MAG2 NEWS MENU

【書評】厚労省の本音は「1円も年金を受け取らずに死んでほしい」

「マスコミは年金について本当のことを書けない、だから俺が書く」──というのは、ニュースキャスターでありシンクタンク経営者の辛坊治郎氏。そんな辛坊氏が歯に衣着せぬ物言いで厚労省の本音や日本に巣食う「おかしな人々」を綴った一冊を、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんがレビューしています。

偏屈BOOK案内:『壊されつつあるこの国の未来』 

壊されつつあるこの国の未来
辛坊治郎 著/KADOKAWA

官僚がおかしい、政治家がおかしい、北朝鮮情勢はどこへ向かう、思いもよらなかった事件が増えている、メディアを巡る闇……という章立てで、危険領域に入った日本の未来に斬り込む辛坊治郎。日本の役所の規制は相変わらず酷い、東京のメディアの「御用体質」も相変わらずだ、と歯に衣着せぬ物言いがステキである。

マスコミが年金について本当のことを報道すると、厚労省に睨まれて仕事がしづらいので、厚労省記者クラブ所属の記者は年金について本当のことを書かない。辛坊は本当のことを書く。政府は厚労省主導でまたもやアホな「高齢社会対策大綱」を決定した。受給開始年齢を選べる公的年金をさらに遅らせて受給することができるように法整備する方針を示した。この制度は○か×か。

年金制度というのは大きなプールに入っているお金(今後入ってくる予定のものも含めて)を長い時間にわたって高齢者に配る制度だから、今の高齢者が得をするということはイコール将来の高齢者が損をするということだ。かつては年金開始は60歳だったが、殆ど誰も気がつかないうちに65歳に引き上げられた。民間の保険や年金でこんなことをしたら、間違いなく詐欺で訴えられる。

現在の制度で65歳から満額支給される公的年金は、受給開始を繰り下げると受給額が増える。限界の70歳までのどのタイミングで受給を開始しても、損益分岐点は約12年である。いくら説明されても算数に弱いわたしはよく分らんが。政府は70歳をさらに遅らせることができる制度も提案している。たとえば、75歳まで受給開始を遅らせると65歳受給開始の人より年金月額で1.84倍になる。

この場合、10年分の年金を取り返すのに必要な年金は約12年、87歳まで生きるとトントン。男性の平均寿命を考えると、72歳を超えて受給開始年齢を遅らせると損する方が多くなる。女性は長生きで、65歳女性の平均寿命は90歳に達しているから75歳まで受給開始を遅らせても、一般論としては総額で得をする。

厚労省が考えているのは「多くのお年寄りが72歳を超えるまで受給を遅らせてくれると年金支給総額を圧縮することができ年金財政的に助かる」ということらしい。もっと言うと「1円も年金を受け取らずに高齢者が死んでくれると助かる」ということだ。そうはいっても、多くの高齢者は受給開始年齢を遅らせる余裕はない。

一部の富裕層は受給開始を遅らせられるが、一般的に富裕層ほど長生きである。健康管理をしっかりしているからだ。富裕層は超高額の年金を超長期にわたって受け取る権利を得られる。さらに、公的健康保険が使えるようになった新種の抗がん剤は、近い将来がんが克服される時代を予感させる。そうなると平均寿命はさらに延びる。年金額は死ぬまで保証されるから、長生きするほどお得である。

ということは、年金制度という大きなプールに入っているお金が減り、制度の将来像も危うくなる。「厚生労働省は本当にアホです。若い皆さんこんな連中に制度を預けておくとホントに皆さんの老後は暗いですよ」と辛坊はいうが、じゃどうすればいいんだ。わたしはとっくに年金生活者で肩身が狭い。若い人に申し訳ない。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

日刊デジタルクリエイターズこの著者の記事一覧

デジタルメディアで活躍する現役クリエイターたちのコラムで構成されている本格派。総発行部数約16000! 真のクリエイターを目指している方からデジタルに関わる方まで、すべてに向けて発行中!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】 』

【著者】 日刊デジタルクリエイターズ 【発行周期】 ほぼ日刊

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け