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国連決議完全履行はお題目か。制裁対象の中国船を看過する日本

毎年1月1日恒例の「新年の辞」を公表しなかった北朝鮮。国際社会が狭める対北朝鮮、対金正恩包囲網の影響が少なからずあると見解を述べるのは、メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』の著者で、北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さん。そうした情勢の中、制裁対象である中国企業の船が沖縄に入港した際、必要な調査もせずそのまま出港させていたという日本の対応を「体たらく」と問題視しています。

金正恩包囲網が胎動する中で日本は…

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、1月1日に、新年恒例の「新年の辞」を発表しなかった。新年の辞は、北朝鮮研究者には必須の文献、資料であり、金正恩にとっては自らの治世を謳歌するものであったが、今年はあえて公表しなかった(これについては前号で宮塚寿美子が解説しているので参照されたし)。

そればかりか、3日にはイランの革命防衛隊の特殊部隊「コッズ部隊」のガゼム・ソレイマニ司令官が、イラクの首都バクダットの国際空港で米軍のヘリコプター攻撃を受け殺害されるというニュースが飛び込んできた。このニュースに接した金正恩は、さぞかし驚愕のあまり、猪首(いくび)を竦めているのかと思ったら、1月8日の誕生日に工場視察などを行っており、表面上は気丈な態度を見せているとのことだったが、内心は穏やかではないはずだ。トランプ大統領との化かしあいはともかく、金正恩包囲網が展開されている。

アメリカ財務省は、14日、国連安保理決議に違反して北朝鮮労働者の海外派遣に関与したとして、北朝鮮関連の2団体を制裁対象に指定した。うち1団体は中国に拠点があり、米国内の資産が凍結され、米国人との取引が禁止されるという。ムニューシン財務長官は声明で、「北朝鮮労働者の海外派遣は、国連制裁に違反し、違法な収入を増大させている」と指摘したが、北朝鮮の非核化をめぐる米朝協議が停滞する中、今回の措置で北朝鮮がさらに反発を強めるのは必至である。安保理決議は、昨年12月下旬までに北朝鮮労働者を帰国させるよう加盟国に求めていた。

中国企業の貨物船をスルー

もう1つ、国連安保理北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは、北朝鮮で2月下旬に開かれる暗号資産(仮想通貨)に関する会議が安保理決議違反の可能性が高いとして、参加しないよう警告した。専門家パネルが制裁委員会に近く提出する報告書をもとに、「ロイター通信」が15日に報じた。

北朝鮮では昨年4月、ブロックチェーン(分散型台帳)と暗号資産に関する初の会議が開かれ、主催者は、ロイターに80を超える団体が参加したと説明している。会議に出席した暗号資産専門家の米国人はその後、対北制裁逃れにつながる暗号資産情報を北朝鮮に提供した疑いで逮捕されるという事態があった。

専門家パネルの報告書は、会議の発表に「制裁逃れやマネーロンダリング(資産洗浄)を目的とした暗号資産に関する議論が含まれるのは明白だ」と指摘している。安保理決議は、北朝鮮の核・ミサイル開発や制裁回避につながる「金融取引や技術訓練、助言、サービス、支援を提供しないよう加盟国に求めていると説明した。

これに対し日本では、国連安保理事会の北朝鮮制裁決議により、各国が資産凍結しなければならない中国企業の運航する貨物船が昨年1月に那覇港に寄港、海上保安庁が検査し、運航企業を確認しておきながら調査のための拘留など必要な措置を取らずそのまま出港させていたことがあった。専門家は、日本の対応は「明らかな決議違反」としているが、この体たらくでは日本は国際社会の場で北朝鮮の核・ミサイル問題についての発言も相手にされなくなるだろう。この中国企業は2017年8月の国連安保理決議で全面的に禁じた北朝鮮産石炭の取引に関わったとして制裁を受けていた。

密輸船を巡っては、韓国政府が18年8月以降に入港禁止とした複数の船舶が措置後30回は能代港(秋田県)を含む日本各地に入港が判明しており、この船は、その中の一隻であった国連決議の「完全履行」を掲げる日本が核・ミサイル開発の資金源となる石炭密輸船の活動を事実上、看過していた実態を裏付けるものであった。金正恩体制への国際社会の包囲網が少しずつ狭められてきている昨今にである。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

image by: Catstyecam / Shutterstock

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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