軸なきトランプ和平が招く「地獄のシナリオ」。停戦合意の裏で未解決のまま積み上がる重大なハードル

 

トランプがウクライナ停戦交渉で取りうる最悪のシナリオ

そしてそこに欧州各国が横やりを入れ、実際には何もオファーしないにもかかわらず、使い古されたStand by and with Ukraineを再度持ち出し、アメリカからもロシアからも相手にされない屈辱的な状況を変えるべく、ウクライナを餌に外交の表舞台にカムバックしようとしているようですが、これまでのところトランプ政権からは相手にされていないのが実情です。

欧州各国が存在感をアピールしようとする中、トランプ大統領は、盟友のウィトコフ氏と娘婿のジャレッド・クシュナー氏がお膳立てした停戦案を微調整した内容を、今週になってゼレンスキー大統領にぶつけ、「クリスマスまでに停戦を成し遂げるために、数日中に受け入れの可否を知らせること」と通告しています。

それに並行して、あまり政治的な発言をしてこなかったトランプJr.氏が「父が何を考えているかは誰にも分からないが」と前置きした上で、「このまま協議が進展せず、戦況が停滞するようなことがあれば、アメリカはロシアとウクライナの停戦協議の仲介から撤退するかもしれないと感じている」と観測気球を上げる動きに出ています。

ハッキリとした軸を持たない外交協議を行っているため、いろいろなシナリオが想定できてしまいますが、もしこのままウクライナが現行案に抵抗を示し、それに欧州各国が乗ってきて、協議のプロセスが長期化するような事態になれば、【紛争が半永久的に長期化する】か、【米ロがウクライナと欧州を見切り、ウクライナ抜きの合意を行う】か、または【アメリカが仲介から離脱し、対ウクライナ支援も停止する】かという3つの選択肢がありうるのではないかと考えます。

一つ目の場合、もしこのままロシア有利の戦況が鮮明化し、じわりじわりとロシアがドンバス地方への支配を固めていくような事態になれば、ウクライナは領土を失う恐れが出てきます。

ただこの場合、トランプ氏としては失敗の責任転嫁をする必要があるため、効力の有無は分かりませんが、形式上、対ロ制裁を発動するのではないかと思われます。この場合、痛みは伴いますが、ロシア勝利となり、欧州各国とNATOは、いつ訪れるかわからないロシアの脅威に晒され続ける未来が訪れることになりそうです。

2つ目の場合、ウクライナは国家として存続できたとしても、和平合意の内容は明らかにロシア優位の内容になり、ウクライナは引き続き領土割譲の圧力とロシアによる再侵攻の脅威に晒され続けることになります。

それはロシアにとってはウクライナの属国化を視野に入れた戦略に繋げることができ、トランプ大統領が変心しない限りは、時間をかけてウクライナを痛めつけることになりそうです。

ただ、アメリカ国内の最近の世論調査では、トランプ政権の姿勢がロシア寄りになっていることに対して、トランプ支持者(MAGA組)からも非難が出てきているため、トランプ大統領がその反対を押しとどめるためにも“合意”を急ぐか、この選択肢は葬るかのどちらかになるものと思われます。

そして3つ目の場合は、トランプ大統領は公約を断念することになりますが、ロシア・ウクライナ戦争から手を退き、米国からウクライナへの支援も打ち切られる可能性が高いことから、ウクライナの継戦能力が著しく落ち、戦闘継続は実質的に不可能になるため、ロシアが軍事的な優位を固定化し、時間をかけてウクライナ全土の掌握に乗り出す道が開けることになります。

軸が存在しないため、トランプ大統領がどのシナリオに近い動きをするのかは予測できませんが、トランプ政権はロシアとの戦略的安定の再構築を外交・安全保障の指針として掲げているため、どうしてもフォーカスは【いかにロシアとの関係を良好な状態に戻すか】に置かれていると考えられます。

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