金融庁が発表した「老後2千万報告書」を巡り、公的年金の悲観的な行く末が大きくクローズアップされ報じられましたが、世界的エンジニアでアメリカ在住の中島聡さんによれば、米国においても年金はあまり期待できない状況だそうです。しかし、「401K」と呼ばれる個人年金となると話は別で、「自然に大きな老後資産が築けるようになっている」とのこと。今回中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』でその401Kの優れた仕組みを紹介するとともに、日本のマスコミも国民が老後に備えた行動を取ることができるよう、「確定拠出年金」のメリットを宣伝すべきではないかと記しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年6月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
年金vs.401K
日本では、年金不足が大きな問題になっているようです(参照:「『老後資産2000万円』問題、私的年金の議論に冷や水」)。
しかし、こうなる運命は、日本の年金を「自分たちの世代が支払ったお金が戻ってくる」貯蓄型から「若い世代が高年齢層を支える」(悪く言えば)ネズミ講型に変えた時から決まっていたように思えます。長期的なビジョンを持った国家戦略を進める政治家よりも、短気的な政策で国民を満足させる政治家の方が選挙で勝つという民主主義の典型的な弱点が露呈した形になっています。
米国も年金にはあまり期待できない状況ですが、一つだけ大きな違いがあります。401Kと呼ばれる個人年金の普及です。税制がとても上手に設計してあるため、そのシステムを上手に利用すると、自然に大きな老後資産が築けるようになっているのです。
例えば私の場合、Microsoftからの給料のうち6%までは401Kに入れることが出来て、さらにMicrosoftがその半分まで(つまり3%まで)プラスアルファで支給してくれるというボーナス付きでした。
そのボーナスだけでも素晴らしいのですが、その収入分(6%+3%)の所得税が引退して引き出す必要が生じるまで免除されるという画期的な税制がありました。所得税は累進課税なので、働いているときは税率が高いですが、引退した後であれば所得が低いので、税率も低いのです。
さらに凄いのは、401Kの口座で生じた利益(利息、配当、株の売買によるキャピタルゲイン)全てに対する課税も、引き出すまで免除というシステムなので、資産が税引き前の複利で増えていくため、その効果は絶大です。
結果として、私がMicrosoftの米国法人で働いていた10年間(1989年末から10年間)で貯めた401Kの資産が、今では90万ドル弱(日本円だと9,000万円強)にまで増えています。
私の場合、サラリーマンだったのはわずか10年間ですが、30年ぐらい真面目にサラリーマンをして401Kを活用していれば、1~2億円の老後資産を貯蓄することが十分に可能なシステムなのです。
そうは言っても、所得税が引退するまで免除されるメリットとか、資産運用が無税で出来るメリットとかがちゃんと理解出来ない人は401Kを活用しないため、結果的に401Kのメリットが理解出来る人だけが老後資産を形成できているという、「情報格差」が生じているのは、少し残念なところです。
日本にも確定拠出年金と呼ばれる、米国の401Kに似たシステムがあるようです。リンク先のWikipediaの記事を読む限りは、税金の控除や企業からの補助などのシステムもとても良くできているように思えますが、あまり普及しているとは思えないのがとても残念です。
日本のマスコミも、こんな時にこそ確定拠出年金のメリットを宣伝して、国民自らが老後に備えた行動を取るように促すべきだと思いますが、残念なことに、そんな役割を自分たちが担っているとは想像もしていないような記事ばかりです。
image by: Shutterstock.com
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