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トランプと高市早苗を支える「ベニヤ板」政治の正体。異なる支持層を結び付ける“接着剤マジック”の秘密

一見すれば相容れない主張や利害を抱える人々が、同じ政権を支持する現在の日米両国。そこにはいかなる「力学」が働いているのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、両国の政権を「合板」に例え、異なる支持層をつなぎ合わせている「接着剤」の正体を分析。さらにその結束が今後どのように変化しうるのかを考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:日米の『合板政治』を考える

「接着剤」は何か。日米「合板政治」を考える

合板について調べてみたのですが、まず合板のことをベニヤ板という呼び方があるわけです。このベニヤというのは、材木を薄くスライスしてできた単板のことをそう呼ぶのだそうです。そのベニヤを1枚ずつ接着して層を作ったものが合板というわけです。

ですから、ベニヤというのは薄い単板に過ぎず、ベニアを積層してできたものが合板というわけで、名称としては合板の方が正しいのかもしれません。では、どうしてそんな面倒なことをするのかというと、そもそもは質の良い木材の不足を補うためだったそうです。品質の低い木の表面に薄くスライスした木材を接着剤で貼り付けたところ、偶然に強度が確保できたというのが始まりとされます。

なんと、その起源は古代エジプトに始まるそうで、その後は欧州の家具作りの産業で少しずつ進化したのです。やがて、近代になると欧州各国で木材資源が需要をカバーできなくなる中で、質の低い材木の活用が模索されたこと、また化学工業の進歩により安価で高性能な接着剤が完成して大発展を遂げたのでした。

さて、ここが大切なのですが、合板を製造にするにあたって、もっとも重視されているのは「剥がれない」ということです。薄いベニヤ板を何枚も重ねて作る場合に、貼り付けたベニアは時間が経過すると水分が抜けて「反って」しまいます。その反り方といいますか、曲がり方は材質が違うと微妙に違いますから、貼り合わせた合板は簡単に剥がれてしまいます。

これを防止する技術は、実は大昔からあります。薄いベニヤを重ねる際に、1枚ずつ繊維の方向を直角にずらすのです。合板の断面を見ると、お菓子のミルフィーユのように一枚ずつ色が変わっていることがありますが、これは木材の部位や品種が異なるというだけでなく、1枚ずつ繊維の向きを直角に変えているからです。

さらに言えば、合板を構成している層の数は、大抵は奇数なんだそうです。理由としては、ひとつの単板を一種の「スタート地点」として設定し、その両面、つまり上と下に、上下対称的に配置してゆくからです。ですから、スタート地点の板に常に、繊維の向きを直角に変えながら、上1枚下1枚を足してゆくことで、奇数になるのだそうです。

この直角というのが大事で、恐らく合板技術のキモはここになると思います。直角に繊維の方向を変えているので、反る方向も直角にずれる、そこで単一方向に反ることがないので剥がれないというわけです。

というわけで、合板のお話をしたわけですが、この合板というのは、21世紀の民主政治をある意味で象徴していると思うのです。ですから、延々と話のマクラとして「剥がれない技術」のことをお話してきたわけですが、同じように現代の政治においても「異なったグループ」を貼り付けることで、厚い板を作るということが行われています。そして、同じように「剥がれない」ことが非常に大切になってきます。

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ある種の参考になるアメリカの「150年前」の経験

今回は主としてアメリカと日本のケースを議論しようと思います。どちらの現政権も保守を標榜していますが、その内容としてはまさに「合板」政治という構造となっています。異なった「ベニヤ」が重なって貼り合わされており、それによって厚み=投票=議席=権力を構成しています。ですから、政権の性格はどのような「ベニア」が貼り合わさっているかで評価が可能ですし、政権の今後はその貼り合わせが「剥がれる」かどうかにかかっていると言えます。

まずアメリカについてですが、少し歴史を振り返ることにしてみましょう。現在のトランプ政権は共和党政権で、そのルーツは建国時に「憲法を制定して連邦国家を作る」ことを選択したフェデラリストに遡ります。ですが、そこまで戻ってしまうと、現在との連続性が薄くなるので、100年少し後の19世紀後半から見ていくことにしましょう。

19世紀半ばには南北戦争という大事件がありました。二大政党の対立ということで言えば、共和党のリンカーンは奴隷制否定+関税擁護、南部連邦は奴隷制維持と関税反対という軸で激突したのでした。その後、戦争が終わって19世紀の後半になると、アメリカでは産業革命が急速に進んだ時代となりました。

その結果として、アメリカ合衆国全体としては農業中心の経済から、世界のトップクラスの工業国への転換が始まっていました。産業が工業化することは、2つの新たな問題を生んでいったのでした。現在はAIによる産業革命が、世論をどう動かすかが注目されますが、150年前の経験はある種の参考になると思います。

2つのうちの1つは膨大な労働者の権利をどう守るかという点でした。もう1つは新興の国際競争力のある産業にとって高関税は邪魔だという問題でした。当時の共和党はこの問題で完全に守旧派に回る中で、当時の民主党はこうした新興勢力、つまり工場労働者と競争力ある新産業の利害を取り込み始めたのでした。その象徴的存在が、22代、24代の2回大統領を務めた民主党のクリーブランドだと思います。

クリーブランドは、ガンコな人柄で知られ議会と対立したり、2回とも再選に失敗したり(当時は憲法で3選が可能な時代でした)したので、歴代大統領の中で特にヒーロー的な存在ではありません。だが、その政策は労働争議の仲裁や、関税の引き下げなど、過去の対立軸からの離脱を示すものでした。

そのクリーブランドの2期目に、アメリカは深刻な不況に陥って行ったのでした。そんな中で独自の存在感を出して行ったのが、その名も「ポピュリスト党(「人民党」)」という政党でした。南部と中西部の零細な農家を支持基盤として勢力を拡大し、延べ6名の上院議員と39名の下院議員を連邦議会に送り込んでいたのです。

ポピュリスト党は、彼等の感情を代弁して「悪いのは全国的な大資本」や「北部のエスタブリッシュメント」であるとして、特に「銀行、鉄道、商業」などの財閥を糾弾していったのでした。結果的にポピュリスト党は民主党に吸収されていくのですが、労働者や貧農を代弁しつつリベラルなイデオロギーで一貫、その一方で軍事・外交に関しては平和主義と孤立主義を貫いたのでした。

元来は南部の奴隷制を維持した農場主などを主体とした泥臭い「アンチ・エリート」の党であった民主党が、19世紀後半には大きく変わっていったのです。産業化の進展によって「組合中心の中道左派」であるクリーブランド路線や、貧農や労働者を基盤とした「左派ポピュリスト」の登場にとって、対立軸における大きな移動を開始したのでした。

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「トランプ登場」までに歴代大統領が推進した路線

20世紀の訪れと共に登場したのは今度は共和党の「テディ」ことセオドア・ルーズベルトでした。1901年にマッキンリー大統領の暗殺に伴い史上最年少の42歳で昇格したテディは、日本では日露戦争の和平を仲介したことで有名です。そして、共和党の大統領でありながら中道的な改革を行ったことで現在大変に評価の高い大統領です。ちなみに、トランプ氏はテディが好きなようですが、理解したうえでの評価ではないようです。

クリーブランドが労働者の利害という観点から保守的な企業家たちに挑戦したのとは違い、テディは独占禁止法という概念を駆使して「健全な競争」を実現すべく戦い続けたのでした。その他にも、「食の安全」への規制、日露戦争に勝利した日本への警戒、国立公園の設置など、極めてフレキシブルな政治を行ったのでした。

現在は、民主党と共和党の対立軸が硬直化して「分断」の時代ということになっていますが、現在のデッドロック状態を解除するには、このあたりまでの二大政党の歴史をたどる必要があるように思います。それはともかく、以降の二大政党の歴史は比較的おなじみですので簡単に整理してみましょう。

まず共和党は小さな政府と孤立主義、そして軽税率と大企業優先を進め、さらに第二次大戦後にはこれに「反共主義」を加えていきました。一方の民主党は、2つの世界大戦とベトナム戦争を主導し、国際協調を推進、また大恐慌にケインズ政策で対抗して行きました。

そんな中で、興味深いのがニクソンによる支持グループのスイッチです。民主党はベトナム戦争を開始した政党ですが、やがて若い世代を中心に反戦派を抱えることになりました。また黒人の公民権運動や女性の人権運動なども包摂、更には組合運動を大きな支持母体としていました。

これに対して、共和党は北部の中産階級や大企業を支持母体としつつ、反共の理念からベトナム撤兵には消極的でした。これでは、票が足りないと思ったニクソン政権は、「南部の忘れられた白人層」の取り込みに躍起になりました。奴隷制にノスタルジーを抱きつつ、繊維産業などを利害として、時代の流れに逆行する保守派は、南部連邦時代から民主党だったのですが、これを共和党が取り込んだのでした。

ニクソンの保守派取り込みは、実はニクソン自身を救うことにはならず、結果的にはレーガンとブッシュ(父)の12年間として結実します。彼らは、その政治的パワーを活用して冷戦を勝利に導きました。ですが、古臭い孤立主義や、テクノロジーへの無理解から、ポスト冷戦の果実を経済に開花させるのは失敗。これに対して、クリントンの民主党は英国のサッチャー=ブレアのマネをして、グローバル経済への最適化に成功しました。

また、その後のブッシュ(子)は、911テロへのリアクションとして、産軍共同体の利害に乗ってアフガンとイラクの戦争に突っ込み、共和党としての孤立主義を捨ててしまいました。特にブッシュ(子)は、アフガン、イラク戦争の大義を掲げる必要から、サウジ、パキスタン、湾岸諸国、ヨルダンなどのイスラム諸国との同盟を強化して、彼らの人権などを改善もしました。

続くオバマ政権は、リーマン・ショックの後始末政権ですから、クリントン路線のグローバリズム最適化を更に進めるしか選択肢はありませんでした。またブッシュからは、軍事タカ派路線を継承しました。という中で、クリントン夫妻=ブッシュ(子)=オバマの24年間には、

「多様性推進、グローバル経済への最適化、テロリスト以外の移民を含む各人種の包摂、環境問題への取り組み」

といったポスト冷戦期の「主要な国の方針」というのが固まったのだと思います。けれども問題は技術の進歩と、グローバルな国際分業の最適化によって、格差はどんどん拡大していったということでした。これに対しては、民主党のオバマ=バイデン=ハリスの路線としては、重税による強めの再分配を主張していました。

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トランプが貼り合わせた全く性格の異なる2つのベニア

トランプ主義の登場は、こうした情勢に対するリアクションとしては合理的なものでした。まさにニクソンの支持グループのシフトの再現ですが、より徹底したものとなりました。その結果として、全く性格の異なる2つの「ベニヤ」を強引に貼り合わせるというマジックが生まれたのです。それは、

「格差を経済格差だけでなく、名誉の格差もゴチャ混ぜにすることで化学変化を生じさせて、巨大な現状否定感情を生み出す。これをグローバリズムと多様性包摂への敵意というアウトプットに誘導し、国の方針の中で名誉を得ていた人々を引きずり下ろす」

という破壊の部分と、

「AIや宇宙開発などの最先端分野のR&Dは、ほぼ自由放任とする。また、財政均衡を無視した極端な軽税率により、大企業や富裕層だけでなく、中流層まで経済的メリットを与える」

というバラマキ放任主義をセットにしたわけです。更には、

「グローバリズムを敵視した結果、国際分業によるサプライチェーンも敵視、自国の製造業回帰を示唆しつつ、自国経済優先という印象を創出」

とか、後は

「他国の世論が面倒なので、民主国を敵視して権威主義国家と接近」

などという建国の理念の根本から逸脱するような原則も入っています。問題は、このような動物的な感情論と、極めて貪欲な拝金主義など、以前のアメリカでは考えられなかったような「ベニヤ」が貼り合わされていることです。

ただ、巧妙なのはそれぞれの「ベニヤ」がまさに合板のように「繊維軸の方向を90度ずつずらして」貼り合わせているために、剥がれにくいということが言えます。20世紀以来の理想論や正論で対抗しようとしても、強靭に貼り合わされた合板が跳ね返してしまうようにできているのです。それが、設計によって実現されているのではなく、既成の権威への破壊衝動を軸に「行き当たりばったり」で重ねていった結果、そうなっているのです。そこに、この政権の強みがあるのだと思います。

本来であれば、AIや宇宙航空などで儲けた億万長者と、チャンスに恵まれずにサービス業の現場でクサっている中西部の若者というのは、お互いを敵視するのが自然です。ですが、グローバリズムと多様性包摂という「かつての権威」を敵にすると、この全く違う方向を向いた「ベニヤ」が固く接着してしまうのです。

接着剤としては、多様性包摂など「ウォーク文化」への敵視、更にはあらゆる知的なるものへの否定といった人間の情動の部分に根ざしたものが使われています。特に困窮者は再分配を望み、富裕層は軽税率を望むという正反対の力学を、「リベラル憎し、ウォーク憎し」という情動の接着剤でピタッと接合している、ここが政権の中核であり、同時に弱点にほかなりません。

これを解除して接着剤を溶かし、それぞれの「ベニヤ」が反り返って接合が離れるようにするには、本当の意味で本質的な取り組みが必要です。それこそ、過去200年の米国史を研究し尽くして、なお困窮地域の心情に迫り、そこから中道主義を組み立てて行くしかありません。最大の問題は、

「開拓民は自己責任主義なので、困窮に対する施しは受けない」

というアメリカ中西部独自の開拓カルチャーがあることです。これを極めて巧妙な形で悪用して、接着剤にしているのです。民主党や、共和党の穏健派は、それを溶かす溶剤を何としても発見しなくてはなりません。

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米国と比較すればもう少し単純な高市政権の「合板」

このアメリカの現状という「合板」と比較すれば、日本の高市政権の「合板」というのは、使われている接着剤も含めて、もう少し単純だとも言えます。詳細にわたる検討は、改めて行いたいと思いますが、少なくとも為替と財政規律についていえば、

「国内の集票のカギは地方の名望家、彼らは生産を中国に委託して欧米市場で食っているか、観光業なので円安志向」

「ゼネコンとその裾野は円安だと資材が入らないが、バラマキの恩恵で味方に」

「円安インフレは税収増なので、財務省も歓迎。だが、将来的には財政破綻はイヤなので、恒久減税には慎重」

「空洞化を脱するとか、DXもAIも本格化となると、国内の年齢ヒエラルキーや教育制度に手を付ける必要。これは保守派は嫌うので、国内改革は敬遠。原発推進も同様。したがってどうしても空洞化に流れる」

「ガス抜きは観光客への憎悪など排外感情を適度に燃焼させて処理」

という「合板」ができているわけです。ただ、この貼り合わせは、アメリカほどのダイナミックではなく、ミクロの合理性を持っているので接着してしまうのです。また、アメリカとは違って悪役(ヒール)が、

「持てる世代が、敗戦体験を伝承して平和主義とか反国家などという、究極の倫理マウンティングをしてくる」

というのを指摘すれば、簡単にアンチのエネルギーは作り出せてしまいます。それはともかく、アメリカの接着剤が「開拓精神から来る名誉概念のゆがみ」であるならば、日本の場合は、

「納税者カスハラが正義になってしまうカルチャー」「世代間の不公平」「枢軸日本を批判されると被害感を感じてしまう認知の歪み」

など、一つ一つの接着剤は薄っぺらですから、引き剥がしということでは、アメリカよりも容易ではないかと思われます。ただし、一つだけ日本の場合は要注意な部分があります。それは、

「終身雇用制度の適用を受けている票は、安全圏からの投票行動になるので、ギャンブルも遊戯も可能」

ということで、これはアメリカの団塊世代の年金生活者が「投票での逸脱行動」に走ったのと同じで、極めて不安定かつ衝動的に動くということです。参政党現象も、高市現象もこうした力学が作用している中では、個別の現象としては極端に走りがちということになります。

それはともかく、もう一度申し上げますが日本の場合には、接着剤の強度も、異なった「ベニヤ」を貼り合わせて強固な合板になる必然も、期間限定で弱いものを感じます。このあたりを徹底して検証する、特に高市氏の公明から維新へのスイッチというあたりにも、政治学(ポリティカル・サイエンス)としての分析が必要と思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年7月21日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「退職代行の次は休職代行、何が問題なのか」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。

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冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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