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なぜ沖縄の県民投票は「辺野古埋め立ての賛否」のみ問うのか?

沖縄県が2月24日に実施する県民投票は、賛成か反対の2択から、3択方式へ変更されることになりそうです。しかし、辺野古埋め立てについてのみ賛否を問うことの意味自体に疑問を呈するのは、軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんはメルマガ『NEWSを疑え!』で、沖縄県民がこれまで確認をしてこなかった2つの根本問題にこそ、しっかりとしたコンセンサスの形成が必要だと訴えています。

それでよいのか沖縄の県民投票

米海兵隊普天間基地の移設問題について、2月24日、辺野古での埋め立ての賛否を問う沖縄県民投票が行われます。県民投票の実施は、玉城デニー沖縄県知事が昨年11月27日に発表したものですが、沖縄県内の自治体から反発が出て、1月20日段階でうるま、沖縄、宜野湾、石垣、宮古島の5市が県民投票を実施しないとしています。

実施しない理由は「賛否2択では民意を問えない」「県民投票の関連予算を支出するつもりはない」などですが、このうちの選択肢について沖縄県は県民投票の選択肢を2択から「どちらとも言えない」を加えた3択に増やすことで理解を得て、実施してほしいとしています。

しかし、です。1996年4月の普天間基地返還合意から当事者として関わり続けてきた私としては、県民投票という民主主義の根幹に関わる住民参加行動が辺野古埋め立ての賛否についてのみ実施され、しかも選択肢が2択とか3択になっていることに違和感を覚えています。

実を言えば、普天間基地移設問題については根本的なところで県民のコンセンサスが確認されていないのです。だから、いくら県民投票をやろうと言っても、上滑りのものに終わるのは目に見えています。結果は、おそらく辺野古埋め立て反対となるのでしょうが、沖縄の人々は米軍基地問題を解決していく前提条件について議論し、コンセンサスを形成しようとしたことがあったのでしょうか。

私は普天間基地返還合意以来、次の2点について沖縄の皆さんに問いかけ、確認を求めてきました。ひとつは、沖縄が米軍基地問題を解決するための選択肢であり、いまひとつは沖縄米軍基地問題の前提となる日本の安全保障上の選択肢、です。

最初の「沖縄が米軍基地問題を解決するための選択肢」としては、理屈のうえでは、1)日本からの分離・独立、2)沖縄が自らグアムなどのような米国領になる、3)日本の中の「沖縄県」としてベストの答案を描き、実現する、というものが考えられます。

むろん、第3の「日本の中の『沖縄県』としてベストの答案を描き、実現する」というものしか、リアリティのある選択肢はありません。1)と2)については、そのリスクの大きさについて大田昌秀元沖縄県知事は私に、「われわれには血を流す勇気がなかった」という言い方をしていました。独立戦争で予想される流血の事態まで覚悟しなければ分離・独立は実現できないものだが、あまりにもリスクが大きいというのです。

2番目の「沖縄米軍基地問題の前提となる日本の安全保障上の選択肢」は、

1)どの国とも同盟関係を結ばない武装中立

2)日米同盟の徹底活用

の2つです。

1)については、格好はよいのですが、これもリスクが大きすぎます。まずコスト面では、現在のレベルの安全を独力で実現するには年間23~25兆円ほどの防衛費が必要だと、防衛大学校の2人の教授が試算しており、妥当性のある数字です。

また、武装中立は日米同盟の解消を意味しており、そこに日本が一歩踏み出した途端、米国の核の傘を含む拡大抑止が消え失せ、日本は裸同然の状態に置かれます。それを核武装で補おうにも、核兵器に関する日本の技術力の低さはもとより、裸の状態に置かれた日本への中国、ロシアの干渉と、それを排除しようとする米国のはざまで揺れ動く羽目に陥り、核開発についても妨害は覚悟しなければなりません。列国の干渉や妨害をかいくぐって核武装できる可能性は、ゼロに近いと言わざるを得ないのです。

一方、「日米同盟の徹底活用」のほうは、年間5兆2千億円の防衛費にプラスアルファするだけで、世界最高レベルの安全を実現できています。世界から米国の属国のように見られるのは、米国の戦略にとっての日米同盟の重要性を日本が自覚しておらず、属国的に振る舞ってきた結果です。米国から見て最も対等に近い同盟国として行動すれば、この問題は自ずと解決していくのです。

このような点を沖縄県民が確認すれば、日米同盟の徹底活用のなかで、「日本国沖縄県」としてベストの答案を描き、実現していく、というコンセンサスが生まれるのは明らかです。

はたして沖縄の人々は、この基本的な問題に取り組んできたと言えるでしょうか。これは、沖縄が他の米軍基地問題とも正面から向き合い、克服していくための前提条件となるものです。少なくとも、そうした意識のもとに県民投票が行われて欲しいと願っています。(小川和久)

image by: Masahiro Suzuki, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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