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軍事アナリストが一刀両断。朝日「駐留費増額要求」記事の不誠実

3月10日に掲載された朝日新聞の「在日米軍の駐留費、日本負担の5割増要求を検討 米報道」の記事に関し、事実を掘り下げず不安を煽るだけの「オオカミ少年原稿」と斬り捨てたのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、トランプ大統領が選挙戦時に口にしていた米軍駐留費負担増について、日本には要求してこなくなった理由を解説し、朝日新聞の報道姿勢を問い質しています。

「思いやり予算病」の「オオカミ少年原稿」

3月10日付の朝日新聞の記事を見て、「思いやり予算病」の「オオカミ少年原稿」だと思ってしまいました。

「在日米軍の駐留費、日本負担の5割増要求を検討 米報道」という見出しに続いて、次のくだりがあったからです。

「日本は在日米軍の駐留経費を年約2千億円負担し、他の受け入れ国より負担割合は高い。だが、トランプ氏は16年大統領選の期間中、日本が駐留経費を全額負担しなければ米軍撤退もありえると示唆した」

どこが問題かと言えば、以下にあるような国防総省の資料でも日本は米国の同盟国の中で群を抜いて多額を負担しているのは明らかですし、防衛省の発表でも在日米軍関係経費として6000億円という負担額が明記されているからです。

それなのに、朝日の記事は「日本は在日米軍の駐留経費を年約2千億円負担し」と「思いやり予算(在日米軍駐留経費負担)」だけを取り上げています。他の国と比較するのであれば、同じ負担項目を対象にしなければなりませんし、米国の他の同盟国には「思いやり予算」的に扱われている項目があるのかどうかも、取材しなければならないはずです。

国防総省が公表したもので「最も新しい」データは、以下にある2004会計年度のものですが、米軍駐留経費負担額と駐留経費全体に対する負担比率は日本がダントツで、もちろん「思いやり予算」はこの中に含まれています。

日本   44億1134万ドル(5382億円)74.5%
ドイツ  15億6392万ドル(1908億円)32.6%
韓国    8億4311万ドル(1029億円)40.0%
イタリア  3億6655万ドル(447億円) 41.0%
イギリス  2億3846万ドル(291億円) 27.1%

防衛省が発表した2018(平成30)年度の米軍関係経費の内訳は、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)1968億円、周辺対策・施設の賃料など1820億円、SACO関係経費51億円、米軍再編関係経費2161億円の合計6000億円となっています。思いやり予算が全体の3分の1ほどだということがわかると思います。

トランプ大統領は選挙運動中、「米軍駐留経費を全額負担しなければ米軍を撤退させる」と言っていましたが、大統領就任後は特に日本に対しては口にしなくなったのは、国防総省側が上記のようなデータをもとに説明したからです。

2018年2月、来日したマティス国防長官が記者団の質問に答えて、日本の駐留経費負担は「他の国のお手本です」と言ったのは、そうした根拠に基づいているのです。

さらに、日本列島に展開する84カ所の米軍基地はアフリカ南端の喜望峰までで行動する米軍を支え、他の国が代わることのできない、米本土に近い水準の「戦略的根拠地」を形成しています。日本は、これを自国の国防と重ねて自衛隊で守る役割分担にあります。

このように、日米同盟が金銭に換算できない戦略的重要性を持っていることは、米国側が承知してきたことでもあります。だから、トランプ政権は防衛費についても日本の判断に任せ、増額を要求せずにきたのです。

朝日新聞は、ここまで書かなければ、いたずらに国民の不安や反米感情を煽るだけではないでしょうか。だから「オオカミ少年」記事と言わざるを得ないのです。米国メディアの報道を紹介しているだけだと弁解するかもしれませんが、同じように疑問も持たずに記事を垂れ流す癖がついてしまうと、米政府の公式発表を伝えるときも、疑問も持たずに鵜呑みにすることにつながりかねません。「ジャーナリズムであろう」と奮闘している朝日新聞としては、肝に銘じてもらいたいものです。

朝日新聞が米国側の報道を紹介したところでは、

「複数の米政府当局者の話として伝えたところによると、米政権は『コスト(経費)プラス50』計画と名付け、受け入れ国にこれまで負担を求めていなかった米兵の給与のほか、空母や潜水艦の寄港の経費を求めることを検討。現在の駐留経費負担の5~6倍に当たる金額を要求される国も出てくる可能性があるという」

とのことです。

これについては、西恭之氏(静岡県立大学特任助教)が日本政府に対米交渉のための「秘密兵器」を提示してくれますから、ご期待ください。(小川和久)

image by: phol_66, shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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