MAG2 NEWS MENU

H.I.S.とポプラがタッグも。ダイナミックプライシングとは何か?

昨年、サッカーJ1の横浜F・マリノスがAIによる価格変動制チケットを導入し話題となりました。今年は、プロ野球の福岡ソフトバンクとYahoo!が「AIチケット」を発売。さらにはHISとコンビニのポプラが提携した割引サービスの導入も発表されています。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんは、これら「ダイナミックプライシング」の手法は、業種業態によっては大きなメリットがあり、今後さらに浸透していくことになると注目しています。

ダイナミックプライシングとは?

値決めは経営、と稲盛氏の有名な言葉にあるように、価格設定はとても重要。価格は、価値の格と書くとおり、製品やサービスの質をイメージさせる。そして難しいのは、値上げをすれば高いと感じられ、敬遠される可能性も出てくる。一方で、値下げをすれば、一瞬の割安感は出るが、もちろんながら営業利益は下がるし、ブランドの知覚価値が下がったと見られてしまう。

最近、よく聞かれる、需要と供給の状況を考えた上で、価格を変動させる手法である、ダイナミックプライシングに注目している。

通常は同一の商品やサービスにおいて、基本的に価格は一定だが、人々が欲しい時には高く設定し、逆に人々の需要が少ない閑散期などには価格を下げる、といった具合に変動させていく手法だ。

需要に合わせて売り方を変えていくこのような手法は、1970年代アメリカの航空業界の規制緩和の時に生まれた、「レベニューマネジメント」という手法と、基本的に共通するアプローチだと言えそうだ。

航空業界の「レベニューマネジメント」において、飛行機の座席は翌日以降に「繰り越せない在庫」なので、正規料金で売っていては売り残ってしまうかもしれない座席を、3週間前までの早期予約であれば、割引で販売するといったような売り方を指す。

「繰り越せない在庫」の客室を持つホテル業界や旅行業界でも、同じアプローチで価格設定が行われている。

ダイナミックプライシングをどうビジネスに使うか?

どちらも基本的には、市場の需要シミュレーションをもとに、価格を決定するコンセプトで、収益の拡大を目指す、という意味において共通している。

特に、ITが発展してきた中で、この価格変動のシミュレーションの精度が上がり、また、インフラとしてAIが浸透してくるに従って、ダイナミックプライシングを採択することが以前と比べると容易になるだろう。

スポーツ市場での座席のダイナミックプライシングはどうだろう。

昨年、サッカーJ1の横浜F・マリノスは、この「ダイナミックプライシング」を導入した。対戦相手や前売り券の販売状況、天候などのデータをもとに人工知能(AI)を使い、1日ごとにチケット価格を変えていく、というやり方だ。J1では初めてだったので話題になったことが記憶に新しい。

AIで推奨価格が提示されて、決定はチームの方でするとのこと。単価を下げても、販売枚数が増えれば収益が拡大することを狙う。サポーターの方は、自分の好みの席や見え方、応援の仕方があるので、席の好みを重視するか、価格を優先するか選べる、ということが選択の基準になる。

また、福岡ソフトバンクホークスとYahoo!は、福岡ヤフオクドームでのオープン戦のチケットを、AIチケットというネーミングで、ダイナミックプライシングの手法で販売する、と報道されている。(MarkeJinより)

これまでは、S席A席などといった段階別での価格の違いは、スポーツ観戦などでもあったが、週末のときには通常価格、平日夜、人が少なさそうな需要のないときには、若干安く入場ができるという意味において、消費者にとってプラスになると言えそうだ。

ダイナミックプライシングの視点を変えて使う事例

ここで重要なポイントは、マーケティング活動の初期に、「市場を把握すること」において、顧客の需要をシミュレーションすること、そしてそれを、可能な限り早いスピードを持って、販売価格に反映できるようにすべき点だ。

このポイントを抑えての面白い事例がある。HISグループとコンビニが組む、アプリで食品ロス削減を狙って、賞味期限間近なら半額にすると言う仕組みだ。(日経MJ2月4日号の記事より)

HISとポプラの取り組みでは、ポプラが店舗ごとに、消費期限が近い商品を店舗ごとに登録し、割引クーポンを発行。店舗周辺の利用者にクーポンを配信して、利用者は店舗でクーポンを店員に提示すれば、その割引料金で買うことができるというものだ。これは、食品ロスを出来る限り下げていこうという、環境配慮もできるし、廃棄コストを抑えることもできる。店舗側にとっては集客策にもなる。

同記事によると、ここからファインなども、LINEで通知をしてLINE@でポイントを付加する、という仕組みを始めるとのこと。

AIやIoTなど、ITがより消費者の生活の中で、身近なものになってくると、消費者の利便性を上げることが、ひとつの大きな差別化要因になる。この時に、まず考えていきたいのが、顧客の需要がどこにあるかをベースにすること。やはりここを離れてはいけないのだ。その次に、いかにして顧客の課題を解決するかを仕組み化すること。

その際に、提供するものは顧客価値だ。顧客価値は、顧客が得る利益と、失う犠牲のギャップ。顧客の利便性を上げることは、顧客が犠牲にしている何かを片していく努力にほかならない。

その意味でも、このダイナミックプライシングの考え方は、価格の変動に響くユーザーを持つ業種や、価格弾力性のある、日用材や生鮮食品などの小売業業種にとって、使える考え方だ。ユーザーにとっても、タイミングさえ合えば、お得な買い物が出来るようなサービスを提供するという意味では、一挙両得の考え方になる。

AIが何をするかを考えるのではなく、AIをどう使うか、という意味においても、これから浸透していく価格設定の手法と言えそうだ。

image by: MONOPOLY919, shutterstock.com

理央 周この著者の記事一覧

ビジネス・仕事に大事なのは、情報のキモに「気づき」どう仕事に「活かす」かです。トレンドやヒット商品には共通する「仕掛け」と「思考の枠組み」があります。このメルマガでは、AI、5G、シェアリングなどのニュースや事例をもとに、私の経験とMBAのフレームワークを使い「情報の何に気づくべきか?」という勘どころを解説していきます。現状を打破したい企画マン・営業マン、経営者の方が、カタくなっている頭をほぐし情報を気づきに変えるトレーニングに使える内容です。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】 』

【著者】 理央 周 【月額】 ¥825/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 第2火曜日・第4火曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け