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韓国のシステムでは迎撃困難。専門家が見た北朝鮮の発射ミサイル

米朝首脳会談決裂の苛立ちを表すかのように、5月に入り1年5ヶ月ぶりにミサイルの発射を行った北朝鮮の金正恩委員長。文在寅大統領の就任以来、これまでにないほどの北朝鮮との融和政策を取り続けてきたとも言える韓国国内は今、突然の北朝鮮の態度の変化をどう受け止めているのでしょうか。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年の日本人著者が、現地の人気テレビ番組の内容を引く形で、これまでの北朝鮮ミサイル開発のまとめと、韓国の専門家の分析を紹介しています。

北の核・ミサイル開発のこれまでの流れ

今回はKBSの番組の一つ『南北の窓』という放送で放映された内容を中心に、北朝鮮のこれまでのミサイル開発、核開発についてレジュメ的にまとめてみたい。一度こうやってまとめておけば、後々見返したりしていろいろとご参考になるはず。

米との交渉が膠着状態はいっているなか、北朝鮮が5月4日と9日にまたまたミサイルをぶっ放した。韓国と米国政府の公式発表が遅れ、発射されたミサイルの種類や発射の意図に関しても意見が入り乱れている。過去を振り返ってみると、北朝鮮は節目ごとにミサイル発射を強行し局面打開を図ってきた。北朝鮮のミサイル発射の流れを簡単に整理してみた。

2018年2月北朝鮮軍創建70年を記念する軍事パレードが平壌で行なわれた。平壌の金日成広場を埋め尽くした観客。数万人の群衆が花を持ち上げて金正恩委員長の名前と、労働党のシンボルを作成する。

この日北朝鮮は、各種の大砲の装備と戦車、装甲車はもちろん、大陸間弾道ミサイル火星-14」型と「火星-15」型を動員し軍事力を誇示した。

さらにこれまで一度も公開されることのなかった新型弾道ミサイルもお目見えした。当時、このミサイルは、ロシアのイスカンダル弾道ミサイルと形が似ているということから多くの軍事専門家らに「北朝鮮版イスカンダル」と呼ばれた。

そして今年5月9日、北朝鮮が打ち上げたミサイルに再び世界の注目が集中した。韓国と米国の当局の公式分析結果が出なかったが、多数の専門家があれは間違いなく北朝鮮版イスカンダルミサイルだとしている。

「外観から見ても、後で明らかになった飛行データを見ても、これはロシアが開発したイスカンダルとほぼ同じ弾道ミサイルであると判断することができる。270kmと420kmという距離、さらに最高頂点高度が45kmから50kmの間であったという点、この点は、すべてイスカンダルミサイルが持つ特徴をそのまま反映していると言える」(ヤン・ウク/韓国国防安保フォーラムセンター長の言)

ロシアのイスカンダル・ミサイルは、固体燃料を使用する短距離ミサイルで最大300kmまで飛行できることが知られている。最大の特徴は、低高度から上昇した後、変則的な飛行軌跡を描いて目標を打撃することにある。今回、北朝鮮が発射したミサイルがイスカンダルと類似モデルであることが正しい場合、脅威的な武器となる理由だ。

「防御ミサイルシステムというのは、弾道ミサイルの軌跡を計算し、それに合わせて終末段階で迎撃するもの。ところが、今回のミサイルのような場合は、弾道ミサイルの軌跡を描くけれども、一番最後の部分では自分が希望する打撃方向に下降して、またあがって速度を高めた状態で再び目標地点を打撃するわけ。なので、韓国が既に持っているミサイル防衛システムの概念のもとではイスカンダル型のようなミサイルの迎撃が困難になると見なければならない」(イ・ホリョン/韓国国防研究院研究委員の言)

1970年代、エジプトからソ連産のスカッドミサイルを持ち込んだ北朝鮮は、「逆設計」方式で技術力を蓄積。以後1980年代半ば韓国全域を射程距離に置くスカッドミサイルの開発が完成され、1990年代には射程距離を大幅に増やし1,000km以上飛ぶ長距離ミサイルにまで発展させた。

1998年8月、北朝鮮は金正日の国防委員長の再任を前に、テポドン1号を発射する。射程距離約2,500キロ、北朝鮮の最初の長距離かつ多段階レベルのミサイルであるテポドン1号の発射で、北朝鮮のミサイルの脅威は急激に大きくなる

「テポドンがもたらした意味はとても大きかったです。1段推進体の変更、あるいは推進体全体の形状変更、次いでコンセプトの変更についてとても深刻に憂慮するしかなかった。まさにそのような点から見て長距離ミサイルを初めて試したという点、北朝鮮の長距離ミサイル開発に大きなエポックをもたらした事件とみることができるわけだ」(ヤン・ウク/韓国国防安保フォーラムセンター長の言)

しかし、北朝鮮がミサイル開発を重ねるごとに、国際社会も監視と制裁を強化してきた。

2003年2月には、東海(日本海)で最大射程距離100km以上の新型地対艦ミサイルを発射した北朝鮮。この時から米国防総省は、北朝鮮のミサイルに「KN(north korea)」というコード名をつける。本格的な監視体制に入ったのだ。国際社会の対応も迅速だった。

2006年7月には、北朝鮮の第二の長距離ミサイル「テポドン2号」発射直後、国連安全保障理事会は、最初の対北朝鮮制裁決議1,695号を採択し北朝鮮の行為を糾弾した。しかし、ミサイルと核に対する北朝鮮の執着は三大世襲を経る間少しも弱まらなかった

2012年4月、金日成主席の誕生日100回の閲兵式に参加したキム・ジョンウン委員長。

「我々の革命隊伍の陣頭に永遠に金日成同志と金正日同志の太陽旗が風になびき、常に私たちを新しい勝利に導くのだ。最後の勝利に向かって進もう!」(キム・ジョンウン、2012年4月の言)

この日は、金委員長の肉声演説の披露だけではなかった。一度も公開されることのなかった大陸間弾道ミサイルKN-08が公開されたのである。推定射程距離が最大12,000km、アメリカ本土を脅かすICBMの登場だった。以後キム・ジョンウン委員長は、核とミサイル開発を先代の遺訓と強調しながら露骨な歩みを続けていく。

労働ミサイルと新型放射砲など中短距離ロケットを相次いで発射し緊張を造成するかと思えば、2015年5月にSLBMと呼ばれる潜水艦発射弾道ミサイル北極星1型の試験発射を強行し、2016年3月にはミサイルに搭載する核弾頭の小型化を誇示するまでに至った。

「わが祖国が、どんな強敵も絶対にちょっかいが出せない東方の核強国、軍事強国に躍り上がったのだ」(キム・ジョンウンの2017年新年の辞)

2017年、キム・ジョンウン委員長は大陸間弾道ミサイルICBMの完成に向けてまさに暴走した。5月と7月には、火星-12型と火星-14型を順に打ち上げ、ついに2017年11月には大陸間弾道ミサイル火星15型の試験発射を国の核力の完成だと宣言した。

北朝鮮政権の悲願の核武力の完成を、執権6年目に成功させたキム・ジョンウン委員長。しかし最大の悲願を達成したという対外宣伝は同時に、それまで経験したことのない高強度対北朝鮮制裁に直面する結果をもたらすことになる。

北朝鮮の核・ミサイル挑発が最高潮に達した2017年には、国連安全保障理事会の決議案も出た。北朝鮮の外貨稼ぎの最大の稼ぎ頭である石炭の輸出が禁止され、海外労働者の新規送出も完全に禁止された。史上初めて石油製品の制裁がなされ、繊維製品や食品、農産物、電気機器の輸出も順次全面遮断された。前例のない強硬な措置が多数含まれた決議案は歴代最強と評価された。

「非核化対話に出てきたのも、金正恩書記から見るとき、白頭血統という金氏体制を維持をするためには、そのような圧迫やマックスのプレッシャーがあまりにも脅威に感じられたのでしょう」(イ・ホリョン/韓国国防研究院研究委員の言)

「制裁があまりにも累積的に強化されたため、ある時点に至ればこの制裁が最終的には政権を脅かす短剣になるはず。結果的に、北朝鮮は小さな戦いには勝ったかもしれないが過去30年の大戦争には最終的には負ける、私はそのように見てる」(キム・ジンム/淑明女子大国際関係大学院教授の言)

「我々の自主権および尊厳、生存権を脅かすいかなる勢力も、いささかの容赦もなく、即反撃を加える英雄的朝鮮人民軍の堅固な意志を誇示した訓練は、胸がすっきりするほど見事に終わった。」(朝鮮中央TV / 5月4日の放送から)

 

北朝鮮当局は、今回の2回のミサイル発射を、正常かつ自衛的な軍事訓練と規定している。

しかし、非核化交渉が足踏み状態に陥った中で、北朝鮮のこのような態度は、過去に回帰するような印象を与えている。それでも対立と反目和解と戦略的交渉というこれまで何回も繰り返された轍を踏むことはあってはならないという評価だ。

「ミサイル防衛システムを回避することができる先端武器体系という点で、国際社会が共通共同で非難し、国連安全保障理事会でせねばならないことは積極的にやり、これまで1年半の間引きずってきた北朝鮮の非核化交渉がまだその火種は生きているのだ。過去30年余りの間、ジュネーブ合意以降、ほぼ30年近く経つ間、実際にこんなに長く北朝鮮が何の挑発もせずに交渉に素直に応じたことは一度もありません。これからはこの交渉の火種を生かし、とにかく、北朝鮮を交渉の場から出て行かないようにし北朝鮮が何とか核をあきらめることができる交渉に引っ張っていくことが政策の優先順位の最優先にあるものだと私はそのよう見ます」(キム・ジンム/淑明女子大国際関係大学院教授の言)

節目ごとに核とミサイルで突破口を見つけようしてきた北朝鮮。しかしその武器は、数十年後最終的にブーメランとなって自分を孤立させる結果をもたらした。やっとこさっとこ醸成されてきた対話のチャンス…北朝鮮がこれ以上軍事力ではなくして会話によって国際舞台に出てこなければならない理由である。

それをどうやって北に理解せしめるか。米、韓をはじめとした周辺国がやらねばならない課題だが、だんだん、昔といっしょになってくるんじゃないかという一抹の不安はある。トランプがどんなやり方でこの膠着状態を脱するのか。トランプに負うところが大きいものと思われる。(安倍首相やムン・ジェインではょっとむりかも)。

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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