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【書評】一部の人間の「正義依存症」が数多の炎上を引き起こす

「正義」という言葉には中毒性があり、不正を働く人々を見つけてはネット上やSNSで正義感によって叩く人たちこそ「正義依存症」なのかもしれません。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、目を背けたくなるけれど、背けるべきではない、そんな『現代の日本』の状況を記した一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:橘玲『事実VS本能 目を背けたいファクトにも理由がある』

事実VS本能 目を背けたいファクトにも理由がある
橘玲 著/集英社

脳科学の実験では、裏切り者や嘘つきへの処罰が脳の快楽中枢を刺激し、ドーパミンなどの神経伝達物質が放出されることが分かっている。かつてドーパミンは、「快楽ホルモン」と呼ばれていたが、いまやその機能は「もっと欲しくなる」焦燥感を煽ることだとされて、泥酔や多額の借金などをやめられなくなる。「バッシング」でも同様で、これは「正義依存症」という病理である。

正義には中毒性がある。不道徳な人間を処罰すると、脳はドーパミンという報酬を与える。匿名で不愉快な相手を叩くのは「道徳(正義)」の一部であり、それがいかにグロテスクでも、我々の社会は市井の「道徳警察」なるものによって支えられている。ネットやSNSには「正義という快楽」を求めて徘徊する人々(中毒患者)が溢れかえり、あちこちで炎上騒ぎを起こしているらしい。

らしいというのは、わたしはそんな現場に近寄るつもりはまったくないからだ。リアル世界で絶対に近寄りたくないのは喫煙の現場だ。駅周辺には微妙な距離に喫煙所がある。そこに立つ人たちは××の見本みたいだが、タバコが合法である以上、その前を呼吸停止して通過するしかない。「喫煙は健康を害する」と言っても、彼らには全然効果がないし、彼らの権利は守らなければならない。

「喫煙者は医療費を増やすことで社会に負担をかけている」という主張がある。がんになれば治療が必要だから、一見わかりやすい理屈だが、よく考えるとそうともいえない。タバコが死亡率を高めることは多くの研究が示しているが、死んでしまった人には年金を払う必要もないし、高齢者医療や介護もいらない。

医療経済学では、こうした効果を総合すると、「喫煙は医療費を削減する」というのが定説になっているそうだ。世界的に受動喫煙が問題とされるようになったのは、こうした背景があるからだろう。喫煙者がフィルターを通して吸い込む煙より、副流煙の方が有害物質が多く含まれることが明らかになった。

喫煙者よりも、そばにいる非喫煙者の健康のほうが危険である。だから客だけでなく、従業員の健康にも配慮が求められるようになった。たまに行く有名ラーメン屋チェーンでは、禁煙席という表示があるだけで、空間は一緒のような感じである。時間限定の禁煙の店舗もあるようだ。喫茶店って、もう何年も行ったことはないのだが、まだ「紫煙をくゆらす」とかいう人いるのだろうか。

日本も早晩、受動喫煙に厳しく対処せざるを得なくなる。しかし、そうなると、喫煙を批判する根拠はなくなる。誰にも迷惑をかけない自宅などで、思う存分吸うのは喫煙者の権利である。彼らは統計的には早死にするから、非喫煙者に比べて社会の負担にならない。どんどんタバコを吸って、さっさと死んで下さいという「自己責任」の世の中になるのか。それもいいかもしれぬ。いつも、ホンマかいな?と思いつつ、説得されてしまうのがこの人の本。

自民党はリベラルで共産党は保守、なんだという。日本では40代を境にして、保守と革新(リベラル)が逆転しているという、またしても「ホンマかいな?」なデータがある。2012年12月、早稲田大学社会科学学術院准教授・遠藤晶久さんの奇妙な体験。PC画面上の世論調査を学生に回答してもらい、アイトラッカー(視線測定調査)を用いて、画面のどのあたりを見ているかを調べていた。

プログラム・ミスで、50人分の調査動画を個別認識しなければならなくなった。さて、学生は最初に自身のイデオロギー位置について問われるが、マウスカーソルはふらふらと画面をさまよい、回答に躊躇していた。次に自民党の位置を問われても同様にさまよい、回答に躊躇していた。さらに、(旧)民主党、公明党、共産党についても、回答に躊躇していた。つまり、分からないのだ

しかし、橋下時代の日本維新の会の位置を尋ねる質問では、即断で革新とクリックされた。准教授は「早稲田の学生なのに維新を『革新』と思っているのか」と落胆したという。ところが、次も、その次も同様の回答パターンを示し、けっきょく維新を保守に位置づけた回答者は50人中34人だった。

なぜこんなことになるんだと疑問に思っていたところ、2012年衆院選時のWeb調査のデータが届いた。それを年代別にしてイデオロギー位置の平均をとってみると、大学生どころか40代まで同様の認識を持っていることがわかった。こうして、【日本では40代を境にして保守と「革新リベラル)」が逆転している】ことが発見された、んだって。そんな馬鹿な~ 驚くのはまだ早い。

5年後の2017年に行われた読売新聞・早稲田大学共同世論調査ではさらに顕著で、若い世代は共産党を保守」、維新をリベラルに分類し自民党は共産党や民主党よりリベラルだと認識していたのだ。長いこと読売巨人軍新聞を購読してきたが、そういう調査結果記事を見落としていたわ~。

『遠藤晶久/ウィリー・ジョウ イデオロギーと日本経済』(新泉社)では、日本社会における政治政治イデオロギーの逆転をはじめとして、ビッグデータを駆使してさまざまな「通説」が実証的に検証されています。そこからわかるのは、「日本の右傾化」や「若者の保守化」など、当たり前のようにいわれていることのほとんどに根拠がないという驚くべき「事実(ファクト)」です。

女児虐待死事件でメディアがぜったいにいわないこと、イスラーム原理主義より深刻な問題、テロ事件の犯人が「救世主」になる理由、過労死自殺がなくならない単純な理由、……事実(ファクト)とは無関係に体感治安だけが悪化していくのは、様々な理由があるのだろうが、最も重要なことは「社会がますます安全になった」ことだと断じる著者。事実VS本能、実に興味深い。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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