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【書評】まさか『時をかける少女』? 筒井康隆が自ら選ぶ代表作

小松左京、星新一両氏と並んで「SF御三家」と称される筒井康隆氏。氏が日本文学界に与えた影響は計り知れません。そんな彼の魅力を一冊にまとめたムックを、今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんがレビューしています。

総特集 筒井康隆: 日本文学の大スタア(文藝別冊)
河出書房新社編集部 著・河出書房新社

KAWADE夢ムック 文藝別冊「筒井康隆」を楽しんだ。「日本文学の大スタア」全一冊が筒井康隆。豊かな白髪、眼鏡に髭、和服姿が貫禄あって、非合法組織の大ボスみたいだ。対談・座談(もちろん再録)に星新一、小松左京、丸谷才一、大江健三郎など亡き人たち、あ、四番目の人は存命、わざとw でも、期待ほど面白くなかったのはどういうことだ。もしかしたら楽屋落ちなのかも。

やっぱり面白いのは、いま現在の筒井のしゃべりだ。巻頭の語り下ろしロングインタビュー「文学賞の狂詩曲」は、翻訳家・書評家の大森望が。語り下ろし、ねえ。そんな術語あるのか。一人で語っているならまだしも、普通のインタビューですよ。でも、さすが大森望、筒井ファンが知りたいことをもれなく聞く

大きな囲炉裏の前で、脇息を左に置いた筒井御大が、緊張気味(にみえる)大森に応ずる写真が数葉。それにしても天井の高い、ものすごく金のかかったであろう和の空間。時代物の家具もある。ここは神宮前の筒井の自宅である。たしか神戸市垂水区に家があると知っていたが、今は両方でお住まいらしい。

筒井作品ベストは何か?「ぼくには、これ一本という代表作がありませんからね」と笑う。代表作が多すぎて全員が一致する代表作を選ぶのは難しい。知名度の高さでいうと『時をかける少女』で、テレビドラマ、映画、アニメなど合わせると10回近く、日本SF史上もっとも映像化された作品だ。「一番よく稼いでくれる、親孝行娘です」と笑う。しかし、これが代表作なわけないだろ

筒井自身、このままでは代表作が『時をかける少女』になってしまうのは困る。「まさかこんなことになろうとは」という思いか?と突っこむと、「だからね、それはいいと思うんですよ。一度発表した作品がどのような評価を受けるのか、作者には分かりません」。とはいいつつ、泉鏡花賞虚人たち谷崎賞夢の木坂分岐点の受賞が一番、記憶に残っている、恵まれていたと語る。

「もともとSFは純文学とエンターテインメント、どっちの方向もありうるので、非常にヌエ的な感じですね」と、いいとこ突っこむなー、大森。筒井は「ぼくが昔から『SFはジャンルじゃない』と言っているのは、そういうことなんです」と応じる。推理小説や時代小説とは違って、SFは文学の一ジャンルではない。SFは超虚構性を成立させるためのものの見方であると。明解である。

大森がアタック。『ダークナイト・ミッドナイト』で、「親しかった広瀬正が死に、大伴昌司が死に…」と亡くなられた親しかった作家名をずらりと並べているところがあるが、なぜ小松左京が出てこないのか、気になって」、掲載誌を見て本当に小松が入っていないことにうろたえる筒井「家族親戚は別として」と書いてありますから、そこに入っていると思ってください」ははは。

最近は『旅のラゴス』『残像に口紅を』が突如すごいベストセラーになり、リミックス短編集や新装版が出たり、『誰にもわかるハイデガー 文学部唯野教授・最終講義』が発売たちまち重版。リビングの開かずの扉にある大量の文庫本群から、筒井康隆を発掘することにした。まず『わたしのグランパ』を最初に読みたい。痛快なジジイを。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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