11月6日に行われた米中間選挙の下院選で、民主党を勝利させたアメリカ。2年前の大統領選でトランプ氏を選んだ米国民ですが、その「過ち」に気づき始めた表れなのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、今回当選を果たしたいわゆる「マイノリティー」と呼ばれる5人の議員を紹介しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年11月12日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
トランプは中間選挙結果を「大成功」と言うけれど……──社会の底から湧き上がる「正気」の力に期待しよう
米中間選挙の中途半端としか言い様のない結果を、どの面から切り取るかはなかなか悩ましいことではあるけれども、私は、トランプ大統領の「白人男性中心主義」とそれ以外のすべての人々への「差別主義」、その対外的な拡張として「米国第一主義」とそれに基づく世界のすべての国々に対する「恫喝主義」という病的な偏向をうっかり選択してしまった米国社会が、それから2年後に、その誤りを是正しうる力を残しているのかどうかというところに注目してきた。
つまり、米国は「正気」を取り戻せるのか、ということである。そして結論は、絶望するにはまだ早い、ということである。
どちらが勝ったのか?
トランプ大統領は、元々、下院で敗北することは織り込み済みで、だからこそ上院の過半数維持と有力州での知事選勝利に全力を傾けてきた。その結果、すくなくとも上院ではすでに51の過半数を確保(11日13時現在のCNN速報、残りは再集計のフロリダ州など3)したので一応、彼の勝利と言えないことはない。
しかし、選挙前も共和党は51議席、そのうち42は非改選で9議席のみが改選となったことを思えば、非改選議席という過去の遺産に頼っての辛うじての現状維持であって、トランプが「大成功」と自慢するほどのものではない。
それに対して、2年ごとに全議席が改選される下院では、民主党が32議席を伸ばして225、共和党はその分を減らして200で(同上、残りは10)、過半数を譲った。こちらは全議席改選なので、直近の民意がストレートに出ているわけで、つまり有権者は、トランプの暴走に対して下院が法案や予算案の審議を通じてブレーキをかける役目を果たすよう民主党を勝たせたのである。
トランプ陣営は、「これでかえって物事が進まないのは民主党の抵抗のせいだと攻撃しやすくなり、2年後の大統領選に向けて有利」と言っているようだが、それはいくら何でも「負け惜しみ」というもので、トランプがこれまで以上に手続きを無視して大統領令を乱発して独裁ぶりを強化すれば、内外政策はますます手詰まりとなるだろう。
マイノリティーの反乱
票数や議席数以上に重要なのは、この民主党の巻き返しを下から突き上げた社会的なパワーの質である。それは一言で言って、トランプが一人前の米国人と認めてこなかったマイノリティー、すなわち女性、黒人はじめ少数民族、異教徒、移民、性的少数者、若者などで、彼らの怒りが1つの反乱となって燃え上がったのである。
象徴的なのは、「ニューヨーク州14区」で当選したオカシオ=コルテスで、プエルトリコ出身の母親とサウスブロンクス生まれの父親を持つ28歳の女性、下院議員として史上最年少である。ボストン大学で経済と国際関係を学んだが、小商売を営んでいた父親が亡くなったため、卒業後はブロンクスに戻り、レストランのウェートレスやバーテンダーなどをしながら、12年には子どもたちの教育を目的とした出版社を立ち上げるなど社会活動に取り組んできた。16年の大統領選挙ではバーニー・サンダース上院議員の選挙スタッフとして働き、従って今も「米民主社会主義者(DSA)」のメンバーである。
先住民女性の下院議員も初めて誕生した。しかも2人である。「カンザス州3区」のシャリス・デイビッズは、38歳の元格闘技選手で、レスビアン。LGBTであることを公にしている連邦議会議員の当選は初めてである。もう1人は「ニューメキシコ州1区」のデブラ・ハーランド、57歳で、プエブロ族出身の母親とノルウェー系米国人の父親を持つ。12年のオバマ選挙陣営に参加し、後に同州の民主党議長にも選ばれている。
イスラム教徒の女性下院議員も初めて誕生した。しかも2人。これまでにイスラム教徒の下院議員は男性が2人いるが、女性は初めて。「ミネソタ州5区」で圧倒的な得票で当選したイルハン・オマルは、ソマリア生まれの37歳。8歳の時に両親と共に母国の内戦から逃れ、ケニアの難民キャンプで4年間を過ごした後、1997年にミネソタ州に移住した。16年から同州下院議員を務めていた。もう1人は「ミシガン13区」のラシダ・タリーブ、42歳。パレスチナから移民してデトロイトで労働者として働いた両親から生まれ、法律を学んだ後、ミシガン州下院議員となった。
以上の5人のうちコルテスとタリーブは、マイケル・ムーア監督の新作『華氏119』で取り上げられ、立候補することになった経緯や選挙活動の様子などが描かれているらしい。
トランプ再選はあるのか……
こういう結果なので、トランプが言葉どおり「大成功」と思っているのか、それは強がりで本当は怯えているのか、本当のところは分からない。1つだけはっきりしていることは、そのどちらであるにせよ、彼の唯我独尊ぶりはますます酷くなって、米国民のみならず全世界にさらに迷惑を及ぼすだろうということである。
いま米国社会が抱えている深刻な問題はどれも、米国本来の多様性原理に立ち戻って、多民族・多文化主義を一層進化させる方向で立て直すことなしには解決しないだろう。またいま世界が抱えている問題はどれも、ポスト覇権時代の多極化原理を確かめ合って、国際協調と多国間対話の手法で粘り強く解きほぐしていく以外に打開の道は見つからないだろう。
image by:Joseph Sohm / Shutterstock.com
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