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現役アナが教える雨の日の風を「さわさわ」とは表現しない理由

日本語の表現力を上げるために不可欠なオノマトペ=擬声語(擬音語、擬態語)の活用法が最近のテーマとなっているのがメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』です。著者でアナウンサー歴26年の現役アナウンサー熊谷章洋さんは、違和感を与えないオノマトペの使い方のコツとして、肌感覚と音の性質を理解することだと説明しています。

「定型のオノマトペ」をしっかり使い分け

今回からは、オノマトペを効果的に使うコツについて、話を進めていきます。

日本語のオノマトペには、犬はワンワン、猫はニャーニャーひよこはピヨピヨ、ブタはブーブー、牛はモーモー、というような、日本語を使う人ならみんなが共有している定型の言葉が多いですよね。そして、波が、ザブンぐらいなら、こういう状態、このぐらいの度合い、という共通認識があるわけです。まずはそのバリエーションを、「肌感覚で」しっかり押さえておくことが大事です。

バリエーションを肌感覚で、とはどういうことなのか?例えば、風なら風、雨なら雨、それぞれに、さまざまな程度、状態があり、それぞれ違う程度、状態に対応する「定型のオノマトペ」があるわけです。その使い分けを正確に、ということです。

風に関連する定型オノマトペは、ビュービュー、ヒューヒュー、ピープー、さわさわ、ゴーゴー、などが考えられますが、解説するまでもなく、その状態は明らかにそれぞれ違いますよね。

今の若い人の中には、「ピープー」が北風って知らない人もいるかもしれませんが、これは童謡の「たきび」の歌詞に基づくオノマトペですから、いくら同じような強さの風が、夏場に吹いていても、それを、ピープーと表現するのは違和感がありますよね。

また「さわさわ」は、緑の草木の間を吹き抜ける、湿気の少ない、文字通り「爽やかな」風ですから、冬場や雨の日に吹く風を「さわさわ」と言うのはおかしく感じます。

音の性質まで考えて言葉を選ぶ

お気づきの方も多いと思いますが、日本語には、それ自体が含んでいる性質や状態を、そのまま音にして含んでいる場合が少なくありません。

これは以前の記事、「サ行の発音」の時にも解説しましたが、サ行は、爽やかのサ。私たちは、前歯の隙間から息を強くすり抜けさせることによって、サ行の音を出しています。つまりサ行は、硬質なもの(歯)と空気が擦れる音なんですよね。だから、軽やかで明るく、湿気が少ない。よって、雨の日の風は「さわさわ」とは感じないわけです。

サ行のみならず、他の音韻にもそれぞれの性質があります。ひとつひとつみていきましょう。ア行はどうでしょうか。子音が付いていない、アイウエオだけの状態は、音の性質は極めて中立的です。素直で、尖っておらず、丸い印象です。

子音が音韻の性質を決定づけるわけですから、子音が付いていないア行には性格が乏しく、よって、ア行+他の音によるオノマトペはありますが、「ア行だけ」で構成されるオノマトペは、数も多くありません。ほとんど思いつきませんね…。ウオーウオー、オエオエ、エイエイオー。叫びとか、嗚咽とか…。声そのものに由来する言葉なら考えられるかもしれませんね。

カ行はどうでしょうか。カ行もサ行と同じく、空気の音ですよね。でもサ行と違って、調音点がぐっと奥のほう、奥舌と軟口蓋の隙間を狭めて、呼気で破裂させて、音を作っています。ですから、乾燥感、空気感はありつつも、空虚ではなく、ちょっと小さめの「物質感」を伴いますね。

例えば、紙や枯葉が、「カサカサ」これはまさに、カ行とサ行だけで構成されていますが、その性質は、

カ行とサ行の性質そのものを、そっくりそのまま、よく表していていますね。

このように、オノマトペを普段何気なく使っている私たちにとっては、当たりまえすぎることではあるのですが、音韻の性質が、オノマトペの性質に直結しているんですね。

つまり、ここで注意しなくてはいけないのは、「音の性質に合わないオノマトペは、相手に伝わらない、違和感を持たれる」ということでもあるわけです。

image by: shutterstock.com

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アナウンサー歴30年、極限の環境で話し続ける著者が、実体験から会得した「話し方のコツ」を理論化。人前で話す必要がある人の「もっと〇〇したい」に、お答えしています。一般的な「話し方本」には無い情報満載。

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