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ニューヨークはアメリカで一番英語の上達に向かない街

処女作がAmazonビジネス部門第1位を記録し、ブログ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者でもある、高橋克明さん。NY在住日本人社長という肩書きもあり、海外を目指す就職活動生からも進路相談を受けることも多いのだとか。今回は日本で学生時代を過ごした女性2人との会話を例に、英語話者がいつまでも増えない日本社会の特徴を挙げ、背景にある「日本人としてのコンプレックス」を説明しています。

ニューヨークで暮らしても英語は上達しない?

先月の日本出張の際、全国各地で講演会のお仕事をやらせて頂きました。大阪での講演会終わりの懇親会でのこと。ひとりの女子大学生が「卒業したらアメリカで就職したい」と相談に来てくれました。そのために、いま英語を一生懸命勉強している、と。どうやったら英語が上達するのですか、という彼女の僕への質問は、ここの読者のみなさんがご存知の通り、いちばん困る質問です。なぜなら在米20年のくせに僕はいまだ英語苦手だから。日本在住で英文科に通っているハタチそこそこの彼女の方が、おそらくすでに僕よりキレイな英語を話すはずです。

英語上達の決め手は、それがすべてではないにしても、職種とエリアに大きく左右されます。日系社会対象の仕事でニューヨーク暮らしの僕に、英語の上達法を聞くほうが間違えている。たとえば、職種でいうと、国連勤務とか、同時通訳者とか、住まいでいうと、オハイオとか、ネブラスカに住んでいる日本人の方がずっと僕より英語達者なはずです。彼らに聞いたほうがいい。

それらの人たちは、生活するのに当然、言語が必要になってきます。生活に直結している。まちがいなく言えることは、北米の中で英語上達にいちばん向いていないエリアが、ここニューヨークだということ。世界中の言語が混在しているこの街は、英語の必要性がおそらくアメリカの中でもいちばん低い。ハッキリいうと、英語ナシでも生活できなくないからです。ワイオミングあたりだとそうはいかない。

それでも20年も暮らしていると、さすがに日常会話くらいはできるようになります。実際、ニューヨーカー相手に日々広告営業をして契約をもらっているし、毎日のようにタクシーにも乗るし、スターバックスでも注文します。そこでのコミュニケーションで困った記憶はありません。なので、日本の人からすると僕は「英語で話せる人」なのかもしれない。

でも、それは、そのニューヨーカーたちが生粋のアメリカ人じゃないから。外国人同士の第2外国語同士の会話なので、なんとか成立しているだけです。多少、発音なり単語がミスしても、理解し合える仲間内でのコニュニケーションでしかない。そう、この街は「外国語としての英語」に街全体で慣れているエリア。カタコト英語大国です。

その証拠に、絶対にコミュニケーションで間違えてはいけない、間違えると致命傷になる、たとえば、銀行とか会計士とか弁護士とのミーティングには、恥ずかしながら必ず「ペラペラ」の家内を連れていきます。

そんな僕だからこそ、前述の彼女には「なんとかなるんじゃない?」とついつい、無責任なアドバイスをしてしまう。実際、彼女の英語力だと職種にもよりますが、ここアメリカでもなんとかサバイブできなくはないはずです。それに渡米してから語学力がグンと伸びる場合も珍しくない(僕以外)。

まだまだ拭えない日本にある英語イメージ

少しだけホッとした彼女は、「でも、他にも悩みがあって」と続けます。「一緒に暮らしている彼氏がアタシが英語を勉強することをすごく嫌がって…」と。どうして?キョトンとする僕に彼女は
「彼氏は、英語なんて勉強しなくていい!オレたちは日本人なんだからって怒るんです」
「それは君と離れたくないから、アメリカに行かせてたくないからじゃないの?」
「そんなかわいい理由じゃないです」と次のことを説明してくれました。

4つ年上の彼氏は、元々外資系企業で働くのが夢だった。でも、英語力が足りず、その夢を諦めて、今は、町の不動産屋で働いている。その恨みとコンプレックスも手伝って、英語を必死で勉強する彼女を常に責め続けるようになった。それでも英語の勉強をやめない彼女に責めるだけならまだしも、最近では嫌味まで言い出す始末。

「まず、英語をペラペラで話せる奴でロクな奴はいない、偉そうだ、カッコつけてる」から始まり、とうとう終いには「英語が話せるヤツは、スペシャリストとして便利屋に使われる。オレの知っているゼネラリストは英語の話せる奴を使って出世している。英語を話せるようになると、絶対に日本社会では損する」とまで言い出したとか。彼女がある日「カメラ」のことを「キャメラ」と発音すると、その日から「おい、キャメラ」とニヤニヤしながら、あだ名をつけられた模様。

その話を聞いて、ついつい爆笑してしまった僕は「真剣に相談してるんですけど」とまず彼女に睨まれました。慌てて、「でも、それ本当の話?」と軌道修正をしつつ確認します。確かに80年代、いや、ギリギリ90年代までは、日本という国全体でその風潮はあったと記憶します。「英語をペラペラに話せる奴は鼻にかけてるイヤなヤツだ」と。でも、いま、2019年も終わろうとしてるよ。 令和だよ。いまだに、そんな奴いる?

「英語を話すやつはキザ」まではギリギリなんとなくわかっても、「英語を話せたら社会で損する」って(笑)80年代じゃあるまいし。「でも、いまだにそういう風潮がある業種や上司が存在することも事実なんです」まっすぐにこっちを見て言う彼女の言葉が終わらないうちに、気づけば僕は被せるように「じゃあ、そんな会社やめちゃえよ」と口走っていました。少しだけ暴言だと即、反省。そんな簡単に辞めるわけいかないよね。でも本音でした。

確かに、英語ができるから能力が高いなんてことはありません。だからって、できるから能力が低いってことも、また絶対にない。できないから、高い、なんて理屈はもうなにがなんだかわからない。実際にキザで鼻にかけてるヤツもいるとは思います。だからって、話せる人間がみんなそうだとは限らない。当たり前だけど。

いま、40代半ばになってまでも、学生時代に耳にした風潮がまだ存在することに少しだけ愕然としました。もちろん30年前に比べると、その風潮も劇的に風化しているとは思います。でもゼロになってないんだということに、力の抜ける思いでした。

「英語が話せたら出世しない」なんて理屈を言う人間は、逆にどんな理屈でも作れてしまうんだろうなとも思います。その人間は、もし自分が話せたら「英語が話せないと出世しない」という理論武装にすぐ変える。間違いなく変える。強引な論理を展開すれば「ITに詳しいヤツは、実は出世しない」「人心掌握できる人間は、逆に成功しない」「会計の知識があったら、むしろお金儲けできない」というロジックだって作れます、なんなら。なんでも理屈にできる。もうなんでもありの世界じゃないかとすら思えてくる。もちろん「デジタルに詳しくないと出世できない」「マネージメント力がないと当然、成功しない」「経理に精通していないと、利益はあげられない」という論理も可能。(それ普通か。笑)そんなレベルに感じてしまいます。

こと、英語に関してはマスターできていない日本人の方が圧倒的に絶対数が多いので、そんな理屈もまかり通るのでしょう。「英語が話せる人間はイケ好かない。英語が話せる人間は便利屋として使われてトップに立てない」と。なんの根拠もない。あるわけがない(笑)中2か!

英語が話せて気遣いができる人、英語ができてトップに立てる人も、当然いる。今やそんな方の方が圧倒的に多いはずです。「でも彼はかわいいじゃん。明らかにコンプレックスから来ているロジックだって、君も、そしてなにより彼自身もわかってるとしか思えないよ」少しだけ怒った彼女の機嫌をとるように話しました。

日本人はなぜ英語が話せないのか?

英語へのコンプレックスはそれ自体、しょうがない。絶対にダメとは言えない。現実問題として、歴史が日本人をそう仕立て上げました。明治以降、日本は国民全体で欧米諸国の真似をした。追いつけ追い越せの精神がそれに拍車をかけ、終戦後、そのターゲットはアメリカに絞られました。 あんなデカイ家に住みたい。あんなファッションの着こなしをしたい。でも土地が狭く、背も低いので、そうはいかない。にも関わらず、言語だけ流暢に「アメリカン」な同胞(日本人)は許せない。そう思い込むことによって溜飲を下げたのではないでしょうか。わからなくもない。

でも、致し方ない変えようのない事実として、アメリカ人に関係なく、世界で話されている言語は「イングリッシュ」です。それは、もうどうしようもない。世界100都市に実際に足を運んで英語が通じない国は、中国と日本だけでした。 その事実は変わらない。アメリカンなモノマネをする人間を毛嫌いしても、世界語を話せるヤツを嫌いになる理由は何もない。「英語が話せる日本人」を不愉快だ!と機嫌悪くなってもいいけど、その間にも、外国人は続々日本にやってくる。東京オリンピックはこれ以上ないほど、その傾向に拍車をかける。

ただ、旅行であれ留学であれ、日本に来た外国人には「日本では日本語を話せ!」という風潮も少なからずあるとは聞きます。日本に来たのだからこっちの母国語で話せ、と。なぜなら日本人が外国に行った時には、一生懸命英語で話すぞ!と。確かに日本に来た外国人は、日本人に平気で英語で話しかけます。それに対してアメリカに旅行中の日本人が現地のアメリカ人に日本語で話しかけることは、まずありえない。なので、「日本に来た時くらい日本語で話せよ」と。

確かに一理ある。僕自身、そう思わないでもない。 でもね、世界基準の世界地図を見ると、やっぱりそれは少し無理な理屈かなと思い直したりもします。日本で見る世界地図でなく、世界でいちばん使用されているスタンダードな世界地図には当然のごとく、日本は右端にちょこっと位置されています。極東の国、と呼ばれる所以です。そんな端っこのちっちゃな島で話されている超マイナーな言語をマスターしてから来てくれ、とはさすがに言えない気持ちになります。少しだけ卑屈な言い方をすると「こんな端っこの小ちゃな島国に来てくれたのだから、日本人の方が世界で話されている言語でもてなそうよ」とすら思えてしまう。

そして、なにより、その外国人も英語が母国語じゃない場合だって当然あります。いきなり英語で話しかけてきた白人が、ハンガリー人の可能性だって、英語で道を聞いてきた黒人が、ブラジル人の可能性だってある。もちろん彼らの母国語は英語ではない。日本に来てまで堂々と母国語で通そうとしているわけじゃないんです、彼ら。申し訳ないけど日本語はわからない。なので、世界語で道を聞こう。謙虚にそう思っているはずです。

だから、聞かれた僕たちもまさか、彼らに合わせてハンガリー語で、ポルトガル語で返さなくていい。そう、世界共通の言語で返せばいい。それがいまのところイングリッシュなだけです。

もちろん日本に来た観光客のために英語をマスターしよう、と言っているわけではありません。その人の年齢、職種、住んでいるエリアにも寄るけれど、生涯英語を話さなくったってまったく支障のない人生だってあるはずです。英語を話せないとビジネスマンとしてダメ!なんて誰も断定できない。と同時に話せるからダメ!ってことも、当然ない。あたりまえだ(笑)

先日、新宿である同世代の女性とミーティングをしたときのこと。彼女は、ニューヨーク生まれの日本人女性。10代で日本に帰って、それ以降ずっと東京暮らし。まずは中学校、高校でいじめにあったと聞きます。「日本語がヘタで、コンプレックスでした」とハニかむ彼女の日本語は、いまやニューヨーク生まれと信じられないほど完璧でした。ヘタしたら僕より上手かもしれない。「だって死ぬほど勉強したもの!」と笑います。

英語大好き日本人の日常会話の中には英単語が普通に混在します。にも関わらず、その単語を現地の正しいイントネーションで発音したら、そこでまずバカにされる。イジられる。彼女にしてみれば混乱したはずです。え?英単語でしょ?英単語を使用はしたいけど、発音はそのまんまじゃダメなの?と。なので、会話に出てくる英単語を正しい発音をせずに、まずは飲み込んで、日本人の発音するカタカナ英語の発音に頭で転換し、そこから発音し直した、と言います。涙ぐましい努力。なんなんだ日本人。ここまできたら世界的ジョークだ。なぜか、僕が彼女に謝ってました(笑)そんな苦労をさせたことに。

彼女の場合は日本に住むと決めたから、死に物狂いで努力した。日本だけでしか使わないカタコト英語発音もマスターした。であれば、世界にマージして国際化社会を標榜している今、世界語をマスターしようと少しくらい努力してもいいんじゃないかなと思います。彼女の100分の1でも。

もう一度言います。職種にもよるけれど、キレイに発音する必要もないと思う。文法だって多少、間違えてもいい。苦手意識も、コンプレックスを持つのも仕方ない。英語嫌い!と公言するのもギリギリセーフ。

でも居直るのはやめよう。話せなくていい!と開き直るのはやめよう。ましてや、英語が話せる人間をゴーインな理屈で下にするのは、もう終わりだ。

英語はアメリカだけの言語じゃない。世界語、地球語だと認識し、コミュニケーションを積極的にとっていこう。カタコトからでも、文法めちゃくちゃからでもいい。世界の扉にノックしたいなら、少しでも努力しよう。話せる自分になることを往生際悪く、夢見よう。

在米20年経ってもいまだ苦手で英語コンプレックス日本代表レベルの、英語だいっキライな僕が言うのだから間違いない。やっぱり英語から逃げちゃダメなんだ

image by:Shutterstock

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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