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米国で成功した日本企業に共通する「変わり続けること」の重要性

個人であれ、企業経営者であれ、「ニューヨークで一旗あげたい!」と、大志を抱く人たちが日本から数多くニューヨークを訪れます。メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で、現地邦字紙『NEW YORK ビズ!』を発行する会社のCEO・高橋さんは、そのような方々の相談に乗りながら、メディアや日本を訪れる外国人観光客発の情報の影響か、勘違いしていることがあるようだと指摘します。そして、アメリカで成功するために必要なことを惜しげもなくアドバイスしてくれました。

アメリカで成功する為には

日々、日本から、個人であれ中企業であれ大企業であれ、ニューヨークで一旗あげたいクライアントさん達が弊社オフィスを訪ねてくれます。

その多くはこちらでの市場調査、マーケティング等の情報を得る為に足を運んでくれます。いまのところ完全無料でご相談に乗っているのは、その後、実際に進出した際に、広告PRとして弊社を利用してくれる可能性があるからです。

ただ、問題なのは、真剣に相手を思ってコンサルタントすればするほど、進出を断念するクライアントさんがほとんどなので、その相談は、結果、ほとんど無償になってしまう、ということです。簡単に「イケる!イケる!進出しましょ!」とテキトーにはやっぱり言えないから。

まず、日本の方が想像するより、ニューヨークは圧倒的にコストが高い。業種を選びません。そのビジネスが何のどんな種類の形態であれ、この街ではまず、オフィスのレント相場が世界一です。オフィスを持たずに、EC(ネット決済)であったとしても、人件費の相場も世界一。人を介在しない場合でもプロモーションは必要です。

PR費も世界一。箱も人も持たず、PRもネット上だけで費用をかけず、だと、そのビジネスでは、なかなか想定上の利益を生みづらいかもしれません。もちろんそんなビジネスも、この世の中になくはないかもしれないけれど、それこそ事故的な要素も含め、ラッキーヒットを狙う必要があります。

コンサルタント中、まさか「奇跡を狙いましょう」とは言えない。メーカーであれば、プロダクトを現地に置く倉庫も必要になるかもしれません。日本に置いたままでは郵送費が高くつく。それにそのプロダクトが日常雑貨用品であれば、ニューヨーカーはニューヨークで購入します。

そのプロダクトが、その会社オリジナルの希少価値があり、高価なものであれば、やはり、ニューヨーカーも実際、モノを手にとって見たくなります。ということは、やはり現地で、手にとって見られる取次店、もしくは倉庫が必要になります。

やっぱり「コストを一切かけず、利益を生む」のは、この街ではことのほか厳しい。あたりまえの話ですが。

では、逆に。世界で認められた日本ブランドは、どのような過程でこの街で戦ってきて、どうやって成功を収めたのでしょう。

少子高齢化、国内市場縮小の今、日本企業にとっての「海外進出」は、いまや、避けては通れない道になってきました。15年前だと、「できたら、ニューヨークでもやりたいんだよねぇ」とか、「夢は、ニューヨーク支店!」と言ってりゃ、よかったけれど、そうもいかなくなってきました。

より具体的に、より戦略的に検討する必要が出てきた。そんな時代になりました。(これ、企業だけじゃなく、個人も一緒です。将来、なにかニューヨークでやってみたい、と思う方は必読だと思われます)

まず、最初に。まず真っ先に、しなきゃいけないことは、気持ちのリセットです。「世界レベルで戦おう!」とか、熱く気合いを入れようって話じゃありません。だからと言って、「今、NIPPONは世界的ブーム、絶対に需要がある!」と意味のない、ポジティブシンキングで安心しよう!と言ってるわけでもありません。むしろ真逆です。

『実態のない「クールジャパン」って言葉に、精神的に依存するな』

ということです。

進出を考えているお客さんの話を聞くと、まず、最初に違和感を覚えるのは、自分たちのサービスが、商品が、まずは無条件でニューヨーカー他、アメリカ人に受け入れられると、根拠なく信じているということです。もちろん、自信があるから進出、展開を考えたわけで、自信がないよりはあった方が、そりゃあいい。

個人も同じです。自分の描いた毛筆の作品が、自分の編んだ和装の雑貨が、自分の描いたイラストレーションが、ニューヨーカーはみんな大喜びする、と思い込んでいる。それはそれで結構なことなのですが、まだ未踏の段階で、そこまで確信めいたモノを持っているのは、なぜか。おそらく、テレビ等のメディアによるもの、そして知り合いの体験談から、そう思い込んでいるのだと思います。「世界は、みーんな、日本発祥のモノが大好きだ」と。

当たらずとも遠からず、ではあると思います。もちろん一定数、とにもかくにも「日本好き」なアメリカ人はいます。でも、当たり前ながら一定数です。韓流ドラマが日本で流行っているからと言って、日本人が、のきなみ、みんなキムチが大好きと言われても困ります。

なにより、その「日本好き」が奇抜なほどのコスプレをするから、カメラ的にも映えて、テレビが、雑誌が特集する。一律、流行っているから特集するわけではなく、その「個」にインパクトがあるから、取り上げられる。アメリカ人、全員が全員、例の「クールジャパン」にのっかてるわけではありません。当然だけど。

あと、日本に観光に来た外国人が「どれだけ日本文化を愛しているか」というエピソード。これもよくメディアで見かけます。世界広しの中、あえて極東の島国に、好んで観光に来ている稀な人たちをケーススタディには使えません。来ている時点で、日本好き。彼らの意見だけを構築したデータはバイアスが、かかりすぎて、データとは言えません。ニューヨークでビジネスをするという前提において、何の役にも立たない。

知り合いの成功談にしても、成功しているから話すわけで、成功していなければ、話には出ない。聞こえてくることがない失敗体験談も、影に隠れていっぱいあるはずです。

その成功体験談も「ビジネス上、圧倒的な利益を出した」というステージではなく、「知り合いの知り合いがマンハッタンの路上でパフォーマンスしたら、地元のメディアが取材に来たらしいよ」とか、「彼氏のともだちが書いた絵を、ニューヨークのギャラリーオーナーが絶賛したって!」とか、そのレベル。中には「友達のアメリカ人は漫画ワンピースが好き!」ってレベルまであります。

マネタライズとはまったく無縁の武勇伝は、僕たちがコンサルタントする際には、参考にできません。地元のメディアはつねにネタを探しているし、僕の知ってるアメリカ人は、とにもかくにも、まずは「WOW!ItsGood!」が口癖です。

例えば、日本の和楽器集団が、ニューヨークのストリートでパフォーマンスをするとします。人だかりはできるかもしれない。まず、大前提として、街中の通行人の絶対数が世界でいちばん多い。分母の数でアドバンテージがある。特に珍しいもの好きで、刺激に飢えているニューヨーカーは、異文化の音楽に触れるため、集まってきます。

でも、それと、実際に、お金を払って、サービスやプロダクトを受け取る「ビジネス」では根本的に違います。極端な言い方、集まってみて、ガッカリしているかもしれない。半笑いで見に来ているかもしれない。

特に、無料のサービスやショー、サンプルが世界一充実しているニューヨークでは、よほどのことがない限り、興味本位だけでお金を払いません。彼らからキャッシュを引き出すことは、日本の人が思っているより、ずっとハードルが高い。

にも、関わらず、特定の日本好き外国人が出演している映像で、知人のその場限りの武勇伝で、「自社のサービスが、プロダクトが、ニューヨークでのビジネスで、お金を生む」と信じて疑わない。

まずは、僕たちは、クライアントのそこの認識から、白紙にしていく作業をします。「自信を持ってください。でも、安易に考えないでください」と。

もっとハッキリいうなら、「クールジャパン」なんて言葉、日本人以外から聞いたことがないよ、実は。

実際にアドバンテージがあるなら、ラッキー。でも、まずはアドバンテージなんてないと思うところから始めた方がいい。そこがスタート。僕たちは、まず、クライアントのマインドをそうリセットします。

次に、『提供するサービス、商品をニューヨーカー用に「変えるところ」と、「変えないところ」を見極める』

「なにを当たり前のことを」と言われるかもしれません。そこが肝心で、それこそがわからないんじゃないか、と。確かに、そこに明確な答えを出すことができれば、ほぼ成功です。でも、もちろん、それこそが難しい。

ただ、中には「自分とこの商品に誇りを持っている!アメリカ人用に何も変えなくていい!」という頑なな経営者もいるし、「アメリカ人が好きそうなラインナップにすべて変えました。まったくの新サービス、新プロダクトで勝負します」というこだわりがまったく見えない経営者もいます。(企業の具体名を挙げられるくらい)

そういった経営者はなかなかこの街でのサバイブに苦労しています。それらの考え方が両方とも、ナンセンスかも、と最初の時点で知っておくことは、悪いことじゃないかもしれません。

もちろん、僕は、次に例として挙げる大企業の進出を手がけたことはありません。すべて、零細、中小企業、もしくは個人のクライアントさんばかりですが、例としてわかりやすいように、日本人誰もが知っている大企業の成功例です。

例えば、日清食品のカップヌードル。もちろん現地にも法人があり、工場があり、いまではどこの現地グロッセリーでも「カップヌードル」を目にします。

カップには「MUCHMORETHANASOUP」という文字が入っています。日本では、入ってないはずです。訳すとしたら…なんて言っていいだろう、「スープよりずっといいよ」とか、「ただのスープと思うなよ」って感じかな。

こちらの担当者に以前、取材したことがあります。その際に言われたことは、まず、アメリカでは「ヌードルスープ(スープの中の麺)を食べる習慣」が当時はまだ浸透していなかった、ということ。

もちろん「スープを飲む習慣」は日本以上にあります。なので、スーパーの売り場の「スープ売り場」に置いてみた。で、「スープだけど、スープよりいいよ」という売り方をした。確かにアメリカ人には「ラーメンだよ」という売り方より「スープの最上級だよ」という売り方の方が、スッと入ってくる気がします。

食べてみると、確かに、日本製より(不味いけど)麺が短く、アメリカ人には食べやすいはずです。どっちかっていうと、ラーメンというより、アメリカ人の国民食「キャンベルのチキンヌードルスープ」に近い感覚。「変えて」成功した圧倒的な例ではないでしょうか。

で、「変えなくて」成功した例は、森永「ハイチュウ」ではないでしょうか。こちらも、いまどこの食品店でも目にします。「Hi-CHEW」のネーミングから日本と同じです。すでに米国進出して10年が経ちます。完全に市民権を得ています。

噛んだ直後にはくっついちゃいそうな食感。でも、くっつかない。アメリカ広しと言えども、そんな食感は、それまでの北米全土、どこを探しても存在しませんでした。存在しないから「変える」ではなく、存在しないから「変えなかった」

そして味覚自体も、日本のそれと変わらない。あえて、日本のまま勝負したのが吉と出たようです。もともと高いクオリティー、変える必要がなかったのかもしれません。それでも、厳密には「変えず」とも「増やした」マンゴー味は、北米ならではのフレーバーだそうです。

「変えるべき」ポイントと、「変えちゃいけない」ポイントを見極める。それができりゃ苦労しないけれど、でも、「変えるべき」ポイントと、「変えちゃいけない」ポイントがある。その事自体を自覚することは北米での進出には欠かせないと思います。

もちろん、個人でもそうだと思います。日本の「漢字」をベースにファンシーグッズを開発しているメーカーが先日、オフィスに訪れました。いままでは日本の観光名所で、日本に観光に来た外国人がターゲットでした。その商品を、今度は北米で北米のアメリカ人に売りたいとのこと。

オリエンタルなムード漂う「漢字」のフィギュアを元に、可愛いプロダクトを製造する軸は変えないけれど、観光で日本に来たアメリカ人が記念にでも購入したくなるお土産色の強いプロダクトから、現地にいる現地のアメリカ人が購入したくなるような、もっと日常に必要な生活品寄りのプロダクトもラインナップに加える、とのこと。(具体的な製品名は企業秘密、です)社長がそう言った、その時点で、成功するんじゃないかな、と少し思いました。

そして、最後は『試行錯誤を繰り返す』ということ。
これも「何を当然のことを」と怒られるかもしれません。そんなの北米進出も、日本国内でのビジネスも同じじゃないか、と。ただ、その試行錯誤の回数、重要性、は国内でのビジネスシーン以上に重要かもしれません。

結局、成功するかどうかは、誰にもわからない。当たり前の話ですが、どんなに優秀な経営コンサルタントもわかりません。どんなにデータ予測を重ねても、予測でしかない。

以前、ユニクロがニューヨーク初進出をした際のこと、柳井会長に取材しました。その際、会長がおっしゃった言葉が「自信を聞かれたら、あると答えます。でも、どうなるかなんて蓋を開けてみないと結局、わからないじゃないですか。だからとりあえずスタートしてみる。あとは、やりながらマイナーチェンジを続けていきます」でした。

その後、ユニクロがマイナーチェンジを続けたのかは、一見、素人見には、わかりませんが、少なくともユニクロは今、ニューヨークで大ヒットしています。

進出する!と決定する際の大胆さは必要でも、一旦走り出したら、あとは微調整が必要になってくる、ということでしょうか。前述の「日本の時と、一切変えない」と頑なだった社長も、いざビジネスがスタートすると、絶えずマイナーチェンジを強いられます。それは、結局、どこまで行っても僕たちはこの国では「外国人」だから、です。

これは一つ目の『クールジャパンって言葉に安心するな』に通ずることかもしれません。「MADE IN JAPANって、品質いいでしょ~。アメリカでも手に入るようにしてあげますからねー♪」なんて、上から目線な限りは絶対に成功しません

それに、意外とニューヨーカーって、日本人がそう思っていると、思っています。「日本人はやたら、MADE IN JAPANのクオリティーを自慢するよね」と笑ったニューヨーカーの友人がいました。かなり、恥ずかしく「もう、思っていても口にするなよ」と日本から来たお客さんに思ってしまうこともしばしばあります。

ちょっと話はズレますが、アメリカ人の中で「日本は、とても性能がよくて、なおかつ壊れなくて、長持ちするものを作る」というイメージは確かにあります。電化製品、車、それらすべて、そのイメージです。それはみなさんもご存知の通りです。

でもね。「クールで、スタイリッシュで、イケてるモノを作る」とは思われていないよ。

世界の先進国で、これだけモノが溢れている時代。多少、不便でも、壊れても、これからは、「クールで、スタイリッシュで、イケてるモノ」にお金を使いたい、とアメリカ人も、ヨーロッパ人も、ブラジル人も思っちゃうんじゃないでしょうか。戦後じゃないんだから。そういう流れからみると、ちょっと不利な気もします。

堅実で、真面目で、浮気しない男よりも、カッコよくて、浮気性で、危険な匂いのする男の方がモテるのかもしれません(ごめん、たとえ話が余計わかりにくいかも)

話を戻すと、日本の人が思うほど、日本製品のそのままを、ニューヨーカーは受け入れない可能性があるということです。なので、現地で実際、ビジネスを走らせつつ、チェンジしていくことが必要。

ここから先は、人から聞いた受け売りで、ネットにも載っている話なので、メルマガで書くのはちょっと気が引けますが、いちばんわかりやすい例としてあげてみます。

トヨタが米国進出では成功したけれど、ヨーロッパでは当初、まったく売れなかったと言います。理由は、「デザインがクールでスタイリッシュではなかった」から。もともとダサいアメリカでは、その性能と安さでアメリカ車よりも売れました。

でも、洗練されたヨーロッパ諸国では、どんなに「MADE IN JAPANの性能の高さ」を言われても、「見た目がちょっとねえ…」と実際に、お金を出して、買う、というアクションにまで及ばなかったと言います。

でも、そこからトヨタはヨーロッパ市場に向けて、デザインを重視するラインナップを連続で発売して、支持されるようになったと言います。今では説明不要なほど、欧州はTOYOTAだらけ、です。性能は日本のまま、デザインを現地好みに変えていく。あの天下のトヨタでさえ、そうやって試行錯誤を重ねてきた。

ニューヨークでラーメン店「一風堂」が大人気なのは、日本でも有名だと思います。オープンから10年、いまだに開店前から大行列。理由は美味いから。

オープン当初、創業者の河原成美会長に取材させてもらった際に、彼はこう言って笑いました。「創業30年になるけど、今でも、お客さんが気づかない程度に、味をマイナーチェンジしてるんですよ。どう変えてるかは、企業秘密だけどね」

変わり続けることの重要性を垣間見た気がします。

image by: Ritu Manoj Jethani, shutterstock.com

高橋克明この著者の記事一覧

全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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