米国が北朝鮮から「核戦力廃棄の確約を得られなかった」ことを主な理由として、「失敗」との報道がなされがちな第2回米朝首脳会談ですが、米大統領補佐官は「成功」だと反論しました。これに同調するのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北朝鮮の今後を予測した上で、米の対北政策が日本にも有益な点を詳しく解説しています。
ボルトンさん「米朝首脳会談」は【大成功】
先日行われた米朝首脳会談について、「大失敗だ!」という意見が多いです。しかし、皆さんご存知のように、RPEは「大成功だ!」という立場。それで、3月1日に、こんな記事を出しました。
● 金正恩の姑息な作戦に乗らず。米朝首脳会談が成功と言える理由
ところで、私と同じ意見の人がいました。ボルトンさん(アメリカ大統領補佐官)です。トランプ政権中枢にいる人が、「大成功!」というのは、当たり前ですが…。
米朝首脳会談は「成功」 米大統領補佐官が擁護
3/4(月)6:32配信
【AFP=時事】米国のジョン・ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は3日、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-Un)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領との間で先週行われた米朝首脳会談について、双方で合意に至らず会談が失敗だったとの見方を否定した。
「失敗だったとの見方を否定した」そうです。
ボルトン氏はCBSの報道番組「フェイス・ザ・ネーション(Face the Nation)」で、トランプ氏が北朝鮮から核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったことは、「大統領が米国の国益を守り、高めたという意味で成功」と見なされるべきだと語った。
「トランプ氏が核戦力を廃棄するとの確約を得られなかったこと」=「大統領が国益を守って成功」だそうです。どういう意味でしょうか?
ボルトン氏は、争点はトランプ氏の言う「大事業」すなわち完全な非核化を北朝鮮が受け入れるかまたはそれ以下の「われわれには受け入れ難い」ことのどちらかだったと説明。「大統領は自分の考えを断固として貫いた。大統領は金正恩氏との関係を深めた。米国の国益は守られており、私はこれを失敗だとは全く見ていない」と述べた。
同感です。トランプさんは、「完全な非核化」を要求しました。その見返りは、「体制保証」「経済制裁解除」です。
まあ、アメリカはこれでカダフィを03年にだまし、丸裸にした。結果、彼は11年、アメリカが支援する反体制派に捕まり殺されました。だから金正恩がアメリカを信用しないのは当然。
一方、金正恩は、「一部非核化して、制裁解除」を狙ってきました。これは、過去の「成功体験」を繰り返したのです。1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取った。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正恩の父・正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らか。今回も「これでいける!」と思ったのですね。
このように、アメリカは北をだまそうとしている。いえ、ひょっとしたらトランプさんは、だまそうとしていないのかもしれない。しかし、カダフィの例があるので、金正恩からは「だまそうとしている」ように見える(それに、トランプ後の大統領が政策を変更するかもしれない)。そして、北はアメリカをだまそうとしている。で、結果、「トランプさんは、金正恩にだまされなかった」。だから、RPEも、ボルトンさんも「成功だ」というのです。
これが、「少し非核化して、制裁解除」となったらどうです?金は、「核兵器保有」と「経済発展」の二つを同時に成し遂げた。まさに「偉大な指導者」になることでしょう。
トランプ、金正恩の交渉決裂でどうなるのでしょう?
- 金は、核実験、ミサイル実験を再開できません。再開したら、アメリカは、「金は交渉を断念したようだ。しかたない…」といって、北を大攻撃するでしょう
- 北朝鮮は、豊かになりません。現状、中国、ロシアが北支援をつづけている。しかし、これは「国連制裁違反」なので、大々的に、大っぴらにできない。せいぜい「体制が細々と存続していく程度」にしか支援できない
金はこれから、
- トランプを信じるか?つまり、「完全非核化して、体制保証、制裁解除を勝ち取る」か?(繰り返しますが、アメリカがだますリスクはあります)
- 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていくか?
- 核実験、ミサイル実験を再開して、アメリカに殺されるか?
いずれかを選ばなければならない。現状、もっとも可能性が高いのは、
- 核実験、ミサイル実験を凍結したまま、細々と生きていく
でしょう。そして、中国、ロシア、韓国に、「制裁違反の支援をもっと増やしてください!」と懇願するかもしれない。もしそれで中国が支援を増やせば、米中覇権戦争中なので、アメリカは、「中国は国連安保理の制裁に違反して、北を助けている!」と非難する。そして、対中制裁を強化することでしょう。中国としても悩ましいところなのです。
こう考えると、アメリカの対北政策は、実にうまくできています。アメリカも困らないし、日本も困りません。そのように見る人は、あまりいないのですが。