したことは、“アメリカ、トランプ大統領だからできたこと”と称賛したいと思います。

しかし、「ルワンダ軍がいつコンゴ民主共和国から撤退するのか?」、「コンゴ民主共和国内の武装組織との調整はどうするのか?」といった大きな宿題は未解決のまま、両国政府のトップのみで結ばれた合意の履行は依然として重大なハードルとなると考えられます。

トランプ大統領が持っていた“軸”があるとすれば、「コンゴ民主共和国内に眠るレアアース(中国が権益を握る)へのアメリカ企業のアクセスを確保すること」ですが、これはトランプ大統領が就任以来手掛けていたすべての和平案件に共通する“軸“と言えます。

今、再燃しているタイとカンボジアの国境地帯を挟み、両国の国論をも巻き込んだ戦争は、同じくトランプ大統領の仲介の下(マレーシアと共に)、和平合意に漕ぎつけましたが、「今後どのように和平の実現および合意の履行を行うか」という肝心の部分は先送りされたにも関わらず、アメリカ企業による両国の資源開発および産業への関与という“経済的なディール”という軸は比較的詳細に記載されています。

ガザ停戦も同じで、「ガザ地区をアメリカが開発する」という、トランプ大統領の突拍子もない提案は、数か月経った今、国連安全保障理事会決議にも含まれ、それはトランプ大統領をトップとする暫定統治機構である「平和評議会」にガザの統治を移管し、多国籍部隊で構成するISFを発足させてガザの治安維持(とハマスの武装解除)に取り組むというアイデアが認められることとなっていますが、詳細なプランについては何も決まっていないばかりか、ハマスサイドの合意は得ていませんし、総論賛成・各論反対の姿勢を示すアラブ諸国も、ネタニエフ首相への強烈な不信感から、口先ではガザ再建への協力を宣言しつつも、コミットメントの詳細については口をつぐんでいます。

その背後には「パレスチナ国家の樹立の確約が条件」という、ネタニエフ首相が合意できない内容をアラブ諸国が突き付けていることもありますが、和平合意・停戦合意後も続くイスラエル軍による破壊行為と、レバノン、シリアなど周辺国に対する威嚇の継続などに対する抗議も存在します。

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