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驚き?でも納得。妊婦のダイエットが子どもを太りやすくする理由

日常生活において不思議に思ったり、ちょっと気になったあれこれについて考察するメルマガ『8人ばなし』。著者の山崎勝義さんが最近気になっているのは、身の回りというか腹周りや二の腕周りの脂肪のことなのだそうです。その脂肪が大きくなったり増えたりするメカニズムについて調べるうちに、妊婦さんのダイエットと、肥満傾向の子どもの気になる調査データを見つけています。

太ること

年を取るほどに気になるのが脂肪のことである。腹周りに、二の腕周り、太もも周りとどういう訳か周りばかりが緩く太くなる。

実はヒトが太っていくメカニズムは最近までよく分かっていなかった。原因となる脂肪細胞(白色脂肪細胞)の振る舞いが解明されていなかったからだ。勿論、脂肪細胞の肥大化が肥満の基本モデルであることは周知の事実である。だが、それだけでは肥満の諸相は説明できないのである。

例えば、脂肪細胞はどんなに肥大化しても直径で通常サイズの1.3倍にしかならない。体積で言えばこれを3乗することになるから、約2.2倍である。この大きさが脂肪細胞の肥大限界という訳である。

ところが、この脂肪細胞の肥大化という事実のみで説明できるのはせいぜいぽっちゃりデブ程度までなのである。つまり、それ以上の肥満となると他の要因があるということである。

論理的に考えて、大きさ的に限界に達したものが猶全体として大きくなっているなら、それは数的に増加していると見るのが自然である。実際、肥大限界に達した脂肪細胞は増殖し始める。肥満の第二段階である。そしてこの増殖が定常化すればそれが肥満の第三段階ということである。

ところが、肥大化した脂肪細胞が増殖を開始するには一つの障壁がある。接触阻害である。これはある種の生物学的リミッターのようなもので、細胞が肥大化し近隣の細胞と押し合い圧し合いのすし詰め状態になると、それ以上の細胞肥大・増殖を抑制しようとする恒常性のための機能である。

逆に言うと、ダイエットに成功して痩せた時は肥大化した脂肪細胞が縮小した状態だから、脂肪細胞間に隙間ができその余裕分は太り易くなる。これが所謂リバウンドではないかと考えられている。

まとめると、肥満の第一段階、つまり脂肪細胞肥大化の段階では、接触阻害のためにそれ以上には太りにくい反面、痩せてもすぐに戻ってしまうという実に悩ましい状態が続くのである。このことには現代人の多くが強く賛同してくれるのではないだろうか。

しかし、肥満も第二段階(脂肪細胞増殖期)や第三段階(脂肪細胞増殖定常化期)ともなれば、生物学的リミッターを越えて猶のことだから、やはり病的なレベルと言わざるを得ない。実際、多くの疾病の近因・遠因となっていること、周知である。

ここで視点を変えてみる。長距離ランナー(つまり、かなりの痩せ型)の脂肪細胞の大きさは通常サイズの半分以下である。ヒトの細胞は遺伝子レベルでそれぞれ固有の大きさを与えられていると考えられている。これに基づけば、もっとも縮小した(これ以上は小さくならない)この大きさこそが本来の脂肪細胞のサイズということとなり、結果として普通体型の人間も既にその脂肪細胞レベルでは肥大化しているということになる。

勿論「固有」という言葉の定義にもよろうが、健康的に生活している人のほとんどが属す群が既に固有の大きさではない(本来のあり方ではない)という物言いにはやはり違和感がある。ヒトの体は必要最低限でデザインされている訳ではないからだ。効率としては理想的な必要十分ですらない。どちらかと言えば、不必要十分である。このマージン確保の傾向は生物として「もしも…」に備えているということに他ならない。

面白いデータがある。昨今ハリウッドセレブなどの美しい妊婦姿が写真で紹介される機会が多くなったせいか、妊娠した女性の間でダイエットが流行したことがあった。生まれた子供の追跡調査をした結果、両親の体型に似ず肥満傾向があることが分かった。これには以下のような解釈がなされている。

胎児がお腹にいる間、母親のダイエットにより必要最低限の栄養しか胎児には届かなくなる。すると胎児は自分が生まれ出ようとしている世界は食糧の乏しい飢餓の世なのかもしれぬと判断し、ほんの僅かな栄養でも効率よく脂肪として蓄えられるような体質に自分自身を変化させる。ところが生まれてみると飢餓とは程遠い飽食の世である。結果、胎児の時の適応が逆にあだとなり太り易くなってしまうのである。実に賢く、それが故に、実に皮肉な話である。

当たり前のことだが、同じような食生活を送っていても、太る人もいればそうでない人もいる。体質と言ってしまえばそれまでだが、一方でわざわざダイエットをしてまでデブを生むのは如何にも馬鹿げた行為のように思える。

今では妊娠中に、アルコールやタバコ、カフェインを摂取する女性はまずいない。胎児に悪影響があることが分かっているからだ。同様にダイエットも避けるべきである。今の時代では、一生のうち一度か二度、あるかないかのことなのだから、この間くらいは自分の体型を一切気にせず、気楽に過ごしたらどうだろうか。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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