MicrosoftでWindows95の設計に携わり、現在は米シアトル等世界中で活躍する世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、アジア14カ国中で出世意欲が最下位になった日本の現状について、格差を固定化する原因には日本人の国民性があるのでは、と指摘されています。さらに、日本政府の「AI戦略」には効果がないと、海外事例と比較しつつ述べられています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年9月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
日本は出世意欲が最低、断トツで自己研鑽していない国に
日本が、「上昇志向」「自己研鑽」「起業・独立志向」において、アジア14カ国の中でもっとも低い、という調査結果です。この記事は、「なぜそんな状況にあるのか」にまでは踏み込んでいませんが、そこに関しては、成毛眞氏の Facebook でのコメントがとても鋭い指摘をしているので紹介します。
パーソル総合研究所「APACの就業実態・成長意識調査(2019年)」
要約すると、嫉妬しやすい国民性だから、成功した人がロールモデルとして表に出てこない、という話です。
米国では、そもそも慈善事業は、税金ではなく、個人の寄付によって成り立っているため、お金持ちが大口の寄付をするのは当たり前だし、それも記名式(誰がいくら寄付したのかが公開される)が一般的です。私自身も、地元の Seattle Symphony や Children’s Hospital に毎年のように寄付をしているし、寄付集めのイベントのために自宅を提供して音楽会を開いたこともあります。Roger Federer とテニスをすることが出来たのも、Roger Federar Foundation に寄付をしたからです。
そんな活動をしていれば、自然とその地域では誰がお金持ちか、どんな家に住んでいるかを知られることになりますが、それもごく自然の話で、社会の反応も、大半は「自分もいつかは成功して、そんな生活がしたい」というポジティブなものです。
文化の違いと言ってしまえばそれまでですが、それが結果として、日本人の上昇志向にマイナスの影響を与えているというのは大きな問題だと思います。
日本の「AI人材教育」に意味がないワケ
Artificial Intelligence: Salaries Heading Skyward
「AI エンジニア」の給料が高騰しているという話です。この記事で紹介されている Indeed.com のデータによると、シリコンバレーのソフトウェア・エンジニアの平均給与は $134,135 (約1420万円)ですが、AI エンジニアの場合は $169,930(約 1800 万円) だそうです。
ちなみに、この記事で紹介されている「AI エンジニア」とは、単に AI 関係のプログラムが書けるだけでなく、しっかりとした科学知識を持った、博士号や修士号を持ったエンジニアのことで、New York Times によれば世界に1万人しかいないそうです(Element AI によれば2万2千人)。
AI 教育に関しては、カーネギー・メロン、MIT、スタンフォード、University of California、University of Washington がトップ5の教育機関として紹介されています。
結局のところは、「AI エンジニア」を育てるには、高等教育を充実させるしかないのです。日本政府は文系の学生にもAIの初等教育を受けさせるという「AI戦略」を立てたそうですが(参照:政府「AI戦略」を発表 、新たなAI人材教育を業界はどう見る!? ーすべての高校生・大学生がAIの基礎を習得へ)、行列や統計の勉強をしていない学生に「AIプログラミング」だけを教えても意味はないと思います。
そんな表面的なアプローチよりも、高校での行列や統計の授業を充実される、数学が優秀な学生が進学しやすくする、優秀な理系の学生には返済不要な奨学金を与える、などのアプローチの方が私は効果的だと思います。
image by: shutterstock.com
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年9月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。