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京都ミステリー。龍安寺の石庭へ行く前に知っておくべき3つの謎

年間を通して外国人観光客の多い京都。なかでも高い人気を誇るのが、世界遺産・龍安寺の石庭です。エリザベス女王が来日時に絶賛したことでも有名な石庭は、知れば知るほど引き込まれる様々な謎と魅力に溢れています。今回の無料メルマガ『おもしろい京都案内』では著者で京都通の英学(はなぶさ がく)さんが、ぜひとも行く前に知っておきたい、龍安寺・石庭に隠された謎の数々を、丁寧に解説してくださっています。

世界遺産・龍安寺 謎多き石庭の魅力

龍安寺は室町時代、細川勝元によって創建されたお寺です。有名な石庭は禅文化が盛んだった当時の姿を今に伝えています。

龍安寺は外国人にとても人気があります。1975年にイギリスのエリザベス女王が来日した時に龍安寺を訪れた時にそのニュースをイギリスの国営放送BBCが大々的に取り上げました。それ以来龍安寺の石庭は「Rock Garden」として世界中にその名前が知れ渡りました。1994年には世界文化遺産に指定され、龍安寺はさらに有名になりました。

今回は日本が世界に誇る石庭にスポットライトを当ててご紹介します。訪れる前に事前に知っておかなければ分からない魅力が沢山あります。知らずに行くのと知ってから行くのとでは雲泥の差です。

龍安寺の石庭は幅25m奥行き10mの75坪ほどの敷地に白砂を敷き詰めたものです。小学校などにある25mプールと大体同じ大きさです。その中に15個の石を五、二(七)、三、二(五)、三(三)に点在させたシンプルな庭園です。禅の境地が込められた庭園といえます。室町時代にいたるところで作られた枯山水庭園の代表的な作りです。

石庭は誰がつくったのか?

龍安寺の石庭の作者は諸説ありますが、現在でも不明です。庭石には「小太郎・口二郎」という刻印が刻まれています。しかしこれは作者を断定する材料にはならないようです。ただ小堀遠州が関わっていたのではということも言われています。その理由はまた後ほどお伝えします。

石の数(七五三)にこめられた思いとは?

龍安寺に訪れた際は庭に立ち並ぶ石の数を数えてみて下さい。石の数は全部で15個です。でもどの角度から眺めても必ず1個の石は他の石に隠れて見えないように造られています。このあたりがとても凝った作りになっているのを感じさせてくれます。なぜそのような配置にしたのか?諸説あるようですが、有力なふたつの説(七五三説と虎の子渡し説)をご紹介しましょう。

七五三説

東洋の世界では15という数字は完全を表す数字です。石はどの角度から眺めても必ず1個は隠れて見えません。このように作られた庭は「不完全」な庭ということです。

東洋で縁起の良い数字は「陽数字」と呼ばれるものです。陽数字とは奇数の数字のことです。石庭にある15個の石は東から(五、二)、(三、二)、(三)と並べられています。このうち最初の「五・二」を足して「」、次の「三・二」を足して「」、最後はそのまま「」と3つに分かれて置かれています。この陽数字が「七五三」となります。15という数は七五三を全て足した数で縁起のいい数の総数ということになります。足りないものを見つめ自分が存在することを心から感謝する。龍安寺の石庭にはそのことを忘れてはならないというメッセージが込められているのです。

ちなみに「9」は陽数字の最大の数字で日本の朝廷でも重んじられてきた数字です。朝廷を9が重なる「九重(ここのえ)」というのはそのためです。また朝廷の儀式で菊の節句(重陽の儀)が行われるのは9月9日という最高に縁起のいい日なのです。

東洋では15は完全を表すということですが、これは月の満ち欠けに由来しています。十五夜は満月にあたり、15という数字は「完全」を表すものとしてとらえる思想があります。月は15日かけて満ち欠けを繰り返します。15は月が満ちる最も完成された姿を見せる日の日数です。15に一つ足りない14はその意味でも「不完全さ」を表すのです。

この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば

平安時代に藤原氏が栄華を極めていた時、藤原道長が詠んだ有名な歌です。満月が欠けるようなことがなければこの世の中は全て自分のもののようだと満月が完全なものの例えに用いられています。どれほど栄華を極めていたかは、息子・藤原頼通が宇治平等院鳳凰堂を建てたことを考えると想像がつきますね。あの場所はかつて源氏物語の主人公・光源氏のモデルとなった源融(みなもとのとおる)の別荘跡です。そんな誰もが羨む場所を買い取って人々の極楽浄土を願って鳳凰堂を建てたのです。

日本には「物事は完成した時点から崩壊が始まる」との思想があります。日光東照宮などもそうですが、建造物をわざと不完全なままにしておくことがあります。

龍安寺の石庭も恐らくそのような造りをしたのではないかと伝えられています。

龍安寺に行くと部屋の廊下に座って石庭を眺める人が沢山います。しかし実はこの庭は部屋から立って見るために作られたといわれています。なぜなら部屋の内部から立って見ると15個全ての石を見ることができる地点があるといわれているからです。

虎の子渡し説

南禅寺の大方丈などに「虎の子渡しの庭」と呼ばれるものがあります。配置された複数の石組が川を渡る数匹の虎の姿に似ていることから名づけられたものです。

これは昔の中国の説話に基づいたものです。

虎が子を生むと生まれたての数匹の中には必ずヒョウが1匹混じっているとされていました。そしてヒョウは自分と一緒に生まれてきた虎を食べようとしてしまうとのこと。例えば虎が3匹の子供を生んだら2匹が虎で1匹がヒョウだといます。母親の虎が川を渡る時は子供の虎を子供のヒョウと2匹だけにしないようにしなければなりません。母親は子供のヒョウを背負って1匹ずつ子供の虎に付き添って川を渡るのです。母親は2匹の子供の虎を川の向こう岸に渡すまでヒョウを背負い2往復するのです。どのような子供も平等に愛情を注ぐ母親の子供を想う気持ちがよく表れた故事です。

昔は子供は多めに生んでおいて育てられなければ殺すか捨てるというのが一般的でした。そんな貧しい世相だった時代に庶民に向けて送られたメッセージだったのかもしれません。

虎の母親にとってはヒョウも虎もどちらも自分が同時に生んだ子供です。故事に登場する虎の母親はとてもたくましくて優しいお母さんなのです。

このように庭や建築様式絵画などは逸話の内容や仏教の教え道徳などを表現する手段の一つだったのでしょう。先人が後世に伝えたい教えは数限りなくあったことでしょう。現代はあまりに現実的な日常生活を送るだけになってしまったことはとても残念に思います。

遠近法の謎

あまり知られていないことですが、龍安寺の石庭の平面は平らではありません。見てわかるほど傾いてはいません。でも正面向かって左奥が低くなっています

もちろんこれは排水を考慮した工夫でもあるでしょう。しかし、西側の壁も手前から奥に向かって50センチほど低く造られています。これは視覚的に奥行を感じさせるための工夫です。遠近法を利用し狭い庭を広く見せる高度な設計手法が使われているのです。高さ180センチの土塀は油土塀です。長い年月を耐えるために頑丈な作りになっています。

龍安寺が創建されたのは室町時代です。それまでに造られた日本の庭園や絵画を見る限り遠近法の技法は使われていません

遠近法はヨーロッパのルネサンス期に主に採用されはじめた技法です。龍安寺が建てられた時期は日本にキリスト教が伝わったばかりの時でもあるので、キリシタン大名経由で龍安寺を作庭した人に伝わった可能性があります。江戸時代初期に造営された二条城、桂離宮、修学院離宮、曼殊院などは随所に遠近法が使われています。これらの庭に関わっていたのは茶人作庭家の小堀遠州です。彼は利休七哲の1人・古田織部に師事した茶人で「綺麗さびを確立させた人物としても有名です。現在の京都(日本)の美意識は江戸寛永期に花開いたこの「綺麗さび」の価値観に基づいたものが根底にあるように思います。龍安寺の石庭の設計にはもしかしたら小堀遠州や遠州を知る人物が関わっていかも知れません。

石庭以外の龍安寺の魅力

侘助(わびすけ)椿

方丈の東庭の横に豊臣秀吉が絶賛したといわれる日本最古の侘助椿があります。2月上旬から3月末が見ごろです。桃山時代に「侘助」という人が朝鮮から持ち帰ったのでこの名がついたと言われています。以後侘助椿は利休も好んで茶道の挿し花として用いられるようになりました。

手水鉢ちょうずばちつくばい

龍安寺には銭形をした知足のつくばいがあります。中央の水穴を口の字に見立て上下左右に「」の四文字が刻まれています。それぞれの文字に口という字を加えると「吾(わ)れ、唯(た)だ、足ることを知る」と読むことができます。これは釈迦が説いた知足の心を図案化したもので、徳川光圀が寄進したものといわれています。つくばいは茶室などに入る前、手や口を清めるための手水を張っておく石です。「吾唯足るを知る」という意味は石庭の石を一度に14個しか見ることが出来ない事を不満に思わず満足する心を持つことの教えです。今ある命や健康、五体満足な身体など与えられているもの、すでに持っているものに感謝しなさいということです。完璧は目指さなければならない究極の目標であっても、それを求めてはいけないということなのかも知れません。

いかがでしたか?

今回は世界遺産・龍安寺の石庭に隠された謎やメッセージを中心にご紹介しました。京都のお寺などには少なからず建築様式や、建築の意匠、置かれているものやその配置などに意味やメッセージがあります。小さなことに気を配りながら色々観察していると、人生に対するヒントや気づきが見つかったりします。価値観が大きく変わり、生きていくのが楽になったり、新しい自分との出会いに驚くこともあるでしょう。京都の魅力はそんなところにもあるのだろうと思います。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 英学(はなぶさ がく) 【発行周期】 ほぼ週刊

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