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【書評】日本に生まれてよかった。何を取り上げても美しい日本語

日本で作られた国字のひとつに「働」がありますが、この字には「働くことを重要視し愛してきた日本人の心が込められている」とするのは、言語学者の金田一春彦氏。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、その「働く」といったような、「日本人に生まれてよかった」と思えるほどの美しい日本語の数々を記した、金田一氏による一冊の本をレビューしています。

偏屈BOOK案内:金田一春彦『美しい日本語』

美しい日本語
金田一春彦 著/KADOKAWA

金田一春彦は有名な言語学者、国語学者である。父・京助、次男・秀穂は言語学者、長男真澄はロシア語学者である。私立探偵・金田一耕助は横溝正史が拵えた架空のキャラクターである。この本を書くため、過去の著作を読み返すと言葉足らずだったり、筆が走りすぎていたり、まさに汗顔の至りだったという。こういうことを言える謙虚な学者さんはいいな。しかも言語学者だもの。

一人の人を相手に説明するコツがある。難しい込み入ったことを説明する場合にもきっと役に立つ。

  1. 相手の知識をなるべく活用すること
  2. 相手の知っているほかのものに結びつける
  3. 相手の知らないものについて言ってはゴタゴタするだけである
  4. 目に見えるように話すこと
  5. あまり一度に多く言ってもムダであること
  6. 第一印象というものを重んじること

説明にはいろいろ方法があるが、相手の親しいものでそれに似たものを考え出しあれのようなものだと言うのが一番いいことがある。渋沢秀雄が来日したばかりの外国人を連れて歌舞伎へいったところ、演目が「勧進帳」だった。外国人はいろいろ尋ねてくるが、説明しにくいので思いついて「これは昔パスポートなしで税関を通り抜けようとしている話だ」と言ったら理解したという。

新潮社が叢書「日本文化シリーズ」を企画し、執筆予定者を一堂に招集した。編集部が企画を説明し、自分の得とするものを書いてほしい課した題は参考程度にと言ったが、集まった人たちの中にはなかなかすらっと飲み込めない人がいる。大宅壮一が「つまり、デパートではなくて名店街のようなものにしたい言うんやね」という念押しで、執筆者一同も趣旨を飲み込むことができた。

文法の中で、日本語の特筆すべき点を上げると、「の存在である。著者は日本語の中で一番自慢できるのは「が」だという。主格を表す「を持っている言語は日本語だけらしい。日本語は主語を表す「が」と「は」があって区別が難しいという外国人がいるが、正しくは主語を表すのは」の方だ。

「働く」という字は国字、つまり日本製だ。一般に国字は訓読みだけで音読みはない。しかし「働」は「ハタラク」という訓と「ドウ」という音読みを持つ。いかに日本人がこの国字を重要視しているかがわかる。中国では「勤」「労」「務」などの漢字をあてる。どの字も義務的にいやいやしかたなく、という語感が漂う。それに対して「働く」は、人がいきいき動いている感じがする。

現在はこの国字が中国に逆輸入されて使われている。「働く」は英語ではworkになるが、日本語のほうが語義が狭く、使い方がやかましい。「働く」は自分のために何かをすることではなく、何かほかの人の利益になることをいう。反対語は「遊ぶ」だが、playとはちょっと違い、何も役に立つことをしないことで、あまりいい意味ではない。いまのわたしの立場を表しているようである。

忘れて欲しくない日本語に「いそしむ」がある。英語では「励む」endeavorになるが、意味が違うだろう。「励む」はがむしゃらに働くことだが、「いそしむ」は働きながらそこに喜びを見出しているというニュアンスがある。日本人は働くことをことのほか愛する。だからこのようなステキな言葉ができた。

英訳が難しい日本語がある。「気にする」「気が置ける」「気がね」などの言葉に出てくる「気」や、「義理」「厄介」「人情」「迷惑」など独特の雰囲気を含んだ言葉だ。「今年もどうぞよろしく」「日頃お世話になっております」「つまらないものですが」など、直訳では相手の外国人は意味がわからないだろう。日本語は面白い。日本語は美しい。日本に生まれてよかった。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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