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「障がい者の学びの場」で見えた新しい人と何かに「つながる」形

さまざまな福祉活動に関わるジャーナリストの引地達也さんは、その活動の中で感じた課題や、得られた気づきについて、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で、伝えてくれます。今回は、長野県佐久市と静岡県伊東市で行なった「障がい者の学びの場」作りのためのオープンキャンパスにおいて感じた手応えと課題を綴っています。

地域福祉の学びを「地域化」するために見えてきたもの

障がい者と市民が共に学びあうオープンキャンパスは今年、地方都市で開催し地域モデルの確立に向けて長野県佐久市と静岡県伊東市での開催を試みた。そこで見えてきたのは、福祉の「地域化」に向けた課題である。

地域とのつながりを大事にする関係者の熱意に心打たれながらも、現実的には「共生社会」「インクルージョン」を実現するために、地方には地方なりの実情があり対応がある。

福祉の領域で障がい者と市民がたどってきたそれぞれの道のりを尊重しつつ、共生社会という次のステージに進むために地方行政がこれまでの措置的な対応から変容するのももちろん大切だが、やはりまだまだ国がメッセージを発し続け、制度化をふまえた見える形での行動が必要だと実感している。

年頭に私は佐久市と伊東市にオープンキャンパス開催の打診をし、文部科学省の研究委託の決定を受け、各市と各市の教育委員会に後援をいただき、各教育機関や福祉事業所、地域のコミュニティへの参加の呼びかけを行った。

チラシの郵送やイーメール、そして訪問。地元新聞への記事掲載やコミュニティFMラジオへも出演した。しかし、これら当初の私の活動はシャドウボクシングをしている感覚だった。相手がいると想定しつつも、繰り出したパンチ(行動)が当たらないのである。

そして同時にその反応は自分なりの解釈として、「障がい者の学び」という新しい概念に戸惑いを覚える心情なのではと推察した。自宅と通所する事業所の往復の毎日と家族との日々が平和に暮らせれば、それも幸せなのかもしれない。

しかしながら、私はその幸せを尊重しながら、もう一歩だけ外に出て、新しい世界や仲間と触れ合う機会を作らなければ本当の地域との共生は成し得ないのではないかと考え、それを行動のエネルギーとして、シャドウではなく、誰かを相手にしたいと動き続けた。

結果的に佐久市でも伊東市でも、その相手は見つかり、オープンキャンパスの当日に多くの障がい者と学ぶことが出来たこと、何よりも参加者が「楽しかった」と言ってくれたこと、アンケートにも「またやりたい」との声が書かれたことは次への励みになった。

今回のオープンキャンパスは理屈を教える講義ではなく、実感・体感をしてもらうプログラムを中心にした。特に音楽を使ってのコミュニケーションでは全員の体に鈴を付けて伴奏をし、プロのピアノコーラスグループ、サームのピアノと歌に合わせたのが面白かった。

最後には全員が円になり伴奏しながら、ハイタッチする光景は、新しい人と何かに「つながる」ための学びの形を示せたのではないかと思う。まだまだ改良を加える必要があるが、重度障がいの方でも「学べる」プログラムの開発に向けて確実な一歩だと考えている。

この学びの実感を得たのは、先述の「その相手」に直接に会ってお話をし、こちらの考えを伝え、真意を理解してもらったことが大きい。私がシャローム大学校を広めたいわけではなく、障がい者の学びを作るためのきっかけにしてほしい、共生社会における当然の機会としての学びの場を地域に位置づけるため、私は種を蒔くために来たのです、という説明だ。

今年の開催を受けて佐久市と伊東市で障がい者の学びが全国における先駆的な地域モデルとして確立するために、来年も取り組みたいと考えている。来年は東京オリンピック・パラリンピックイヤーでもあり、地域の福祉を「共生社会」の中で、誰もが一緒に、を実現するにはよい契機であるのは間違いない。

地方ではまだまだ意識を変える必要があるが、これまでの地域福祉の軌跡の尊厳を保ちながら、新しいステージに行けないかを考え続けている。

image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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