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もらえて嬉しい。年金の「高年齢雇用継続給付金」とは何か?

60歳の定年を迎えても、その後も継続して働くという人が増えてきている現代。そんな時代の変化に伴い、年金も60歳まではその一部、65歳からは本格的に給付されるというかたちに変わりました。しかし、60歳からの給与はそれまでと比べ減る場合が多いうえにもらえる年金も一部のみであるため、雇用保険から「高年齢雇用継続給付金」が支給される場合があります。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、あまり耳馴染みのない高年齢雇用継続給付金について詳しく紹介しています。

65歳前の在職者の年金額停止と雇用保険から貰える給付金との関係

現代は60歳定年を迎えても、その後も継続して働く人が多くなりました。平成6年改正にて厚生年金の支給開始年齢の引き上げが決まって、同時に高年齢者雇用安定法により60歳未満の定年が禁止となりました。

昭和60年から女子の平均寿命がついに80歳台となりました(昭和30年頃は男子63歳、女子67歳、昭和50年は男子71歳の女子76歳まで延びた)。このまま年金支給開始年齢が60歳のままだと年金給付を過大にし、保険料負担にも限度があるから年金支給開始年齢の引き上げというのは兼ねてからの課題でありました。

そして平成6年改正時に、人生80年時代は65歳までは年金の一部と賃金を得ながら生活し、65歳以降は年金を中心に生活するというモデルが望ましいという考え方になった事で年金支給開始年齢の引き上げがやっと実現しました。実現はしたものの、実際の引き上げ開始は平成13年(女子は平成18年から)からとなりました。

急激な高齢化と平均余命の伸びにより年金支給開始年齢の引き上げをしなければならないというのは昭和55年改正からの課題だったんですが、その後20年以上棚上げされたままだったんですね。昭和55年改正、昭和60年改正、平成元年改正の時に国会に働きかけるも支給開始年齢引き上げは先延ばしにされてしまっていた。何度も当時の厚生省が支給開始年齢の引き上げの重要性を訴えていましたが、ことごとく弾き返されていたわけですね。

これにより、将来世代の負担を先送りにしてしまったという現実があります。あと、「年金上げるのはいいけど保険料の上昇はダメだ」っていう圧力で保険料も本来より低めになってしまっていた。年金が増えるという都合がいい事は認めるけど、保険料負担が増えるという痛みは認めないという事で散々押さえつけられてきた。よってこの負担のツケは将来世代に先送りになった。

年金の給付費は昭和45年はまだ1兆円にも満たなかったんですが、10年後の昭和55年には10兆円に膨れ上がりました。厚生年金の老齢の年金受給者だけを見ると昭和40年は20万人ほどでしたが、昭和45年には50万人になり、昭和50年には100万人超えになり、昭和55年には200万人、昭和60年には330万人と明らかに増加していった。平成元年には年金給付費は22兆円になって初めて社会保障給付費の半分以上を年金が占めるという状態になりました(現在の年間年金給付費は57兆円程)。

やっとの事で平成6年改正で支給開始年齢の引き上げが決まり、実際の引き上げは平成13年から始まりましたが、今もなお65歳未満でも厚生年金が支給されてる人は多くいます。完全に65歳に引き上がるのは平成42(新年号12)年です。

● 厚生年金支給開始年齢引き上げスケジュール(日本年金機構)

さて、支給開始年齢の引き上げに関しては随分のんびりした話ではありますが、60歳になってその後も継続雇用という人が増え、定年後の継続雇用というのは給与が下がる人が多いし年金も十分に支給されない形になったので、雇用保険から高年齢雇用継続給付金というものが支給される人もいます。

高年齢雇用継続給付金は下がった給与の最大15%が支給される(60歳到達時賃金に対して75%未満に下がった場合で、さらに61%未満に下がった場合は最大15%)。高年齢雇用継続給付金は平成6年の年金引き上げの改正時に導入された。

というわけでですね、今回はその高年齢雇用継続給付金を貰いながら働くという場合の一例を見ていきましょう。なお、8月というのは毎年この雇用継続給付金の上限額などの金額が変わる月なので注意しておく必要があります。

1.昭和32年5月16日生まれの男性(今は61歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

20歳になる昭和52年5月から昭和55年3月までの35ヶ月は夜間の大学生だった。この学生期間は国民年金強制加入だったから、納めなければならなかったが未納にした。昭和55年4月から65歳の前月である平成3(新年号4)年4月までの505ヶ月は厚生年金に加入するものとします。

ちなみにこの男性の昭和55年4月から平成15年3月までの276ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)は35万円とします。平成15年4月からは賞与も年金額に反映するようになり、平成15年4月からこの人の年金支給開始年齢である63歳の前月である平成32年4月までの205ヶ月の平均給与(平均標準報酬額)は48万円とします。

なお、60歳に到達した平成29年5月15日時点の60歳到達時賃金は50万円だったとします(60歳到達時賃金というのは60歳前6ヶ月に支払われた賃金の合計を180で割った額を30倍した額)。60歳以降は賃金が24万円(標準報酬月額も24万円)に下がった。24万円は50万円に対して48%にまで落ちてしまった。しかし、平成29年8月1日以降の60歳到達時賃金の上限は469,500円だったため、24万円は469,500円に対して51.1%となる。

平成30年8月からの限度額変更(厚生労働省)

まあいずれにせよ61%未満に下がってるので下がった給与の24万円に15%が支給される。

よって、給与がこのまま24万円とすれば65歳到達月までは36,000円の支給となる。ただし、途中の給与がもし469,500円の75%以上352,125円以上になったらその月の給付金は1円も支給されない

で、この平成30年8月1日からこの60歳到達時賃金の上限469,500円が472,200円に上がった。という事は、472,200円に対して24万円は50.8%になる。しかし、給付金額としては36,000円で変わらない

次に、この男性は63歳に到達する平成32(新年号2)年5月から自分自身の老齢厚生年金の受給権が発生する。まずその老齢厚生年金の金額を算出。

この月額102,300円は平成32年6月分から発生。

さて、この男性は65歳になる平成34(新年号4)年5月まで厚生年金に加入して働く事になっています。という事は、給与額によっては年金額が停止される在職老齢年金が適用される。停止額がかかるかどうかを見てみる。

さらに、この男性は高年齢雇用継続給付金を貰ってるので更に年金の停止が入る。

よって、老齢厚生年金額は102,300円-在職による停止額31,150円-高年齢雇用継続給付金による停止14,400円=56,750円の年金支給となる。なお、上記の停止額は厚生年金に加入している場合のみであり、厚生年金に加入しないのであれば停止は全くない。高年齢雇用継続給付金の支給は最大65歳到達月分まで。給付金の支給のためには雇用保険加入者でないといけない

※ 追記

停止額が6%というのは支給割合15%に対して40%を停止するという意味。

なお、60歳到達時賃金に対して75%未満61%以上になると、給付割合や停止割合も変わる。例えば、60歳到達時賃金が50万円だとしたら、上限は472,200円ですのでこの上限金額に対し30万円になったとします(低下率63.53%)。とすると、こういう計算式になる。

また、停止額を計算する際は上記の公式に当てはめますが、使う金額は低下した賃金額ではなく標準報酬月額。標準報酬月額も30万円とします。とすると、472,200円に対して標準報酬月額30万円の低下率は63.53%。

よって、30万円×4.72%=14,160円が年金停止額となる。

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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