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「ココロの詩」の最優秀作品「なりたい」の深く美しい言葉の旋律

6月、精神疾患などと闘い、苦しむ人たちから寄せられた「ココロの詩」の優秀作品が発表されました。審査委員長を務めたジャーナリストの引地達也さんが、主宰するメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で、受賞した詩を紹介してくれました。就労移行支援事業所で9月に発売される歌が披露され、その美しい言葉とともに表現された強い思いは、当事者たちにも確かに響いていたと振り返っています。

ココロの詩の最優秀作品「なりたい」のメッセージ

昨年11月から今年初めに生きづらさを抱えた方らからの「ココロの詩」の募集は、予定よりも審査が難航しながらも、先月、最優秀作品に「なりたい」を決定し、季刊誌「ケアメディア」や月刊誌「歌の手帖」等の各メディアで発表された。 作品はレコード会社「エイフォース・エンタテイメント社」から制作され、歌手の逢川まさきさんの歌唱でCD「なりたい」としてクラウン徳間から9月11日発売となることも決定した。 先日、レコーディングを終えた逢川さんは就労移行支援事業所で初めて当事者を前にこの作品を歌った。聴き手の反応は敏感で、歌詞として表現された当事者からのメッセージは切ない中にも力強いことがあらためて実感できた。それは、人生が「うまくいかない」と生きてきたある男性の葛藤である。

「なりたい」を書いた程島正幸さんは、1975年大阪市西成区生まれで、小学生の頃に父親を亡くし、複雑な家庭環境で育ちながら、高校卒業後、約10年トラックの運転手をした。母親との仲たがいによって家を出て、派遣の仕事で近畿地方や広島、山口、福井で過ごすが、リストラにより炊き出しでしのぐなどの支援を受けた後、現在は大阪市港区に住む。双極性障害の冬季うつ病があり、冬季には極端に体調を崩してしまう。 作品はその冬の時期、「状態の悪い時に書きました」という。それが「なりたい」だった。

なりたい
 
花になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
花になりたいのです
名前も知らない 野の花に
踏まれてもなお生きる 野の花に
 
鳥になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
鳥になりたいのです
島を巡る 渡り鳥に
自由に羽ばたく 海鳥に
 
風になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
風になりたいのです
綿毛を飛ばす 秋風に
潮の香(か)運ぶ 海風に
 
雲になりたいのです
生まれ変わったら こんどは
雲になりたいのです
同じ形のない あの雲に
風たなびく あの雲に
 
みんなと同じになりたいけれど
普通に生きたいだけなのだけど
生まれ変わったら 今度も
私は 私になりたいのです
 
失敗ばかりの人生だけど
無駄ばっかりの人生だけど
生まれ変わったら こんども
あなたの子供で 在りたいのです

双極性障害と診断されたのは3年前。リハビリの一環で毎日、文章を書くようになったが、子供のころにいじめにあって友達がおらず、休み時間のたびに学校の図書館で本を読んで過ごしていたのが役立っているかもしれない、という。 リストラにあった後は、公園で暮らした時期もあったという。現在は、公的な自立支援センターでの共同生活や就労移行支援事業所での訓練を経て、一人暮らしをしながら就労継続支援B型施設でパンを作っている。

家を飛び出したのが「頑固な母親」との不和が原因であったが、その母親とはまだ和解はしていない。程島さんは「まだ自分に自信がないからですが、今度生まれ変わって同じような状況になったら、もっとうまくやれると思うんです。それを詩に書きました」と語る。

「なりたい」という切実な思い、再度生まれ変わっても不仲の母親の子供に「なりたい」のは、やはり深く美しい言葉の旋律のような気がしている。

image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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