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ガンダーラ仏が日本の仏像より若く凛々しく逞しい肉体である理由

「そこに行けばどんな夢もかなうという」と歌われたガンダーラは、仏像の発祥の地と言われています。彼の地の仏像の姿をご存じでしょうか。日本ではふくよかな姿をしている仏も、若く逞しく表現されています。メルマガ『8人ばなし』の著者の山崎勝義さんは、仏像が作られた背景からさらに西の文化の影響を指摘。ヨーロッパとアジア(Europe+Asia)がユーラシア(Eur-asia)であるという世界史地図を改めて意識しています。

ガンダーラのこと

「ガンダーラ」と聞けば、ある年齢以上の人はゴダイゴの楽曲を思い浮かべるかもしれないが、まあ一般的には仏教美術という文脈で語られることが多いであろう。

仏教美術といえば、我々日本人にとっては、やはり奈良・京都の寺院建築であり、仏像彫刻などであろう。しかし、この豊富で多彩な日本の仏教美術群も、世界の歴史地図上に改めて配置し直してみると、広大なアジア仏教文化圏の東端での結果であることがよく分かる。東に太平洋があるため、これより仏教が東進することはなく、日本は仏教文化の終着駅として大きな役割を果たしたのである。

では西の端はどこだろう。それはインド亜大陸の北西、大河インダスの上・中流域に栄えたガンダーラであろう。

さて、仏教美術の西端と東端を確認したところで、仏像における形態の地理的変遷について指摘しておきたい。仏像、特に如来像は東に行けば行くほどぽってりと太って行く。逆に西に行けば行くほど逞しい肉体となり、面立ちも若く凛々しいものとなる。

こういった地理的変遷に伴う、ある種単純な形態の変化についてはなかなかに興味深いものがある。例えば、おそらくメソポタミアが起源であろうと思われるドラゴンも西に行けば行くほど縦に短くなり胴が大きくなる。ゲームなどに出て来るドラゴンのイメージである。一方、東に行けば行くほど縦に長くなり胴が細くなる。中国を経て、日本まで来ると、胴体がもつれやしないかと心配したくなるほどに長くなる。所謂、龍である

こうした偶像的存在が形態を変えていく現象を人文地理学的に説明するのは容易ではない。ただ、仏像に関してはある程度の説明ができる。それはその誕生の経緯から見えて来る事実があるからである。

仏教の始まりは定かではないが紀元前6世紀とも5世紀とも言われている。当時インドではバラモン教(古ヒンドゥー教)が最大宗教勢力だったから、新興の仏教は弱小であった。そこに外部から強大な勢力が現れた。紀元前326年、アレクサンダー大王率いるマケドニア軍(ギリシア人)がインダス川まで東征して来たのである。

その後すぐに大王は死んだがギリシア人の入植は進み、ギリシア系の支配が確立した。外部勢力と土着弱小勢力は親和性が高い。仏教はギリシア人という大きな後ろ盾を得るために教義の摺り寄せを図ったのである。

本来、仏教は具体的な偶像を持ってはいなかった。信仰の対象たるブッダは法輪という車輪のような形をしたものに抽象化されていた。しかし、これではゼウスを主神とした多神教のギリシア人には到底受け入れてはもらえない。ギリシアの神々は人間と同じような姿をしており、故にそこかしこで彫像にされ信仰の対象となっていたからだ。

ならば、とここに来てブッダは見事なギリシア彫刻になった訳である。このギリシア仏像がインド土着の造形美と合わさってマトゥラ仏像を生み、東へと移動し始めるのである。

さらにガンダーラにおいて、ギリシア多神教の影響を受けたからこそ、仏教の「ほとけ」は「如来」「菩薩」「明王」「天」という序列の下、実にバラエティに富んだものになったのである。こと「天」に至っては、例えば「毘沙門天」や「阿修羅」のようにそれ自体キャラの濃いものが多く面白い。

前にガンダーラをアジア仏教文化の西端といった。しかしガンダーラ仏像にギリシア彫刻の面影を見る時、ガンダーラはヘレニズム文化(ヘレネスとはギリシア人のこと)の東端でもあることが分かる。

紀元前、アレクサンドロス三世(アレクサンダー大王)は僅か10年でギリシアとオリエント、二つの世界を統一支配し、ヘレニズムはインダス川まで及んだ。彼はインダスを渡ったところで力尽きたけれども、ヘレニズムという文化は行く先々でその様式を変えつつもじわりじわりと東進し、例えば今回論じた仏教美術という形ででも六世紀には日本までやって来た

この歴史的事実を思う時、改めて「Europe」+「Asia」=「Eur-asia」という大きな世界史地図が見えて来るような気がした。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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