結果的に「さらなる混乱」を作り出しているだけのトランプ
しかし、欧州の迷走は別に欧州だけの問題ではなく、同盟国であるアメリカの姿勢の不確定さという要素もあり、それは言い換えると軸のないトランプ外交の弊害とも言え、「アメリカの何を信じて政治的な決定を下していいのかが分からない」という混乱を欧州に与えていることも問題として考えられます。
ゆえに欧州としては確固たる対応が取れず、そこに各国内で拡大する厭戦機運と国内経済のスランプに対する不満の拡大、そして極右勢力の躍進などが重なり、結果として即時対応ができない組織になってしまったと言えます。
残念ながら、トランプ大統領が突き付けた回答期限がどの程度、unnegotiableなものか分かりませんが、確実なのはウクライナおよびゼレンスキー大統領に残された猶予はあまりなく、どのようなシナリオで今後進められたとしても、奇跡は起こりづらいというのが正直な感覚です。
ゼレンスキー大統領自身も行き詰まりを実感しているのか、「もう、ウクライナにはロシアからクリミアを取り戻す力はない」と公言していますが、これを額面通り諦めの表明と取るか、または欧米に対する即時支援の実施に対する強い要求と取るかは迷うところですが、個人的にはゼレンスキー大統領流の観測気球であるような気がしています。
この“クリミアは諦めざるを得ない”というメッセージを受けて、アメリカや欧州各国がどのような反応を見せ、どのような行動にでるのかを見極めたうえで、今後の進め方を決めようとしているように見えますが、いろいろと提供されている情報や分析内容を見る限り、あまり楽観的なものは見当たりません。
トランプ大統領が8つから9つの国際紛争の仲介に乗り出し、それぞれに停戦合意をもたらそうというのは、停滞していた紛争に停戦と言う出口を意識させ、そのためのプロセスを開始させたという点では、私は高く評価しているのですが、「どこに導きたいのか?」、「戦後、どのような国、地域、そして国際社会を想像するのか?」というビジョンが示されず、仲介や調停にあたっての一貫した姿勢や軸が存在しないため、非常に近視眼的な対応だと言わざるを得ず、中長期的な和平や情勢の安定ではなく、あくまでも来年の米連邦議会中間選挙に向けてできるだけ有利な状況を作りたいとの“内向きの理由”から国外の揉め事に首を突っ込んでいることにより、結果的にさらなる混乱を作り出していることが問題だと考えます。
ロシア・ウクライナ戦争に関わる案件も、ガザ停戦の第2段階も、それ以外の案件もすべてクリスマスまでの解決を狙っているようですが、どこも前向きな進展は見られず、存在するのはマントラのように“停戦”と叫ぶトランプ大統領の姿だけのようです。
このメルマガが皆様の元に届く頃、私はまた連夜の徹夜交渉の真っ最中かと思いますが、私も何かよい知らせや調停の成果をクリスマスには得たいなあと願いながら、今回のコラムを終えたいと思います。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年12月12日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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