タレントの堀ちえみさんによる自らの舌がん公表がメディアで大きく取り上げられ、衝撃が広がっています。健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、アメリカのがん患者に対する手厚い処遇を紹介するとともに、日本社会に対してがん患者の「声にならない声」へのさらなる取り組みを求めています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年2月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
ドナー休暇と世界対がんデーと。
「トランプ大統領をノーベル平和賞に推薦した」という驚愕の事実が報じられる中、「安倍首相 ドナー休暇支援」とのニュースが飛び込んできました。18日の衆院予算委員会で、競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを受け「希望する人が(骨髄の)ドナーになりやすい環境整備が重要だ」とし、来年度から「ドナー休暇制度」の普及啓発活動を支援する考えを示したというのです。
池江選手の公表以降、日本骨髄バンクにドナー登録に関する問い合わせが通常の50倍も急増したことは既に報じられていました。ドナーは患者さんと適合してから採取後の健康診断に至るまでに、8回程度、平日の日中に医療機関に出向く必要がありました。
そこでその日数を、ドナー自身の有給休暇を使うのではなく、勤務先が特別休暇として認めるのが「ドナー休暇制度」です。ドナー登録していても日数の多さからあきらめる人も多く、日本骨髄バンクを中心にこれまで「ドナー休暇制度」の普及を行ってきました。
直近のデータでは全国で347社で導入されています。詳細はこちらでごらんいただけますが、企業だけでなく大学や病院なども協力しています。
● ドナー休暇制度導入企業・団体(日本骨髄バンク)
政府が、しかも安倍首相のトップダウンでドナー休暇支援に乗り出すことは、とてもすばらしいことです。
が、その一方でひねくれ者の私は「利用されてる感」を抱き、なんとも言葉にし難い気分になりました。
念のため繰り返しますが、今回の決断は支持します。でも、タイミングがイヤラシすぎる。厚労省の勤労統計問題に加え、桜田五輪相の「がっかり」発言問題がありましたから、それらをデフォルメするための支援策だろ!と、“脳内のおサルさん”が騒いでやまないのです。
もし、安倍首相がドナー休暇支援だけだけなく、すべてのがん患者への支援策を打ち出してくれていたら話は別。
だって2月4日は「世界対がんデー」。がんへの誤った情報を正し、意識の向上と予防、検出、治療への取組を促すために世界で定められた記念日です。
奇しくも堀ちえみさんが「舌がん」であることを公表しましたが、2人に1人が生涯がんになる時代です。その半数は現役世代で、40~50代が3割を占め、特に男性は40代後半から急増します。
がん患者の増加を受け、国は就労支援策を2000年以降、進めていますが診断後の依願退職や解雇になった人の割合は、この10年間でほとんど変わっていません。
厚労省によれば、その割合は2003年は34.7%で、2013年は34.6%。働く人の3割超が依願退職や解雇され、自営業の17%が廃業しています。国の支援策は全く効果が出ていないといっても過言ではないのです。
会社を離職せざるをえないのは、体力の低下などの身体的な要因や精神的な要因に応じた働き方の変更が難しく、仕事を続けるのが難しいという理由です(「がん罹患と就労調査(当事者編)2016」より)。
米国ではがん患者は障害者と認定され、雇用上の差別は厳しく禁じられているので、離職率は極めて低い。
その中核概念が「合理的配慮(reasonable accommodation)」。
これは「ここを配慮してくれれば、ちゃんと働けるよ」って考え方で、例えば、企業側は「他の従業員(または顧客)からの障害に対する懸念や偏見への擁護」の改善や徹底が必要不可欠だし、従業員が医療機関などの証明をベースに、「抗がん剤治療の日は休みが必要だし、治療後3~4日は免疫力が下がるので、自宅勤務が必要」と声を上げれば、企業は便宜をはかる必要があります。
企業側にかかる負担を軽減させるために、政府は企業向けの無料コンサルティングサービスなどを積極的に進めていて、修士号や博士号を持つ障害専門のコンサルタントが、企業に出向き相談にのる。年間60回以上のセミナーや研修会の実施、電話によるコンサルティングサービスなどさまざまな方法で、国が企業をサポートしています。
人気取りだろうとなんだろうと、患者さんのためになる支援策は大歓迎です。でも、同時に「声にならない声」にもっと取り組んでほしい。
みなさんのご意見もお聞かせください。
image by: Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年2月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
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2019年1月分
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- 「人」の命は重いが「医師」の命は?/「他人の足をひっぱる男たち」(10) ほか(1/16)
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2019年2月20日号)より一部抜粋