ウクライナ国内で血祭りにあげられかねないゼレンスキー
また相次ぐ国内での汚職と身びいきの露呈、そして中央集権化を模索するゼレンスキー大統領の姿勢は政権の求心力を奪い、前線での兵士不足の深刻化も重なって、国内から停戦に対する圧力が加わる可能性が高まっていることも懸念事項です。
もちろん、その背後にはロシアによるソフトな戦争である“情報戦”があるのですが、ここにきて地方政府の知事とゼレンスキー大統領の確執や、キーウ市長の政治的野心の拡大とゼレンスキー大統領との確執などが鮮明化してきているのは事実で、このままだとロシアに軍事的にやられる前に、国内で血祭りにあげられるかもしれません。
そのような危険を本当に感じているのか、または欧米諸国(特にアメリカ)からの支援・支持を惹きつけるためのカードなのかは分かりませんが、今週に入ってゼレンスキー大統領は「条件が揃えば」という前置きをしつつも、「昨年5月以降先延ばしにされている大統領選を実施する用意がある」と明言して、大きな賭けに出ています。
ここでいう“条件”とは、選挙実施に当たっての戦闘の一時停止と欧米によるウクライナの安全の保証の確約なのですが、それを欧米諸国がウクライナに早期に提供できるかどうかは未知数ですし、ましてやプーチン大統領がこの“戦闘の一時停止”を呑み、額面通りに遵守するかは同じく未知数です。
恐らく、イスラエルのネタニエフ首相が繰り返し行うように、難癖をつけてウクライナが合意違反を行ったと糾弾して、それを理由に対ウクライナ攻撃を再開するという悪のシナリオが頭を過りますが、ここではあえて妄想は控えておきます。
ただ、仮にロシアが選挙実施を評価し、その選挙の間の停戦に合意し、合意を履行したとしても、ゼレンスキー大統領が再選できる見込みはあまりないと言われているため、本当に選挙を実施するかどうかは分かりませんが、ロシア側としては“協力”した場合には、親ロ派または強くロシアに反対しない候補に肩入れし、ウクライナの実質的属国化に舵を切るものと予想されます。
どのシナリオに沿って事が進められたとしても、蚊帳の外に置かれて面子丸つぶれになる欧州各国は、域内の反対意見も強い中、ロシアの域内凍結資産をウクライナ支援に活用するという賭けにでようと域内での調整を活発化していますが、凍結資産の大部分を管理する証券決済機関であるユーロクリアを抱えるベルギーは、ロシア復権の際、ロシアからの膨大な額の損害賠償を負わされる危険性を抱えているため実施には後ろ向きとされ、しばらく結論は出ない見込みで、このまま行くと、ロシアの恨みを買うかロシアに対欧州介入の口実を与えることになり、EUが恐れ、それが一枚岩の行動に繋げることが出来ていない理由でもある“ロシアによる報復と欧州への攻撃”がより現実味を増すことになり得ます。
来週木曜日からのEU首脳会談の場で協議される予定とのことですが、すでにハンガリーのオルバン首相は反対の意を表明していますし、イタリアも難色を示し、東欧諸国も、ポーランドとバルト三国以外はあまり乗り気ではないと聞いているため、欧州はまた口先だけで動けない存在であることを露呈することになりそうです。EUはいろいろな興味深いアイデアや策をお持ちなだけに、残念です。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









