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国民の命より大企業の儲け。「除草剤」規制緩和が示す日本の姿勢

CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ池田教授は、最近驚いた「3食とも酒だけの食事の村がある」という話を紹介。このことから、巷間語られる健康にいい食事、悪い食事というものへの懐疑をメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で訴えます。さらに、健康を害すものとして世界では禁止の流れになっている除草剤グリホサートの規制を大幅に緩和した我が国の姿勢を糾弾し、そういった情報を報じないマスコミも非難しています。

ヒトは3食とも酒だけの食事でも生きていける?

『現代思想』2019年8月号の特集は「アインシュタイン」で、興味深い論考が並んでいるが、私が一番びっくりしたのは、アインシュタインがらみの話ではなく、最終ページに載っている「研究手帖」という小文である。砂野唯さんという方が書かれた「フィールドワークの中毒性」を引用させて頂く。

「私が初めてフィールドワークを実施したエチオピアの村では酒が主食であり、それ以外の食事をほとんど口にしない。朝起きると朝食として酒を飲み、日中は畑に居ようが村に居ようが喉が渇くと酒を飲んで喉を潤し、おなかが減ると酒を飲んで腹を満たす。夕方、家に帰ると固形食をつまみながら、酒を飲んで夕食とするのだ。日本人である私の常識では、食事は主食のご飯やパンと副食の肉や魚、野菜料理であったし、酒は嗜好品で食事ではない。しかし、酒ばかり飲んでいるにもかかわらず、彼らは酩酊することはなく健康かつ長寿であり、酒ばかりの食生活に飽きている様子はなかった」([現代思想』第47巻第10号、246頁、2019)

俄かに信じられない話だけれど、続きを読むと、

「科学的・社会学的な調査を進めるうちに、彼らの主食とする酒が低アルコール濃度で高栄養価な食材であり、厳しい気候の中でエクステンシブな農法を行う彼らの生業・生活に適した食事であることが判明した」(同書)

と分かったような分からないようなことが書いてあった。

ちなみにエクステンシブな農法とは、単位面積当たりの土地に資本や労力をあまり投下せず、自然に任せて営む農業のことで、この反対が集約農業である。私流に解釈すると、あまり真面目に働かないので、朝から酒飲んでいても暮らせるということなのだろうか。

酒飲みの私としては実に羨ましい暮らしだけれど、日本で同じことをしたら、家族の鼻つまみになり、うっかりすると病院送りになりかねない。所変われば品変わるとは言え、朝昼夕の三食が全部酒というのは、さすがに驚いた。いくら低アルコール濃度で高栄養価の食事であったとしても、酒だけで健康かつ長寿を保てるのであれば、日本で巷間叫ばれている、酒はほどほどに、週に2日は休肝日、といった標語は、いったいどうなっているのだろうね。

1つ考えられる理由は、この村のような食習慣が確立すると、アルコールに弱い遺伝的素質を持った人は、徐々に淘汰され、残ったのはアルコールに強い人だけだというもの。もう1つ考えられるのは、血中のアルコール濃度がごく低ければ、ほぼ常にアルコールが血液中に存在しても、健康には影響がなく、適度な栄養分を取っていれば、ヒトは生きられるというものだ。実際、醸造酒(日本酒、ワイン、ビール)には炭水化物、タンパク質のほか、豊富なビタミンやミネラルが入っている。脂質はほとんどゼロだが、脂質は炭水化物から合成できるので、酒だけ飲んでいても生きられると言われれば、そうかもしれないと納得できる。

大体、ヒトはどんなものを食っていてもそこそこの歳まで生きられるのではないかと思う。野菜をほとんど食べなくて、肉と魚と酒だけで80歳過ぎまで生きた人を知っている。ビタミンC不足で壊血病にならなかったのは、魚を生で食べていたからだろう。ほとんど、アザラシの生肉しか食っていなかった時代のイヌイット(エスキモー)の人々も生きていたわけだから、多種類の食品をバランスよく食べなくても、生きるには恐らく問題はないのであろう。

そうはいっても、毎日同じものばかり食べろと言われれば、勘弁してもらいたいと私ならば思う。衣食住が足りている多くの現代人も、私と同じ考えだろう。私は32年間、毎日酒を欠かしたことはないが、3食、酒だけ飲んで暮らせと言われたら、気が狂いそうになるな。

いろいろなものを食べるのは、健康や長寿のためではなく、楽しいからである。しかし、単に楽しいためというのは何となく後ろめたいので、尤もらしい後付けの理由をつける。健康や病気の予防のためというのが最も流行っている言い訳だが、すると今度は、おせっかいな人が、これこれの食べ物は体に悪いなどと言い出す。酒はその最たるものだが、酒だけ飲んで生きている人々の存在は、こういった言説に対する強烈な反証である。

尤もらしい理由をつけるのは食品の摂取についてだけではない。財務官僚の利権と大企業の私利私欲のために存在する消費税は、国民の福祉のためという名目で導入されたが、福祉にはほとんど使われていないのは周知の事実である。山本太郎は見事にそのからくりを暴いて見せた。

話が横道にそれた。健康・長寿は、食材の種類というよりも、炭水化物、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルが過不足なく摂取されるかどうかにかかっているわけで、特定の食材が特に健康にいいわけのものではないのだ。何を食っても寿命にさして差が出るわけのものではない。但し、放射性物質が入っている可能性があるもの農薬漬けのものは避けた方が無難である。

多国籍バイオ科学メーカー・モンサントが開発した除草剤のグリホサート(商品名ラウンドアップ)を、長年使用していたため悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫)を発症したとして、同社を訴えていた複数の裁判で、2018年8月に出た2億9000万ドルの損害賠償金の支払い命令に次いで、2019年3月にも、8000万ドルの支払い命令が出て、2018年6月にモンサントを買収したドイツのバイエルは窮地に立たされて、株価が急落した。訴訟は1万8000件を超えており、泥沼になることを恐れたバイエルは、和解のために80億ドル(8500億円)を支払う方針だというニュースが最近になって伝わってきた。

EUではこれを受けてグリホサート禁止の動きが加速している。あろうことか日本では、2017年12月にグリホサートの使用規制を大幅に緩和し、ソバで従来の150倍、ヒマワリに至っては400倍に緩和した。家庭用のラウンドアップは100円ショップなどで売られていて、安全だと信じ込まされている人も多い。日本のマスコミはそういう国民の安全に関する重要情報は全く流さない。国民の健康よりも大企業の儲けの方が重要だと思っているようだ。

EUで福島第一原発のような事故が起きたら、訴訟ラッシュで原発の会社は何兆円にも及ぶ賠償金の支払いを命じられると思う。原発を推進した政府自民党も、東京電力も、一切責任を取らない国は異常である。口を開けば、食べて応援とか、風評被害とか言って、一般の消費者のせいで福島の復興が進まないかのような言説を流す政府と、その広報機関のマスコミに支配されて、日本はどんどんドツボに嵌っていく。

image by: Shutterstock.com

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