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定年世代に勧めたい。若者から搾取しない「ビジネスの自給自足」

過去のどの国も経験したことのない超高齢化社会となっている日本。「定年後は余生」という考え方は今後も通用するのでしょうか。メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、若者から搾取しないためにもビジネスをしていく必要があると訴えます。それは、現役世代のように利益を追求するものではなく、自分たちのことを自分たちで賄う「ビジネスの自給自足」を目指すのが心身の健康のためにも良いと、持論を展開しています。

仕事と遊びとライフスタイル

1.ビジネスとライフスタイル

自営業の私に定年はない。自分が仕事をしている間は現役。仕事がなくなれば、自動的に引退である。そんな私にも社会的圧力は加わる。どうせ仕事を頼むならば、若い世代の方がいい。高齢者はいつまで仕事ができるか分からないし、何より将来性がない。若い世代で仕事ができる人が見つからないと、仕方なく高齢者に仕事が回ってくる。そんな気がする。

定年代を過ぎた友人や知人は、仕事ではなく遊びに投資する。facebookには、スポーツ、旅行、趣味等の楽しい写真が並ぶ。当然だが、定年になれば仕事をしないのだから、仕事に投資しない。むしろ、残りの人生をいかに楽しく有意義に過ごすか、が課題になってくる。

そういう世代の友人と仕事の話をしても盛り上がらないが、一方で、定年世代を対象にしたビジネスは盛り上がっている。定年世代は巨大な市場だ。この市場を狙うには、ビジネスの発想だけでは通用しないのではないか。

プロのコンサルタントとしても、一人の生活者としても、自分のライフスタイルに向かい合わなければならない。「どのように売上を上げるか」ではなく、「どのように幸せになるか」というテーマが重要だ。マネーから人への転換。そして、遊びと仕事の境界が曖昧になっていく。

2.定年世代の異業種ネットワーク

先日、定年を迎える自動車業界の知人から声を掛けられた。「カーシートに使われるパイル織物のメーカーを知らないか」ということだった。パイル織物は、かなり特殊な織物で、国内では和歌山県の高野口で生産されている。そう説明すると、彼もそれを知っていた。そこから始まって、「パイル織物を残したい」という話になり、「何か新しいプロジェクトはできないか」と発展していった。

私も以前、電車のシートに使う生地を見て、「これでソファーや椅子を作ればいいのに」と思ったことがある。それを電鉄会社や自動車会社のブランドで展開できれば、マニア向けの面白い商材になると思ったのだ。しかし、私一人の力ではプロジェクトを実現できそうにもなかったので、アイディア段階で終わってしまった。

定年が迫る段階で、彼は会社と関係ない新しいプロジェクトに取り組みたいようだった。定年過ぎるからこそできるプロジェクト。会社の予算に縛られず、新しい可能性に挑戦する個人プロジェクトである。

そういうことならば、一人でやるより、数人のグループで取り組んだ方が実現性は高くなる。テキスタイル業界に詳しい私と、自動車の内装デザイナーである知人が組むことで、プロジェクトの見え方も変わってくる。

定年だからこそできるプロジェクトは意外に多いのかもしれない。個人的ネットワークがプロジェクトチームに生まれ変わる可能性を感じている。

3.若い世代のビジネスと高齢者のビジネス

会社の仕事は、若い世代を中心に回っている。若い世代のビジネスは、若い世代がメインターゲットになっている。ICT業界やゲーム業界は、若い世代による若い世代のためのビジネスを展開している。

一方、高齢化社会では、高齢者のライフスタイルが注目されている。しかし、若い世代が高齢者のライフスタイルを理解するのは難しい。高齢者のライフスタイルを理解するのは高齢者だが、それをビジネスにする高齢者は定年を迎えている。ここに大きな需給ギャップが存在している。

定年世代が取り組むべきビジネスは、高齢者のライフタイルビジネスである。高齢者のライフスタイルは、仕事中心ではない。趣味や芸術活動、遊びや旅行、社会貢献や社会活動を中心に回っていく。

あるいは、回っていくべきだと思う。企業組織内の幸せではなく、社会に対峙する個人としての幸せである。それをビジネス化することに意義があるのだ。

4.高齢者が自立できるビジネス

高齢者のビジネスは利益の追求ではない。活動の継続である。株主のためではなく、活動を継続するための経営を行う。余分な利益を上げる必要はないのだ。その活動で生活を維持し、活動が維持できればいい。ある意味では、ビジネスの自給自足である。

社会はビジネスの連鎖で構成されている。例えば、野菜を作るビジネス。その野菜で料理を作るビジネス。その料理を販売するビジネス。それぞれの利益でそれぞれの従事する人達が生活できればそれでいいのだ。

管理職を省き、広告も行わず、お金も借りず、ICT導入も最低限度にとどめる。最低限度のスケールのサプライチェーンを構成し、その中で自立していく。

効率を追求するのではなく、個々の健康維持のために、適度な労働を確保する。人間関係のストレスを削減するために、競争原理を排除する。全ての企業活動と正反対の発想でビジネスを再構築するのである。

高齢者は自立し、若者からの搾取を行わない。そのためにビジネスを行う。高齢者は常に社会活動に参加し、孤立しない。そのためにビジネスを行う。そんなビジネスを考えたいと思う。

編集後記「締めの都々逸」

「利益上げずに 損もしないで 金も借りずに 暮らしたい」

現役世代は、利益を上げることを考える。企業のため、株主のため。でも、定年世代は利益を上げないことを考えた方が良いのではないか。

給料も税金が掛からない程度に抑える。それでも幸せを感じるための趣味や遊びや芸術活動を重視する。それらを教えてくれる人にお金を回す。そうやって、皆が暮らせる社会はできないものか。

国として独立するのは大変かもしれないが、現在の国の制度の中で自立する仕組みを考えるのはどうだろうか。

私は以前、産地の活性化の仕事をしていたけど、結局、衰退する産地の活性化と高齢者の活性化は似ているような気がする。どちらも自立を目指すのだから。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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