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池田教授ほんまでっか?否定された進化論「用不用説」が再浮上

フランスの博物学者ラマルクが提唱した進化に関する「用不用説」の考えは、遺伝学の発達により否定され顧みられなくなっていました。しかし最近、使用しなくなった器官の退化、すなわち用不用説の「不用説」を立証するような新たな論文が発表されたと紹介してくれるのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者で生物学者の池田清彦先生です。日本の研究者が発表した注目の論文の内容から何が見えてくるのでしょうか?

リバイバルした?「用不用説」

昔の進化論の本には必ず載っていた「用不用説」。ラマルクが提唱し、実はダーウィンも信じていたのだが、高いところの餌を採ろうとして首を延ばす努力をしているうちにキリンの首は世代を追うごとに伸びていったに違いないとか、ネズミの尻尾を22世代にわたって切り続けたが、尻尾が短くなる兆候は見られなかったとか、トンチンカンな擁護論や否定論のためか、いつしか顧みられなくなってしまったが、つい最近、使われなくなった器官は世代を追うごとに、徐々に退化するかもしれない、すなわち用不用説の不用説に関しては正しそうだとの論文が出たので、今回はその話を紹介しよう。

オサムシ(亜科)という甲虫がいる。手塚治虫が愛した虫で、自らのペンネームにしたことをご存知の方も多いと思う。カタビロオサムシ亜族(科の下は亜科、亜科の下は族、その下が亜族、その下が属)の大部分の種は立派な後翅が生えていて飛べるが(乾燥地帯に生息する一部の種は飛べない)、それ以外のすべてのオサムシ(オサムシ亜科の大部分)は飛べない

ところが、飛べないオサムシの中にも後翅を持つものと持たないのがあり、後翅を持つものも、筋肉が退化しているので飛べないのだ。 名古屋大と広島大の名誉教授で長年にわたりオサムシの進化を研究している大澤省三を中心とするグループは、つい最近発表した論文で(Proc.Jpn.Acad.,Ser.B,Vol.94,360-371 2018)、同じ種に属する個体でも、生息環境が湿ったところのものは後翅がよく発達し、乾燥地帯に棲むものは退化する場合があることを見出した。

例えば、東北地方に分布するマークオサムシでは、湿地に生息するものは後翅が発達し、乾燥地に生息するものは後翅が退化する。青森県の十三湖の周辺に分布する個体群では、後翅の退化程度は様々で、湖に近い湿った環境に生息するものでは後翅が良く発達していたという。また、アカガネオサムシでも、北海道の湿地に産するものは後翅が良く発達し、本州の乾燥地に生息する個体では後翅が退化する。

同様なことは北海道に産するコブスジアカガネオサムシでも見られ、同じ北海道産でも、生息環境の違いにより、後翅の退化程度には大きな違いがみられ、良く発達した後翅を持つ個体もいれば、極端に小さく退化した個体もいる。

大澤たちは後翅の退化は種の成立年代の古さとは関係なく、生息環境によりもたらされたと推論している。というのはオオオサムシ亜属(アオオサやオオオサ:亜属は属の下の分類単位)は種形成の年代がアカガネオサムシやコブスジアカガネオサムシより新しいにもかかわらず、後翅の退化が顕著であるからだ。

また青森県十三湖付近のマークオサムシの個体群は後翅の退化の程度がまちまちであることから、後翅の退化が、単純な遺伝子の突然変異で起こったわけでもなさそうだ。

洞窟に生息するゴミムシの中には眼が退化しているものが多い(メクラチビゴミムシという名がついている)。これも眼が不用になったので退化したに違いないが、暗闇に適応するために感覚毛が発達したりしていて、単に眼だけが退化した訳ではない。

オサムシの後翅の退化はこれと異なり、他の形態には全く違いは現れず、単に後翅が退化しただけという不思議なものだ。もしかしたら、本当に不用になった器官はある特殊な環境条件の下では、世代を追うごとに徐々に退化するのかもしれない。

image by: Charles Thévenin [Public domain] 

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