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オンワード大量閉店600店の衝撃。百貨店アパレル終わりの始まり

「23区」「組曲」「五大陸」などを展開するアパレル大手のオンワードホールディングスが、大規模な店舗閉鎖の実施を発表し話題となっています。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、同社をはじめ百貨店向けアパレル企業が軒並み苦戦を強いられている現状を紹介するとともに、オンワードHDが取り組む「構造改革」の成否を占っています。

オンワード、構造改革で大量閉店へ

アパレル大手のオンワードホールディングス(HD)は10月3日、不採算店の閉鎖を実施すると発表した。規模は明示していないが、10月4日付日本経済新聞によると〈グループ全体で国内外に約3,000ある店舗の2割程度に相当する約600カ所を閉鎖する見通し〉だという。大量閉鎖により構造改革を進め収益性を高めたい考えだ。

オンワードHDは同日、2020年2月期の業績予想を下方修正した。不採算店の閉鎖など構造改革で特別損失を計上するとし、連結最終損益は240億円の赤字(前の期は49億円の黒字)に引き下げた。従来は55億円の黒字を見込んでいたが、一転して最終赤字となる。営業利益は55億円から12億円前期比73.1%減)に下げた。売上高は2,560億円(同6.4%増)で据え置いた。

翌4日、19年3~8月期の業績を発表した。最終損益は、構造改革の特別損失252億円を計上し、244億円の赤字(前年同期は14億円の黒字)となった。売上高は前年同期比4.0%増の1,184億円、営業損益は8億円の赤字(同6億円の黒字)だった。売上高は、3月に買収したカタログギフト会社が加わったことが寄与した。

オンワードHDは「23区」「組曲」「五大陸」といった百貨店向けのアパレルを主に販売するが、その百貨店販売で不振が続き業績が低迷している。

同社子会社、オンワード樫山の百貨店向け売上高の全体に占める割合は66%にも上る。その主要販路の百貨店販売で苦戦しているのだ。19年2月期の百貨店向け売上高は前期比5.7%減の906億円と大きく減った。14年2月期から5年連続で減少しており、この間で22.8%も減っている。ブランド別では、この5年間で旗艦ブランドの「23区」の売上高は1.3%減って269億円、「組曲」は15.8%減って97億円となっている。

もっとも、百貨店自体の売上高が年々減少しており、オンワードだけの問題ではないだろう。日本百貨店協会によると、18年の全国百貨店売上高は前年比0.8%減の5兆8,870億円だった。17年に続き6兆円を下回った。ピークとなる1991年の9兆7,130億円からは4割も減っている。ファストファッションの台頭で高価格の百貨店アパレルが敬遠されるようになったほか、少子化や消費者の購買行動の変化が影響した。こうした消費者の百貨店離れがオンワードを直撃したかたちだ。

百貨店向け販売が苦戦しているアパレル企業はオンワードだけではない。三陽商会も主力販路である百貨店での販売が振るわず、業績が悪化している。三陽商会は英高級ブランド「バーバリー」のライセンス販売契約が15年に終わった後、後継ブランドが育たなかったため、苦戦を強いられるようになった。

三陽商会の18年12月期の連結決算は、売上高が前期比5.5%減の590億円、営業損益は21億円の赤字(前の期は19億円の赤字)だった。最終損益は8億円の赤字(同10億円の赤字)。営業赤字と最終赤字は3年連続となる。

レナウンも百貨店向け販売の不振で業績が悪化している。19年2月期連結決算は、売上高が前期比4.1%減の636億円、営業損益は25億円の赤字(前の期は2億円の黒字)だった。最終損益は39億円の赤字(同13億円の黒字)。売上高は減少が続き、利益は幾度となく赤字を余儀なくされている。

このように百貨店アパレルは厳しい状況にあるが、台頭しているアマゾンやゾゾタウンなどインターネット通販に顧客を奪われている側面もあるだろう。近年は個人間取引の中古流通サイト「メルカリ」も脅威だ。ネットで手軽に衣料品が買える環境が整っており店舗での販売は苦戦を強いられるようになった。

オンワードが投資を強化する3つの「成長領域」

もっとも、ネット販売に関してはオンワードHDも力を入れている。19年2月期のEC(電子商取引)売上高は前期比25.8%増の255億円と大きく伸びた。増加額は52億円にもなる。ただ、実店舗等の販売額が70億円減っており、ネット通販の増加分で補いきれていない

オンワードHDはEC販売を強化している。その一環としてか、ゾゾタウンからは撤退した。昨年12月にゾゾタウンを運営するZOZOが始めた10%引きで買い物ができる有料会員向けサービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」(現在は終了)でブランド価値の毀損を嫌ったためだが、自社サイトでの販売を強化するためでもある。ゾゾタウンでは売上高の3割超の手数料を取られるため、同サイト経由の利益率は低い。そのため、自社ECに注力した方が得策と判断したのだろう。

オンワードHDの19年2月期のEC売上高に占める自社ECサイト経由の割合は76%と高い。オンワード樫山だけでいえば85%にも上る。グループのECサイト「オンワード・クローゼット」のアクセス数と購入者数はともに前期比35%増と大きく伸びている。自社ECサイトの会員数も30%増の265万人まで拡大した。このように好調ではあるが、それで満足せず、EC売上高をさらに高めたい考えだ。

17年10月から販売を始めたオーダースーツブランドカシヤマ ザ・スマートテーラーも期待したいところだ。店で採寸してオーダーすると最短1週間でスーツが届く。2着目以降は店に行かなくても採寸した体形データをもとにサイト上でオーダーすることができる。また、地域限定ではあるが、熟練のフィッターが出張して採寸するサービスも提供する。

労働の担い手となる生産年齢人口の減少やオフィスにおける制服のカジュアル化などでスーツの需要は減っている。ただ、勝負スーツを1着は持っておきたいというニーズが高まっており、オーダースーツ市場は例外的に伸びている。様々な業界の企業が参入し、業界の垣根を越えた競争が繰り広げられている状況だ。そうしたなか、オンワードHDは「カシヤマ ザ・スマートテーラー」に磨きをかけて競争を勝ち抜き、市場を開拓したい考えだ。

ともあれ、中~高価格帯のアパレルブランドは百貨店に頼っていては立ちいかなくなっている。新たな販路の開拓や非アパレル分野への進出といった従来とは異なる戦略を採っていく必要があるだろう。

そうしたなか、オンワードHDは構造改革を進めて事態の打開を図る考えだが、成長戦略の面では「デジタル」「カスタマイズ」「ライフスタイルの3つの成長領域への投資を強化する方針だ。

デジタルに関してはEC事業が核となり、カスタマイズはオーダースーツ事業が核となるだろう。ライフスタイルに関しては、生活雑貨や食品などのライフスタイル部門を強化し、これらの販路を活用したり、相互送客することでアパレル事業のてこ入れを図る考えだ。例えば、前述のカタログギフト会社が手がけるカタログギフトの販路でアパレルを販売する、といったような相乗効果を見込んでいくことになるだろう。

百貨店アパレルは岐路に立たされている。オンワードHDの構造改革が成功するのか、注目が集まる。

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店舗経営について動画でわかりやすく解説。
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image by: Shutterstock.com

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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