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部屋の中で見つけた「青いボタン」の正体がわかったときの衝撃譚

日常生活において不思議に思ったり、ちょっと気になったあれこれについて考察するメルマガ『8人ばなし』の著者の山崎勝義さんが、つい先日まで気になっていたのは、2か月前に部屋で発見した「青い飾りボタン」のことでした。そして、このボタンの正体がわかったときの衝撃を語るとともに、自信を持っていた能力に対し懐疑的になったと述懐。自己弁護のためにある一つの真理を導き出しています。

青いボタンのこと

書斎の床で青いボタンを見つけた。2か月前、ちょうどゴールデンウィークのことである。 「青い」と言っても、ただ青いだけの普通のボタンではない。青色の糸が経緯をなして小布を作り、それがボタンのおもて面全体を覆っているのである。形状はマーブルチョコレートのようで大きさはそれよりも一回り大きい感じである。裏側は白いプラスチック製で、中央部分の留め具のようなパーツが折れているように見えた。

困ったことに、これが何のボタンなのか皆目分からない。既に説明した通りの飾りボタンである。きっとコートやジャケットなどの上着類か、あるいはバッグなどの小物類から取れてしまった物に違いない。そう考えてあれこれ思い出してみる。 あり得ない。大体「青い飾りボタン」である。自分の持ち物の中にこのボタンの出所となるような物はない筈だ。一応念のためクローゼットの中も確認する。やはり自分の物ではない。となると、誰かの物ということになる。

発見場所の周辺を捜索して手掛かりでも見つけられればいいのだが、あいにくそれは私の書斎の状態、というより常態が許さない。それこそ足の踏み場もないのである。そこここに書類や郵送物が堆く積まれており、不用意に手を出したら大惨事を招きかねない。 そういう危険もあって、この部屋には基本的に自分以外には入ることはない。かと言ってまたゼロとも言い切れない。仕事関係で訪ねて来た人に書類などを直接部屋まで持って来てもらうことも時にはあるからだ。 それに該当する可能性があるのは男性1人、女性2人の計3人である。どうにも無視する訳にはいかなかったので、全員にボタンの写真を送って確認してもらった。誰も見覚えがないと言う。

ここにおいて万策が尽きた次第だから自分としてはもう打っちゃっておく他ない。青いボタンはキーホルダーなどとともに小物入れの中に安置されることとなった。
それから2か月が経った7月のある暑い日に私はその答えを知ることになる。

その日は暑いばかりでなく日差しも強かった。たまたま外に用事のあった私は入念に日焼け止めを塗りたくった後、キャップに手を伸ばした。ついにその瞬間が来た。 件の青いボタンはキャップのてっぺんのボタンだったのである。調べると「天ボタン」とか「ぼん天」とか言うらしい。 何と言うことか!この帽子はここ数年、私のデスクの真正面のウォールフックにずっと掛かっていた物なのである。もちろん色はボタンと同じ青である。

私は毎日、数時間単位でこの帽子に正対しながら一向に気付かなかった訳である。「灯台下暗し」といったレベルのことではない。その帽子はLEDの室内灯に皓々と照らされ、見ないようにする方が寧ろ難しいくらいの存在であった。しかもここ数年来の私の大のお気に入りであった。 この出来事は少しばかりショックであった。というのも、昔から目の前の何かと記憶の中の何かを同定する能力には多少自信があったからである。

ここで改めて考えてみる。自分を弁護するために考えてみる。どうやら自分は、帽子を物の最小単位として認識していたようである。それがいろいろなパーツから出来た物であるという考えには終ぞ至らなかったのである。おそらく過去に帽子を作ったり直したりした経験でもあったなら事情は違って来たであろう。

それにしても、機械などの構造に関してはいつだってそれなりに分析的に見ることができるのに、どういう訳だか今回の帽子は全くであった。 「分析的に知らないものは、いくら綜合的にその全体像が見えていても、それらを同定できない」青い天ボタンの青い帽子を見るたびに、きっと思い出すのだろう。 その帽子だが「修理が終わった」と昨日業者から連絡があったばかりである。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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