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現役医師が警告。人類を救った「エアコン」で世界は危機に瀕する

今年の夏は猛暑続きで、例年以上にエアコンを使ったという方は多いと思いますが、そのエアコンの存在が児童・生徒の学力向上はもちろんのこと、人類の長寿化にも一役買っていると話すのは、現役医師である徳田安春先生。そのいっぽうで、エアコンの世界的な普及に伴う弊害にも目を向けなければならないと、ご自身のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』にて訴えています。

エアコンの故障による死亡

2018年の夏の日本は異常熱波による酷暑で、熱中症の患者さんが多数発生しました。岐阜県内のある病院では、80歳代の入院患者さん5人が次々と死亡し、エアコンの故障で入院室内が異常に高温となったための、熱中症が死因ではないかと疑われています。今や日本の熱中症は、地域だけでなく院内でも発生しうるとみるべきです。

シンガポールの初代首相であったリー・クアン・ユーは、エアコンは歴史上最も重要な発明の1つである、と述べました。実際、シンガポールなどの熱帯にある国を先進国の仲間に入れるほどの生産性を与えたのはエアコンだったのです。また、香港とその周辺の地域を発展させた要因の中でも、エアコンの役割は大きいと言われています。

エアコンはアジアだけでなく、ヨーロッパの国々にも恩恵を与えています。 2000年代初頭、ヨーロッパ地方だけでも熱波による死亡者は7万人以上にのぼったといわれ、そのほとんどは高齢者だったそうです。しかし、エアコンの普及により、この死亡数は10分の1以下まで下がっています。世界中で、エアコンは高齢者の生存を伸ばす役割を果たしているのです。

気温と学力は反比例する

気温と学力についてのこれまでの研究から、気温と学力の間には反比例の関係があることがわかっています。平均気温が高い国の人々は、平均気温が低い国の国民に比べて、IQが低い傾向があります。また、ある国の地域別に見た研究でも、年間の平均気温が高い地域の学生のIQが低い傾向があります。

アメリカのある研究では、試験を受けた部屋の気温と数学の成績に反比例の関係があることがわかっています。室内の気温が21度を超えると数学の点数が下がり、26度以上になるとさらに大きく下がることがわかりました。別のアメリカの研究で大学入試の模擬試験の点数を調べたところ、年間平均気温が摂氏0.55度上昇すると、そのテストの点数が1%下がっていました。また年間平均気温が摂氏24度を超えると、成績が下がっていました。

沖縄の年間平均気温は摂氏約24度です。日本国内で定期的に行われている学力テストで、沖縄県の児童や生徒の成績が低い要因の1つには、年間の平均気温が高いこともある、と私は考えています。沖縄県の公立小中学校のエアコン設置率は全国的にみると高いほうですが、地域差が大きく、最近の調査によると、 ある市の中学校の普通教室では1%程度の設置率でした。

エアコンの改革も必要

エアコンは病院や学校では必須であり、シンガポールなどのように、国全体のパワーを増大させてくれます。しかし一方でエアコンにも問題があります。それは地球温暖化の加速です。

地球温暖化のために、酷暑の夏にわれわれはエアコンを必要とします。しかしそのエアコンが増えた結果、地球温暖化がさらに加速していくのです。エアコンが発明されたのは1902年でした。その1902年から100年間に世界で設置されたエアコンの数を超える台数が、今後10年間で設置されると見込まれています。

エアコンによる地球温暖化の加速を避けるために、 世界がやるべきことがあります。それはエアコンを使わないことではありません。エアコンの設定温度を無理に上げることでもありません。まず、エネルギー効率の良いエアコンに切り替えること。この分野では日本の電機メーカーの役割が期待されます。

次にエアコンの冷媒に、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、すなわち代替フロンを用いないことです。代替フロンは塩素を持たないためオゾン層を破壊しませんが、二酸化炭素の数百から数万倍の温室効果があり、地球温暖化を加速させます。モントリオール議定書キガリ改正の批准国は、HFC類を段階的に削減する義務を負います。しかし、日本やアメリカはキガリ改正をまだ批准していません。日本政府は批准すべきでしょう。

そして3つ目は、建築物や街のデザインを工夫することによって、エアコンの必要度を抑えることです。屋根や壁の色や形、換気状態を考慮したデザイン思考分野でのイノベーションも期待したいと思います。

文献
Laurent JGC et al. Reduced cognitive function during a heat wave among residents of non-air-conditioned buildings: An observational study of young adults in the summer of 2016. PLoS medicine 15 (7), e1002605, 2018.

image by: Shutterstock.com

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