先日掲載の「米Google、ファーウェイのGmailなど利用停止へ。既存の端末は?」等でもお伝えしているとおり、対外的には米国との貿易戦争の真っ只中に身を置く中国ですが、内政面でもその強面ぶりを崩すつもりはないようです。台湾出身の評論家・黄文雄さんは今回、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の中で、香港に対する習近平政権の情け容赦のない「中国化政策」を紹介。約束されていたはずの「一国二制度」を中国が認めるはずがない理由を記しています。
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年5月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【香港】中国化する香港の絶望的状況
香港の議会が紛糾しています。発端は、中国本土への容疑者引き渡しが可能になる「逃亡犯条例」改正案でした。
この改正案が議会に提出されたのは3月末で、審議が始まったのは4月初旬でした。そして5月中旬になった今もなお審議は紛糾し、5月11日の議事進行中にはケガ人が出る騒ぎとなりました。
「逃亡犯条例」改正案は、容疑者の身柄を中国本土に引き渡すことを可能にする条例であるため、民主派の議員らは「中国に批判的な活動家らが引き渡されるおそれがある」という理由で反発しています。
5月11日の審議でケガ人が出る前に、多くの市民を巻き込んでの街頭デモも行われました。このデモの参加人数は、主催者発表で13万人以上、警察発表で2万2,000人です。この数字の違いからして、香港はすでに中国化していますね。
そもそも、「逃亡犯条例」改正案が浮上したのは、2018年に香港人の男性が旅行先の台湾で交際中の女性を殺害し、香港に逃げ帰った事件がきっかけでした。
香港と台湾は犯罪人引き渡しに関する協定を結んでおらず、容疑者の身柄を台湾に移送できないことから、事件当時は台湾と香港で多くの議論を呼びました。そして出てきたのが「逃亡犯条例」改正案というわけです。
報道によれば、「香港政府トップの林鄭月娥行政長官は「(改正は)中国政府の意を受けたものではない」と強調。引き渡しの要件を、殺人など重大犯罪のみに限り、経済犯罪を除外する方針を示した。親中派が多い商業界の支持を取り付けようとの考えだ」
つまり、行政側が認めたケースはすべてこの条例にあてはめることができるという、非常に柔軟性のある条約となるわけです。そこで香港市民および民主派議員が懸念しているのが、反中的な言動や思想を持つ人が、「赤狩り」のように中国に連行されてしまう、ということです。
香港では、2014年の雨傘革命以後、断続的にデモはありましたが、それらすべては中国の手によって握りつぶされてきました。そして4月末、雨傘革命の中心的役割を担った活動家たちに禁固刑が言い渡され即日収監されたのです。
● 14年の香港民主化デモ提唱者に禁錮刑 中国政府への抵抗に壁
話は少し違いますが、1月には「中国国歌への侮辱行為」に禁錮刑を科すことを盛り込んだ国歌法が可決されています。香港では、サッカーの国際試合で香港のサポーターが中国国歌にブーイングを浴びせるケースが相次ぐなどで、中国政府は問題視していました。そこで、香港政府にゴリ押ししたのが「国歌法」です。中国国歌を、替え歌などで意図的に侮辱する行為を禁じ、違反者には最高で3年の禁錮刑と5万香港ドル(約70万円)の罰金を科すものです。小中学校での国歌教育実施の明記のおまけつきです。
● 中国国歌法、香港にも適用へ=替え歌やブーイングに禁錮刑も
こうして、徐々に中国色が濃くなっていく香港において、市民は最近では諦めに近い心境なのか、政治への関心が薄れてきているとも言われています。どれだけ反対しても、どれだけ力を終結させても、徹底的に潰される現実を、香港市民は身をもって知っています。
「一国二制度」との建前があるため、形式的には個々の政府を持っていますが、香港側が中国の言いなりになって立法手続きを行うことで、香港は中国の思いのままです。香港議会は親中派が占めていますから、中国に逆らうようなことはありません。香港は、これからも真綿で首を絞められるように、徐々に中国への同化を強いられるのです。
台湾人は、こうした香港の悲劇をしっかりと見るべきです。何度も言いますが、「一国二制度」のまやかしで餌食にされた香港の例があることを、2020年の総統選挙に向けて台湾はしっかりと教訓にするべきなのです。
香港の「一国二制度」は、香港返還時に英中双方による国際的な約束で、50年間はこの体制を維持することを両国で取り決めたわけですが、2017年の行政長官選挙に中国政府が介入し、民主派候補の立候補が制限される事態となり、この約束は中国側によって事実上、反故にされています。
中国では、漢、晋、明といった諸王朝時代から封建制を敷いており、中央集権国家でした。それは今でも変わっていません。香港に対して「一国二制度」という建前を保ってはいますが、その実は、歴代王朝同様に香港を中央集権の一部に取り込んだだけであり、「二制度」は有名無実化されているのです。
香港がイギリス領となったのは、アヘン戦争の結果でした。もともとイギリスは舟山諸島を欲しがったのですが、舟山諸島は長江の出口で、清朝には都合が悪かった。そこで清朝は、人口5,000人しかなかった漁村の島を与えたのでした。それが後に、中国人の駆け込み寺的な存在となり、人口が約1,000倍以上に急増した上に、世界の金融センターとしても有名になりました。日本が一時占領した満州国もそうでしたが、中国と切り離され他国に統治された地域は、近代産業社会へと急激に変貌しました。この事実を中国は冷静に見つめるべきでしょう。
香港人の運命は、全人類にとってひとつのモデルケースです。中国に返還されたことにより「籠の鳥」になるだけでなく、「法治国家」から「徳治(人治)国家」へと後退したモデルケースです。中国が「一つ」である以上、返還後の香港の「中国化」は免れず、「一国二制度」が形骸化するのも避けられません。
香港人は、かつて享受していた自由と人権を守りたいと思っている一方で、中国人からすればそれは贅沢な要求です。香港に一国二制度を許したら、「一つの中国」の大原則が揺らいでしまうからです。
中国には中国の仕組みと原則があるのです。「天下はひとつ」「大同」が中国の原則です。もっと言えば、世界を一つの中国にしたいというのがチャイナドリームです。そんな壮大な夢の前に、香港の自由などあまりに小さくどうでもいいことです。香港ごときに「一国二制度」を許すことはできないというのが、中国の言い分なのです。
チベット、ウィグル、内モンゴルも、無理やり併呑されて漢族の移住と独自文化抹殺によって「中国化」が進められました。現在はキリスト教やイスラム教を中国政府の完全支配下に置く、「宗教の中国化」も進められています。大量のウィグル人強制収容も、その一環として行われています。
中国に飲み込まれた以上、一国二制度や高度な自治、多種多様な価値観などは決して容認されず、待っているのは同化しかありません。それこそが「中国の夢」なのです。
image by: Gil Corzo / Shutterstock.com
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